Quantifying Hidden Information
2023年度研究会推薦博士論文速報
[ゲーム情報学研究会]
Troillet Lucien
邦訳:隠れた情報の定量化
【背景】研究対象としての不完全情報ゲームへの注目
【問題】ゲームにおける不完全性を説明する言葉の不足
【貢献】不完全情報ゲームを説明する新しい概念「Visualization」と「Impact」の提案
不完全情報ゲームとは,ゲームの中で起こることが完全には分からないゲームです.たとえば,じゃんけんでは相手が何を出すか分かりません.ポーカーでは相手の手持ちのカードが分かりませんし,コイン投げでは結果がランダムで事前には分かりません.これらはすべて不完全情報ゲームの例です.不完全情報ゲームの基本的な特徴は,プレイヤーが取った行動の結果が確実には分からないことです.最近,ゲームAIの研究で不完全情報ゲームが注目されていますが,それを説明するための言葉がほとんどありません.
完全情報ゲームでは,状態空間(ゲームの状態の数)や行動空間(取れる行動の数)を使ってゲームを説明します.しかし,不完全情報ゲームでは,これらだけでは不確実性を表すのに不十分です.
そこで,本研究では不完全情報ゲーム,特に隠れた情報があるゲームを理解するために新しい概念を2つ導入しました.
Visualization(隠れた情報の可視化):プレイヤーが見えない情報を推測する能力を表します.
Impact(隠れた情報の影響):プレイヤーが隠れた情報を無視してもどれだけ上手くプレイできるかを表します.
簡単に言うと,Visualizationはプレイヤーが相手の手札を読む能力に関係し,Impactはその情報がゲームの勝敗にどれだけ役立つかに関係します.
この概念を使って,特定のタスクで訓練されたエージェントの能力を測る方法を提案しました.ケーススタディとして,中国で人気のカードゲーム「闘地主(DouDizhu)」を選びました.このゲームには複数のバージョンがあるため,同じ訓練アルゴリズムでもVisualizationとImpactに違いが出ると考えました.
結果として,「闘地主」の3つのバージョンではVisualizationとImpactに違いが見られました.特にImpactについては,バージョン間の違いは小さいものの,統計的に有意な差があることが確認できました.さらに,「闘地主」では,プレイヤーのスコアは隠れた情報よりも初期の手札に強く影響されますが,Impactに有意な差はあるもののImpactの値そのものが小さいことから説明できます.
この結果から,新しい概念「Impact Sparsity(隠れた情報の影響の疎性)」を提案しました.これは,隠れた情報の影響が頻繁に起こるか,稀にしか起こらないかを表すものです.
本研究は,不完全情報ゲームの理解を深めるための一歩であり,今後重要性が増していく不完全情報ゲームを説明するための基礎となることを期待しています.
(2024年5月31日受付)
(2024年8月15日note公開)
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取得年月:2023年9月
学位種別:博士(学術)
大学:高知工科大学
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研究生活 何にでも興味を持ち,学びたいと思う人間だったので,私にとって博士課程へ進むのは自然な成り行きでした.研究を始めたときにはテーマは決めていませんでしたが,最終的には自然と決まりました.他の研究者が特定のゲームを研究する理由を見つけようとしても,自分を納得させる答えが見つからなかったのです.そこで,特定のゲームでより良い成果を上げることよりも,ゲームとその問題に対する新しい見方を作り出すことで,ゲームに対する理解を深めることに焦点を当てることにしました.
私の研究は,従来ゲーム研究の意味でのインパクトは大きくないかもしれませんが,科学全般を進歩させるために必要な,有用な仕事だと思っています.世の中を変えるようなすごい研究をした研究者だけが注目されていると感じることがありますが,私は既存の問題を見つけて解決しようとする基礎研究を行う人がもっと必要だと思います.科学の領域の発展において基盤をより確固たることが重要だと信じています.