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NET FLIX版「呪怨 呪いの家」を観て思ったこと

表題作のさまざまな感想がネット上で論じられているのを見て、ホラーファンとして黙っていられず筆を執った。


1.現ホラー業界における「呪怨 呪いの家」の優位性

私自身もこの作品について思うことは多々あるが、この作品の賛否を語る前に、このような形で「呪怨」というテンプレートをリブートしてくれたことについて制作陣とNET FLIXに心の底からの感謝と敬意を送りたい。

見出しの通り当作品は以下の点に於いて他の作品と一線を画している。

・客寄せ俳優の不在

・ホラーファンへのサービスとしてのユーモア要素の排除

前者について、

いつからか、ホラー映画やドラマはモデルから、あるいはアイドルから女優への転身の登竜門的な位置づけとされている。

そんな中客寄せのキャスティングを排除しあくまでもストーリーテリングの邪魔にならない、良い意味でのMOB感のある配役にはスタッフ陣の鉄の意思を感じ取ることが出来た。

また、後者について、

伽椰子や俊雄等の人気キャラクターありきの展開、ホラーファンへのサービスとも内輪ウケとも言えるようなネタを用いたユーモアシーンも当作品にはまったく見受けられなかった。

心の底からホラーを愛している私から見て、現在の日本のホラー業界に於いてこの二つの要素を排除しきれている作品は殆ど皆無であるといえる。

二点を統合してわかりやすく言うと、このドラマは「商業的」な要素が抜けている作品である。

これにより、筆者としては監督の語りたい「呪怨」をよりダイレクトに感じることが出来た。通常配給作品や地上波放送よりは商業的成功を求められないNET FLIX故の作りであると言えるだろう。

念のため記しておくが、私は上記二点を擁している作品を否定的に見ているわけではない。

例えば、キャラ物の最たるものといえる白石晃士監督の「貞子vs伽椰子」も、あるあるネタ満載の(洋画ではあるが)「キャビン」も楽しく視聴できた。

あくまでもホラー業界の中で分派的に存在するべき作品がメインとして躍り出てしまい、表題作のような直球勝負のホラー作品が非常に少なくなってしまっているのを危惧しているのだ。

私は強く思う。

出来不出来を語る以前に、この趣向の作品が堂々と公開されたこと自体をホラーファン全体で喜ぶべきである、と。


2.「呪怨 呪いの家」の良かったところ

ここまではなるべく俯瞰的な評論を心掛けていたが、当頁よりより個人的な感想について記すため主観的内容になってしまうことをご容赦頂きたい。


・呪いの根本として「家」自体に着目した点

前述の通り当作品は伽椰子や俊雄といった今まで呪怨ワールドの主軸となっていた人気キャラクターを排除している。

あくまでも呪いの根本は「家」であり、それ故に呪怨としてのホラー要素を一から再構成する作りとなっている。

そもそも旧シリーズ呪怨のようには呪いが発生した理由も事細かには判明しておらず、呪いの根本に共感や憐憫を感じることは一切できない。

ただ厳格にそこに存在し、呪いをぶちまけるだけの装置となった「家」の様子を見るのは非常に爽快な映像体験であった。


・規制抜きの表現たち

これもNET FLIX故の利点であると言える。フルスイングのゴア表現に加え、セックス、レイプ、売春もあり、子供だろうが何だろうが見境なく不幸になっていく様をふんだんに楽しむことが出来る。

その特性上ホラー作品は規制とのギリギリの戦いが常に強いられるものであるが、当作にはその様な思案は一切感じられない。

「ホラー作品としてこうあるべき」という監督の頭の中をノーフィルターで感じることが出来た。


・複雑なストーリー性

これについては過度なネタバレになってしまうので深く語るつもりはないが、「あー、ここで前話のあのシーンがつながるのね」といった様な発見をしながら全六話まったく退屈することなく視聴することが出来た。

群像劇としての登場人物の展開も非常に先が気になる出来だった。

最終話まで残り時間を気にすることなく見続けられるほどには熱中した。

複雑な構成の答えをまだ私は導き出せてはいないが、再視聴し新たな発見を楽しみたいと思わせる作りになっていた。


・女優が可愛い

主役格の黒島結菜さんも里々佳さんも視聴まで存じ上げなかったが、かなり可愛かった。


3.「呪怨 呪いの家」の気になった点

・恐怖表現の陳腐さ

ホラー作品の根幹ともいえる恐怖表現を気になる点として挙げてしまうのは心苦しいが、どうしても目を背けることが出来なかった。

ちゃんと「怖い」ドラマとして怪異がどの様に表現されるのか、旧シリーズで怪異の中心を担ってきたキャラクターを排除した当作でどうなるのか興味深く視聴したが、結果残念な出来であったと言わざるを得ない。

女の幽霊のビジュアルも中途半端なものだし、胎児のシーンもどこからどうみてもCGであり失笑物であった。

リアリズムの追及の結果キャラクターを排除した上の怪異がこれでは代替として充分とはとても言えず、伽椰子の不在を悪い意味で印象付けられたとすら思えた。

旧態依然とした怪異シーンを下位互換として導入するのであれば、あくまでおどろおどろしい人間たちの関わり合いのみで呪いを表現するべきであったと私は感じた。

当作の監督である三宅唱氏はホラー作品へのチャレンジが初めてであったということなので、次回作に期待したい。


・度々見受けられる露悪主義

これについては良かった点として挙げた規制無しの表現と表裏一体の問題であるので言及が難しい部分ではある。

私は映画だろうがゲームだろうがホラー関係のジャンルには手あたり次第食指をのばしてきたため、こういった表現にはかなり耐性のある方だと自負している。

そんな中で当作はまあまあ攻めた表現をしていると感じたのだが、一点、「度々現れる現実の事件との関わり合い」に明らかな露悪主義を感じてしまった。

劇中のテレビに映ったニュースで「女子高生コンクリート殺人事件」や、「神戸連続児童殺傷事件」等が報道されているのだが、まったくストーリーの展開とは無関係である。

扱われる事件の種類もネットの「猟奇事件まとめ」や「残虐事件まとめ」に載っている類のものばかりで、あたかも「ホラー好きはこういう内容に心惹かれるんだろ」と言われたような見透かされた不快感があった。

また、前項で良い点として挙げたゴア表現も見る人によっては過度である範囲に入るかもしれない。


4.まとめ

ここまで長文でつらつらと述べてきたが最も伝えたい主張は1項目で述べ切っている(最後まで読んでくれた方には申しわけないが)。

本格趣向のホラー作品がこのご時世に生まれるのは非常に喜ばしいことでありる。

当作は閉塞的になってしまったホラー業界に対する明らかなブレイクスルーであり、ジャパニーズホラーの復権の旗手ともなり得るコンテンツであると思う。

皆様がそのことに敬意を表した上で語り合ってくれるのであれば私は本望であり、もっと沢山のホラー作品が日本で生まれてくれることを願いたい。