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【第12話の③/⑯】レモン亭 /小説


 レモン亭の謎に挑むと決めた以上、川村さんに嫌われず期待に応え続けなければ、彼女との時間が減ってしまう。それではうなじを見れるかもしれない機会が減り本末転倒というものだ。

 俄然やる気がみなぎり始めてきて俺は改めて川村さんからレモン亭のことをさっきよりも詳しく教えてもらった。なるほど、川村さんがいうようにこれだけ規則性があれば何かあるのは間違いない。まずはレモン亭に行くのがよいだろうと、いうことになり川村さんがバイトに入っていてめったに予約が入らない月曜日を狙って行くことになった。

 100円の缶コーヒーが贅沢な身としてはコーヒー一杯に何百円も出したくないのが本音だが、これは先行投資だと自分に言い聞かせた。今日は木曜日なので再来週の月曜日に行ってみることを約束した。聞くにレモン亭は寺町二条の交差点から寺町通りを少し北にのぼった所にあるそうで、下宿から自転車で行こうと思えば行ける距離だ。


 その夜、小森と久本と一緒に俺の家で麻雀を楽しんでいた。最近は、こいつらと一緒につるむ時間が増えてきた。大学受験の塾の仲間で、皆違う大学に進学したのだが、下宿先は近所通しで、偶然京都の街でばったり会ってなんとなく遊ぶようになった。小森は皆と同じように生きている自分のことが嫌いで周りの普通の大学生がするようなことはまずしたがらない。久本は最近は大学に殆ど行かず地球だ環境だに夢中だ。文学部から転部したほうがいいんじゃないかと思うくらいの熱の入れようである。


 まあ、こいつらは絵に描いたような大学生ではない。そんな俺も王道といえるレールの上を進んできたが、そのレールの上にあるキラキラした学生像を頑張って体現しようとしている奴らを見て仲良くなれないな、と心から思っている。無理してまで、いい服買ったり、美味しいレストラン行ったり、旅行したり、男女の交流をしたり、社交的でありたくない。要は俺たちは皆んなアウトロー気味で、きっとそこを共感しあってるのだろう。


 酒も進んだこともあるだろうが、思い出したかのように今日川村さんからお願いされたレモン亭のことを話した。
「ふーん、それでその面倒くさそうなお願いをどうすることにしたわけ?」興味なさそうに小森が聞く。
「俺なりに謎解きしてみようと思う」とお酒を口に含みながら答える。
「嘘でしょ?お前が他人のために一肌脱ぐってどういう風の吹き回しだ?」久本は何も言わないが、ごもっともと言わんばかりの顔でこちらを見ている。
「いや、実はな・・・」心の知れたこいつらについ川村さんのうなじに心を鷲掴みにされてしまい、うなじに夢中になっている話をした。
「なんだよ、武田もそういう女の人いるんだな、もっと早く言えよ。急に興味がでてきたぞその話」そう、小森はバイト先に気になる女の子がいて俺たちは何回かその子をバイト先までお客のふりをして見に行ったことがある。俺たちは土井ちゃんって呼んでいて、その子は少し地味な感じだけど、小柄でショートヘアーが似合っている可愛らしい子である。


「おい小森、武田が夢中になっている子、見に行こうぜ。」と久本。小森は、いいねぇとその誘いに乗る。一人でレモン亭に行くのがずっと不安だったのでこいつらも一緒に来てくれたら頼もしい。ちょうど川村さんも見れるし乗ってくるだろうと算段のもと、再来週の月曜日にレモン亭に一緒に行かないかと誘ったところ、行くとのことだ。ただしコーヒー代は俺のおごりになってしまった。背に腹は代えられない。


「ちなみに川村さんのことをラブとかとは違うからな」となんか勘違いしてそうなので釘をさす。
「こいつ、照れてんのか」とニヤニヤして二人とも取り合ってくれない。

(続く)

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