(勝手に) IR Advent Calendar 前夜祭 「IR活動に意味はあるのか」
はじめに
IR Advent Calender は、現在ツクルバにてIRをやられている重松さんが、IT業界でよくやられているAdvent Calendar をIRでも、ということで企画されたものです。
本来は明日からクリスマスまで、各社のIRの方を中心に、機関投資家、証券会社のアナリスト、個人投資家、独立系リサーチ会社等関係する方々が毎日何かしらの記事が投稿されていく予定です。 IR Agents のTwitterでも毎日RTしていきたいと思います。
さて、「明日からならじゃあこのnoteって何なの」って思われる方がいるかもしれません。真っ当な話です。
それは単純に僕が重松さんのお誘いに乗り遅れて、予定が全て埋まった後、「折角だし何か参加したいな、じゃあ前日に何か書くか、"""勝手に"""」と思い立ってのnoteです。すなわち「IR Advent Calendar (勝手に) 前夜祭。
明日からの本番が待ちきれない人は勿論、暇な方、たまたまこの記事を見かけた方、寝る前の軽い読み物を探していた方、ちょっと面倒な現実から何かしら逃げる先を探している方など、兎に角時間がある方は目を通していただければ幸いです。
自己紹介とnoteを書くに至った訳
ご存じの方は読み飛ばして頂ければ幸いですが、一応少しだけ自己紹介を。
僕は元々新卒から資産運用会社に入って、日本株の運用をやっていた人間です。最初はアナリストをやって、新卒で入ったところから転職してポートフォリオマネージャー (日本株ロング・ショート)をやっていました。
その後勤めていたところが日本株を撤退する、となった時、「まだ取返しが効く内に違うことをやってみたいなぁ」と思い、IR Agents という「IR取材をベースとする、投資家向けの情報提供を行いつつ、企業側のIR活動のサポートも行う」会社を作って約1年強、今現在も右往左往しています。
実は今回書く話は、このIR Advent Calendar 用という訳ではありません。
新卒から投資家側を見てきて、ここ最近は企業側からも少しだけモノが見えるようになった (気がする) 身として、どこかで書きたいな、と思っていた話題のアウトプット先として丁度良いきっかけがあったというのが正しいところになります。
そのトピックは、タイトルの通り「IR活動に意味はあるのか」。
このIR Advent Calendar の前夜祭としては中々刺激的ではないでしょうか。
1. なぜ Investor "Relations" なのか
「株価は業績が伴えばついてくる。IRをやる必要はあるのか」
この仕事を始めて以来、投資家側からも企業側からも良く聞くフレーズの一つです。
これを聞く度に「まぁなー、事業があって株価があるっていうのは間違っちゃいないし、IRで株価を上げるのはー、結局業績が上がれば株価は上がる、みたいな言い分も分かるんだけどなー、うーん」という気持ちになります。
そもそもIRとはなんでしょうか?
財務報告? 決算説明資料? 適度にリリースを打って市場から飽きさせないこと? キャッチーな言葉を使って目を惹くこと?
よくある日本語訳は「投資家向け広報」です。
投資家向けに広く報せること、なんとなく間違っていないような気がしつつも、本質を捉えているかというと少しモヤっとします。
そもそも IR は何の略かというと Investor Relations のそれぞれの頭文字を取ったものになるのですが、この Investor Relations という言葉、少し変わったことばじゃないでしょうか。
改めて調べてみたのですが、こういった形で IR という言葉の意味を掘り下げている話はどうにも僕の拙い英語力 (そして英語検索力) では見つかりませんでしたが、なんとなくの手がかりになりそうな2つの言葉がありました。
それは「広告 (Advertisement)」と「PR (Public Relations)」の違いです。
この2つは、業界の中でもしっかりとした意味の使い分けが意識されていて、その差異について多くの説明がありました。
それは、大きく分けて「方向性」と「目的」の2点です。
広告は「此方から彼方へ、一方向に向けたもの」であり「ターゲットとなる相手に、此方が意図する明確なメッセージを届ける」こと。
対して、PRは「双方向のコミュニケーション」であり「公衆 (Public) と相互の利益をもたらし合えるような良い関係性 (Relationship) を築く」こと。
ざっくりとまとめると、このような説明になっていました。
ここまで来て、僕はふと「あぁ、Investor Relations って最初に名付けた人は中々だな」と思いました。
PRの例に倣えば、IRの本質とはただ単に自社の魅力を伝える、自社の株を買ってもらう、あるいは自社の株価を上げるという話ではなく、「投資家と相互の利益をもたらし合えるような良い関係性を築く」という思いが言葉を付けたひとにはあったのではないでしょうか。
ここの段階で、冒頭の「業績を上げれば株価はついてくるのにIRをやる必要はあるのか」について戻ってみます。"IR"という言葉そのものに立ち戻って考えると、「ある。そもそも株価の問題ではなく、ステークホルダーの一人である株主とどういった関係性を築こうとするか、その姿勢の問題だからだ」と言えるのではないでしょうか。
2. 事業がつくる価値と資本市場がつくる価値
"Relations"という言葉が秘めるIRの意義について説明したところで、また一つの問題提起が出てきます。
