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【第9の1話】渋谷スクランブル交差点 サラリーマン編

今回の1分で読める1000文字小説は、渋谷のスクランブル交差点が舞台です。出張で東京に来た主人公は、だいぶと前から渋谷のスクランブル交差点に魅了されていた。久々に東京にやってきて、今まさにスクランブル交差点の赤信号を待っている。あと少しで信号が青に変わろうしている。


1000文字小説

 あと1分くらいだろうか。いいぞ、だんだん人も増えてきた。今回はどんな人がいるだろう、ワクワクがどんどんふくらんでいく。まだキョロキョロするのは我慢しろよ、青に変わって歩き始めてからだぞ俺。ここ渋谷のスクランブル交差点ほど心ときめく交差点があるだろうか。


 東京に来るときは何とか時間をつくって渋谷のスクランブル交差点を渡るようにしている。なにせ普段の繰り返しから抜け出ない日常のなかではまずお目にかかれなような人たちがたくさんいて、もうなんというか嬉しいのだ。

 車であれ徒歩であれ交差点や信号付きの横断歩道は、ただただ進行を遮られる場所であって楽しいとは対極になるような場所だ。しかし渋谷のスクランブル交差点は別だ。喜んで赤信号を待つ。周りの目さえ気にしなければ連続で行ったり来たりしたいくらいだ。多様な格好をした人が一気に渡る交差点はエンターテインメントの感すらある。


 品川や東京駅等の通勤ラッシュの時間には、たくさんの人がどーっと歩いてくる場所はある。みんな同じようなヘアースタイルや服装で出勤していくビジネスマンの大行進は何も楽しくはなく、むしろ人の多さがとてもストレスだ。



 さて、もう少しで青に変わりそうだ。よし、変わった。いいぞスクランブル交差点を待っていた人たちが一気に横断歩道を渡り始める。さあ、どっちに行こうか。この交差点はまっすぐ行かなくてもいい。左の方に行っても良し、右のほうに行っても良しだ。


 よし今回は右の方に向かって斜めに歩いて行こう。横断歩道の向こう側にいた人達がこちら側に向かって歩いてくる。なんだあの格好の女性二人組は、ゴスロリってやつか。その少し後ろには短すぎるだろと思わず口にでそうなくらいマイクロミニスカートの女性がとても高いヒールで歩いてくる。カツカツという音が聞こえてきそうだ。全身を白で決めたペアルックのカップルもいる、しかし靴をふくめ真っ白だな。なんだあの奇抜なTシャツは。蛍光色のオレンジ背景に黄色の大きい何かしらのロゴがあしらわれている。あのオッサンはどこであれを買ったのだろう。


 集団のすれ違いはあっという間に終わり横断歩道を渡ってしまった。いやーあっという間だったが、今回も普段の私の生活圏のなかではまずお目にかかれない人がたくさんいたもんだ。あまり時間がないけどぶらっと渋谷の街を歩きながらこのちょっとした興奮をクールダウンさせよう。帰りも楽しみしかない。

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