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VRを用いた野球球審ジャッジトレーニング

菅野 龍太(すがの りゅうた)

 菅野龍太君は,幼少期から学部まで継続して野球をプレーし続けてきた.しかし,アマチュア野球において,球審のストライク・ボールの判定(ジャッジ)のミスが問題視されている.菅野君は,このジャッジのミス(誤審)を改善するために,VRを用いたジャッジトレーニングシステムStrikeCallを開発した.ユーザは野球場,投手,捕手,打者が配置されたVR空間において審判の視界を体験し,投手が投げる球に対してジャッジを下すことでトレーニングを行うことになる(図-1).

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図-1  バーチャル世界におけるユーザの視点

 このStrikeCallは,テストモードとトレーニングモードに分かれており,まずテストモードではユーザの誤審率を測定する.そしてトレーニングモードでは,ジャッジ技術を高めるため,軌道の可視化,ゾーンの可視化,異判定類似軌道の提示など,さまざまな情報をユーザに与える.VR空間内の各オブジェクトの動作は,実世界でのそれらの動きに基づいた,それぞれの3Dモデルの動作によって再現する.なお,ユーザが時間や場所,道具の制限なくトレーニングを実施できるように,スマートフォン用VRゴーグルを用いて利用可能なアプリケーションとして実装している.

 StrikeCallでは効果的なトレーニングを行うために,投手が投じる投球軌道をリアルに再現している.具体的には,投球軌道上の1点における3次元座標・3次元速度・3次元加速度の3種類×3軸の9つのパラメータから,等加速度運動として軌道を算出する.9つのパラメータはユーザ自身が調整をすることができ,つまりユーザは自身がイメージする軌道を自由に作り出してトレーニングすることができる.また,ユーザが球種,球速,軌道変化の大きさ,投球コースをそれぞれ選択することで,それらの特徴を再現するための9パラメータを算出し,そのパラメータからさらに軌道を算出することで,ユーザがイメージする軌道をリアルに再現している.また,実世界で球審のジャッジに影響を与える要素である「打者の動作」そして,「フレーミング」として知られる,捕球時にミットの位置をストライクゾーン方向にわずかに動かす「捕手の技術」もリアルに再現している(図-2).ユーザはそのような影響の中でも正確なジャッジを下すためのトレーニングが行えるようになっている.

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図-2 作成した捕手のフレーミング動作

 菅野君は,プロジェクト期間中にStrikeCallを用いたトレーニングによる実世界のジャッジ技術向上効果を検証した.さらに本プロジェクトでは,VRを用いたバーチャル世界ならではの情報提示を行うことで,これまで言語化が難しく,効果的なトレーニング方法がなかった人間の能力を拡張できることを示した.これらは元NPB(日本プロ野球)審判の(株)運動通信社坂井遼太郎氏,および元高校野球審判の筑波大学川村卓准教授からも高く評価されている.

 今回開発されたVR技術は,野球以外のスポーツやスポーツ以外の分野に応用することができる.今後,菅野君が継続的に効果の検証を行うことで,学術的エビデンスに基づいたトレーニングシステムとしてユーザ層を広げることにつながると期待できる.(稲見昌彦PM担当)

[統括PM追記] このプロジェクトで面白かったのは,システム開発の技術的側面だけでなく,フレーミングといったある意味「騙しのテクニック」が,人間が行い,人間がジャッジするスポーツの楽しさの1つになっているという事実である.ジャッジミスが多すぎては興ざめだが,100%完璧ではないことにも意味があるらしい.

(2021年6月30日受付)
(2021年8月15日note公開)