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自分の可能性をひらくためのバーチャルリアリティ研究
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鳴海拓志
(東京大学大学院情報理工学系研究科)
受賞タイトル
Outstanding Research on Human Augmentation with Virtual Avatars
このたびはIPSJ/IEEE Computer Society Young Computer Researcher Awardを賜りましたこと,大変光栄に存じます.本賞へのご推薦をいただきましたエンターテインメントコンピューティング研究会の皆様,ならびに研究室メンバー,共同研究者の皆様に心より感謝申し上げます.
私の研究は,バーチャルリアリティ(VR)において多感覚情報を効率的に提示するための研究から出発しました.次に,そのような多感覚情報の提示を活用すると,我々が身体だと思える範囲に強く影響を与えてアバターへの没入感を高めたり,あるいは擬似的な身体反応を提示することで感情に影響を与えたりできることの可能性に気付き,身体を中心に扱った研究に取り組みはじめました.
少しずつ中心的なトピックを変えながら研究領域を広げてきた中で,次にどのような方向性の研究を展開しようか模索しているタイミングで,暦本純一先生が総括を務められたJSTさきがけ研究の公募が始まったことをきっかけに,バーチャル世界における身体であるアバターの特性が使用者の行動や思考にどのような影響を与えるのかを明らかにし,そのような影響を工学的に活用しようという,本受賞の対象となった研究を構想しました.アバターを使って身体と認知の相互作用を理解し,得られた理解に基づいてアバターの効果を状況に応じて効率的に活用するための方法論を確立できれば,人間能力の向上や,他者への共感・理解の醸成など,誰もがもっと身も心も軽く,自分らしいやり方で前向きに生きるために使える技術を作れると考えるようになり,今も研究を続けています.VRやメタバースが社会に一定の定着を見せていることも追い風となり,提案してきた技術が実際に社会の中で使えるものとして育ってきていることも評価していただけたのかなと思います.
今回の受賞は大変喜ばしいと同時に,十分な業績をあげた若手に与えられる賞ということで,「君ももう若手じゃないよ」というバトンを受け取ったのだと,ある種の幼年期の終わりを感じています.アバターに関する研究を積み重ねてきた中で,個人がアバターを使用する瞬間に現れる心理的・認知的影響だけでなく,アバターが他者とのかかわりの中で継続的に使われる際にどのように使用者の人生の中で位置づけられ,また使用者と社会やコミュニティとのかかわりを変えるのかという,重層的でナラティブな視点に目を向けることの重要性を認識するようになりました.これと並行して,研究という活動も決して個の能力によるものではなく,コミュニティの中から立ち現れるものなのだと強く意識するようになりました.
指導教員である廣瀬通孝先生や,さきがけ総括の暦本先生を中心に,新しいチャレンジをできる環境を与えていただいた多くの先人たち,いつも惜しみなく知識や知見を共有していただいている多様な共同研究者の皆様,そしていつも私に対する適切なツッコミとフレッシュな視点や新たな好奇心をくれる指導学生たちに感謝するとともに,私が研究コミュニティから受けた恩恵をより大きなものとして返していけるよう,これまで以上に本会やIEEE-CSでのコミュニティ醸成や会議運営などにも力を入れながら,引き続きさまざまな形で研究コミュニティと社会の発展に貢献していきたい所存です.
■鳴海拓志(正会員)
2011年東京大学大学院工学系研究科博士課程修了.博士(工学).東京大学大学院情報理工学系研究科知能機械情報学専攻助教,講師を経て,2019年より准教授,現在に至る.
(2024年7月18日)
(2024年9月17日note公開)