それは、「PRがつくる価値は市場におけるブランド価値であり、ポジティブな感情を持って選ばれる存在になること、それはひいては業績につながるのだろう。ではIRがつくる価値とは?」ということです。
「IRは結局自己満足」とか「IRにかけるコストがあれば事業に使うべき」とか、これも色々言われます。ただ、事業が作る価値に比べて見えにくいだけで、IRが作る価値というのは実は事業が作る価値と並んで大きいものだ、と僕は説明しています。
ビジネスそのものが作る価値というのはとても分かりやすいです。いわゆる「お客様の課題をどう解決したか」「お客様にどんな利益を与えたか」「どれだけの雇用を創造したか」といった話です。否定の余地なく、ビジネスが存在するからこそ経済は成り立っています。
ただ、IRが作る価値は「事業が創造する価値」とは違い、「資本市場が創造する価値」です。日本における本質的な金融教育の不足も踏まえて、ここに大きな誤解、あるいは価値の見逃しが存在しているけれど、実態としては極めて大きな価値を作り上げている、というのが僕の認識です。
実際のところ、資本市場自体が、「何かしらの人の課題を解消し、課題解消に対して対価を得る」ということはしていないと思います。では何をやっているのかといえば、資本市場は資本を介した分配を通して価値を生んでいる場です。
サービス・財の原価や賃金はどちらかというと需給で決まります。財やサービスの原価や、人件費について、「今年は利益が出ているから上乗せで払うよ」とか、「今年はうちは儲かっていないから8掛けで払うよ」とか、多少はあるのかもしれませんが基本的には限度があります。
そうすると、事業の付加価値の大きさや、市場環境次第ではいわゆる利益が溜まっていきます。良いことです。
一方で、これは市場・経済に流れないことには完全に死んだお金です。寿命のない会社が延々と貯金し、使われて誰かにとっての収益になることなく、ただの数字として残り続けます。
ですが、先程説明したように、利益が出た、出ないを柔軟に財やサービスの対価に転嫁したり、人件費を上げたりとかで経済に還流することは出来ません。 (ある程度は賞与とかでされることもありますが、完全に分配し尽くすという意味で)
そこで、最終利益の分配が、株主、あるいは資本市場を通して行われることに価値が出てきます。
資本市場を通して、誰もが各々好きな企業の株主になり、配当や、あるいは業績の成長を通して上がった株価を通して分配を得ます。会社に死蔵されずに分配されたお金が消費に回り、経済を回し、巡り巡ってまた企業の成長に繋がります。勿論幾つか説明しきれていない理想論ではあれど、大きくはこのような形で回っています。
簡単に言えば、時価総額が100億上がれば、それはただの数字ではなく、紛れもなく株主全員の資産が100億増えています。株価は将来性まで織り込んで動くので、100億の時価総額が上下するのはそれ程珍しくありません。
一方で、事業で100億円の利益を作り出すのは極めて難しいことです。それだけ、資本市場というのは事業に負けない、なんなら事業を凌駕する価値創造の場にもなる、というのが僕の考えです。
勿論、資本市場が創造する価値は、そもそもの事業が存在しないと成り立ちません。事業が生み出す価値があり、その先に資本市場が価値を創造する場があります。そういった意味では、どちらも極めて大事な観点です。
3. "良い資本市場"
それでは最後のチャプターです。
「株価は業績が伴えばついてくる。IRをやる必要はあるのか」
「事業と違って課題を解決しないIR活動に価値があるのか」
こういった話を見かけてIRの価値とは何か、について疑念と不安を抱くことがあるかもしれません。
ただ、これまでの説明から分かる通り、経済システムにおいてこれだけ価値があることについて、むしろ必要性や価値は議論するまでもない、というのが僕の考えです。
むしろ、特に上場企業にとって、社会・経済を構成する一員として、企業のIR活動は経営責務のレベルになります。勿論、それに対して投資家側が真摯に取り組むことも果たすべき役割です。
ちなみに全米IR協会 (NIRI) もIR活動の定義の中で「IRは戦略的な経営責務である」と述べています。
事業と違い資本市場は新しくものを生み出すことは出来ないけれど、適切に評価がされて、お互いに利益を生むような良い関係性が作られることによって、資本収益・分配を通して、事業の価値が最大限に発揮されそれが社会全体に波及していく。
こんな状態をとって、僕は「良い資本市場」と呼んでおり、目指したいところだと考えています。
そして、この「良い資本市場」を作り上げていく中で、中核になるのはやはりIR活動ですし、どのような方向性でも、資本市場の価値を損なわないのであれば、それはとても価値があることだと僕は考えています。
おわりに
長くなりましたが、お伝えしたかったのは「資本市場の作る価値、そしてIRの価値を改めて捉えなおそう」というお話でした。
前夜祭として放り込むには堅苦しい話になりましたが、どこかでしっかり描きたいなと思っていたお話です。
今回の IR Advent Calendar もそうですが、投資家との関係を築く、という観点でTwitterにいらっしゃるIR担当者の方々は本当に前向きで凄いです。間違いなく良い資本市場の最前線で戦っている方々だと思っています。
その他、IR以外の立場からも色々参加されている IR Advent Calendar の本編ですがいよいよ明日から始まります!
2022年の締めくくりに向けて楽しんでいきましょう!
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?