7月30日(木) ~シュンのひみつ日記
「昨日はやり過ぎたけん、もう佐古さんこりて来んやろうな」
と、タケちゃんが言ったらその通りになった。喜んでたと思うんだけどな。
「じゃあ、こっちから乗りこんでやろうぜ」
ぼくたちはフェリーで向こう側に渡って、バスに乗って西新まで行った。
ザコ兄がバイトをしているコンビニは知っている。むっちゃん万十の近くのローソンだ。前にザコ兄がバイトの休けい中に、おごってくれた。
「あ、おった。バイトしようばい」
外から店の中をのぞいたら、制服のザコ兄がレジで接客をしていた。いつもヘラヘラしているのにまじめな顔なので、なんかおかしかった。
「よし、きりこみ隊長ノブ、行ってこい」
「分かったー」
ノブは、きりこみ隊長という呼び方が気に入ったらしい。言われた通りにレジへ行って、「からあげくん下さーい」と言った。
「あれ? ノブやん。どげんしたとや? ひとり?」
ノブは、ケツにさしていた水鉄砲をザコ兄に向けて、はっしゃした。
「うわっ! やめんや! おい!」
「じょおうさまのせいすいを、ありがたくあびろ!」
ノブは、タケちゃんから教えられたよく分からんセリフをそのまま言った。
ぼくは、外からそれをカメラで撮った。ザコ兄がぼくたちに気付いて、走って追いかけてきた。
「待てシュン! ぼてくり回すぞ、きさん!」
「逃げろ!」
ユイの手をとって、いっしょに走った。ちょっと逃げたらもう追ってこなくなった。店に人がいなくなるからだ。
あとで店にもどったら、ザコ兄はびしょぬれのまま接客していた。
「かわいそう。けど、めっちゃうける」
ユイは楽しそうに笑った。その顔をぼくは、カメラで撮った。
タケちゃんはそのまま、薬院に帰っていった。ぼくとユイとノブはフェリーで島へもどった。「お前、自分の家帰らんでいいとや?」と聞くと、「まだ帰れん」とユイは答えた。
「家、どこにあると?」
「えっと、東区のあたり」
フェリーでもっとしゃべりたかったのに、ノブのバカがじゃましてくる。
晩ご飯の報告タイム。蓮姉はあいかわらず「別に」しか言わない。ぼくは、「ザコと遊んでやった」とテキトーに言った。
「佐古くん、島にもよう来ようみたいやね。もうだいぶ前に実家もなくなったとに」
と母ちゃん。親がりこんして、どっちも島を出ていったらしい。りこんは、けっこんの反対らしい。
「何もないのに、なんで島に来ると?」
「さあねえ。思い出とか、あるっちゃない? 知らんけど」
そしたら父ちゃんが焼酎を飲みながら、「あいつなあ」と言った。
「いい歳こいて、ぷらぷらしてからくさ。中洲で悪かやつとつるんどったしな」
「なんで知っとうと?」
すぐに母ちゃんがきいた。
「中洲、また行ったん?」
「行ってない」
「ミカさんとこ?」
「さあ」
急に父ちゃんがそわそわしだして、焼酎をがぶ飲みした。今までで一番、鼻の穴が大きかった。