咬む事は生きる事
私たち歯科技工士はお口の中の機能を回復するための補綴物を作る仕事を しています。
昔こんな経験をした事があります。
20年ほど前に口腔介護事業(いわゆる訪問歯科)と言うものが始まった頃、歯科医師と同行しある介護施設に訪問しました。 そこでは何十人ものお年寄りが生活されていて、そこで移動型歯科診療を行うと言うものでした。
主に行うのは簡単な歯の治療、口腔内ケア、入れ歯の修理です。
まずはお口の中のチェック、先生の横でお手伝いをしながら見ていると 入れ歯を外して…びっくり!! 口蓋(入れ歯の裏側)に那智黒飴が!!😱 しかもかなり歯垢で汚れている!! 部分入れ歯はほとんど外した事がないのか歯石で固まってとれないっ!! 総入れ歯の人で上下で違う人の入れ歯が!!😱😱😱
当時はまだ口腔介護と言う意識のうすかった時代 生活介助、おむつ交換、食事介助といった介護の中に口腔介護と言うものが認識されていなかったんですね。入れ歯を洗うのもバーっと集めてまとめて洗って戻す。という作業だったようです。
そんな折、あるヘルパーさんから 「どれが誰の入れ歯かわからなくなるんです」とお困りのようで… そこで始めたのが『入れ歯のネーム入れ』マジックで入れ歯に名前を書いてある人もおられましたが洗っていくうちに消えてしまうんですね。 なので名前シールを入れ歯の中に埋め込んでしまったのです!そのおかげで間違えることも無くなったようです😄
入れ歯を長いこと使っていると噛み合わせが合わなくなってきたり、合わなくなって痛みが出てきたり😩 入れ歯が壊れてしまっていたり そういった入れ歯の調整なんかもその場でしていました。 先生と力を合わせて入れ歯を修理していきます。 何度も何度も調整を重ねて仕上げていきます。
何度か訪問を繰り返すと利用者さんが少しふっくらとしてきている。 「最近ご飯が美味しく食べれるんです」 この上ない褒め言葉。 私たちはその一言のために補綴物を毎日精進している。 立ち上がることが一苦労と言われていた方が歩けるようになったと! そんな奇跡が!!
人間はたった1本の歯が欠損しただけでも体のバランスは崩れていきます。欠落した部分を補うために他がカバーしようとする。 お年寄りなど多数歯欠損になると尚のこと…噛み合わせがなくなると体の力が入らなくなってしまうんです。 その欠落した部分を修復するとそんな奇跡が起こるわけなんですね。
噛めなくなると食事ができなくなります。 食事ができなくなると健康ではいられません。 健康でなければお出かけもできません。 歯がないと笑顔にもなれません。
そんな方々の悩みを解決していくのが私たち歯科技工士の仕事です。
『咬む事は生きる事』
また明日も笑顔を作っていきます。