【第11話の5】とあるファミレスのお昼時 ~カップル編
今回の1分で読める1000文字小説は、ファミレスにご飯を食べに来ていたカップルの視点で見た変哲もないファミレスの日常が舞台です。虫嫌いの静香が席を離れてもう大分と経ち、注文していたケーキはすでにテーブルに運ばれている。あろうことか気づくと黒い羽虫がケーキに止まっていて這っている。第11話の1でウェイトレスを巻き込んだちょっとしたアクシデントにふんわりとこのカップルのテーブルも関与している
1000文字小説
うるさくて電話がよく聞こえないといって静香は店を出ていったはいいが、なかなか戻ってこない。さっき注文したベイクドチーズケーキが運ばれてきたぞ。仕方がないので静香が座っていた席の前へケーキを動かす。誰も座っていない席の前にケーキが置かれただけのテーブルをみて人によっては変にすら思うかもしれない。早く戻って来いよほんと。
時間つぶしに操作しているスマホ越しにケーキをちらっと見るとケーキについている何か黒いものが気になった。なんだろう、とじっと見ていると動いたように見えた。うん?黒いものをじっと見る。動いたように見えたのは気のせいだったか。前のめりでじっと見る。動いた。あっ、あれは虫じゃないか。どこからか飛んできた羽虫がケーキに止まったのか。よりによって静香は大の虫嫌いときた。気付かなければ大丈夫。静香が戻ってくる前に虫を追い払ってやろうかとも思い体が少し動いたが、少し静香にイラついていたこともあったろう、もう少しこの虫のこれからを見守ることにした。
じっと見ていると虫は少し動いてはじっと止まるということを繰り返している。チーズケーキのエキスを吸っているのだろうか。しかしよく落ちずに止まっていられるもんだ。6本の足がケーキにぐっと食い込んでいるのだろう。ますます食べたくなくなる。もうこれは当てつけ以外何ものでもないだろうが、とっさに何も知らない静香の前で衛生的に問題のないケーキを食べてやろうと思ったのだ。ここのチョコレートケーキは美味しい。
「すみません」ちょうど横目に店員が通ったのが目に入ったので声をかけて通り過ぎた先を向くと、なんとでかいパフェを運んでいる。悪いことしたかな、と思ったとたんワッとウェイトレスが言ったその向こうから静香が戻って来た。え、何があったと思うくらい色んなことが一気に起こったように見えた。
「ごめん、遅くなって。さっき倒れそうになったパフェを手で支えて救ってあげたわ。びっくりした。突然子どもがぶつかってきてバランス崩したのね。私も当たられたわ。」驚いたままの顔でケーキが置かれた席に座る。
「よくとっさに手が出たね。」
「ほんとね。パフェを楽しみにしてる素敵な女子をがっかりさせずにすんだわ。電話のことだけど、家の窓の件、業者が対応してくれることになったの。一人だと怖いからその日一緒にいてね。ケーキって結構前に来てた?」そう言って静香はフォークを手に取った。