「情報システム」分野の問題
大場みち子(公立はこだて未来大学)
連載「教科『情報』の入学試験問題って?」第11弾です.前回までの入試問題解説に関してはこちら(https://note.com/ipsj/m/m1ca81b5d1e66)をご覧ください.
「情報Ⅰ」では「「情報通信ネットワークとデータの活用」の中で,「情報システムとデータの管理」として情報システムについての理解が求められています.
今回は,大学入試センターの「情報関連基礎」から「2013年度 第2問 旅行代理店の業務改善」を取り上げます.
この問題は,旅行代理店が業務の作業手順を明確にして,仕事がスムーズに進むように業務を改善することを目的にしています.表1の作業一覧を元に業務フローを記述し,業務フローを元に,業務の進捗状況を電子的に記録する「業務記録システム」を考えます.この「業務記録システム」での業務の進捗状況がどのようになっているのかを問う問題です.
問1
ここでは,図1のB社の業務フローを完成することが目的になります.まず,「業務フロー」の定義と表記方法の説明が書かれています.図1の業務フローは状態遷移図を使って書かれています.
図1の(ア)〜(ウ)は表1をもとに考えるわけですが,ポイントは直線の矢印と戻る矢印の2種類の作業があることです.直線の矢印の作業は受付 提案,戻る矢印の作業は予約取消しです.これらの情報から,予約取消しは(ア)の作業を取り消すことが想像できるので,③「予約」となります.(イ)は最後の作業なので,⑤「入金確認」となります.(ウ)は予約と予約取消しの関係と同じですから,提案に対して②「提案取消し」となります.
別の考え方を説明します.表1の作業の内容から受付 提案 予約 入金と提案取消し 予約取消しでは作業の性質が異なることが分かります.図1では前者の作業が普通の作業(正常処理)で「→」で表され,後者の作業は取消しの作業(例外処理)で「↶」で表されているという区別ができます.このように考えると,(ア)は③「予約」,(イ)は⑤「入金確認」,(ウ)は②「提案取消し」という解答が容易に分かるでしょう.
解答
(ア)③「予約」,(イ)⑤「入金確認」,(ウ)②「提案取消し」
問2
ここでは業務フローに従って「受付」から「入金確認」までの作業が終了した記録の作業列を記録したものを「終了作業列」と定義しています.
(エ)は終了作業列の例を問う問題です.ここでは,図1の流れにそったものが選ばれなければいけません.図1の流れにそって,1つずつ確認していけば(エ)の解答は「③」ということが分かりますが,つぎのように考えてみましょう.
ここでのポイントは,「入金確認」まで終了するには,つぎの2つのケースになります.
(1) 例外処理がまったくない終了作業列
具体的には,受付 提案 予約 入金確認 という系列です.
(2) 例外処理がある場合,受付で始まり,例外処理の前後に例外処理に対する正常処理が実施され,最後に入金確認で終了する終了作業列
具体的にはつぎの条件を満たす必要があります.
(i) 受付で始まり,入金確認で終わる
(ii) 受付 提案 予約 入金確認 という順序で出現する
(iii) 取消しが発生する場合,提案 提案取消し,または,予約 予約取消しが含まれる
(1)は選択肢にないので,(2)に該当し,具体的な条件を満たす③が(エ)の解答になります.
(オ)は図1を見ると分かる通り,予約取消しが発生すると入金確認まで行くには,必ず予約をしないと次に行かないので,「1」になります.
8個の作業が記録される終了作業列で提案が2つ含まれている場合はつぎの2通りです.
A: 受付 提案 提案取消し 提案 予約 予約取消し 予約 入金確認
B: 受付 提案 提案取消し 提案 提案取消し 提案 予約 入金確認
上記より,提案と提案の間にはAは1個(提案取消し),Bは3個(提案取消し 提案 提案取消し)の作業が含まれているので,(カ),(キ)は「1」「3」(順不同)となります.
終了作業系列で例外がまったくない終了作業系列は上記(1)の4個の作業です.この終了作業系列に,提案取消しと予約取消しの例外作業が発生すると,上記(2)のように,例外作業のつぎに,必ず,それぞれの正常作業の提案または予約が追加されるので各2つずつ作業が追加されることになります.つまり,提案取消しと予約取消しの合計がn個の場合,2✕n個の作業が追加になります.
以上より,(ク)「2」✕n+(ケ)「4」が解答となります.
解答
(エ)③,(オ)「1」,(カ)(キ)「1」「3」(順不同)
(ク)「2」(ケ)「4」
問3
提案取消しと予約取消しが0個の場合の終了作業列は問2の(1)の場合のみなので,(コ)「1」となります.
提案取消しと予約取消しが合計5個のときの場合分けを考えます.これは,すべての場合を書き出すのが一番簡単でしょう.提案取消しが5個の場合,予約取消しは0個となり,提案取消しが4個の場合,予約取消しは1個となります.これを繰り返すとつぎの表-1のようになるので,解答は(サ)「6」通りとなります.
表-1 提案取消しと予約取消しが合計5個のときの場合分け
つぎに,上記の表の項番1〜6のそれぞれに対して,終了作業列が何通りあるかを考えます.基本的に,提案取消しと予約取消しの数が逆転している項番1と6,項番2と5,項番3と4の場合の数は同じになります.これは,提案取消しと予約取消しは順序が違うだけで,場合分けとしては同等だからです.
単純化のために図1の業務フローの作業名を
受付:a,提案:b,提案取消し:b’,予約:c,予約取消し:c’,入金確認:dとします.
まず,項番2の提案取消しが4個で,予約取消しが1個の場合を考えてみます.簡単なので,すべて書き出してみましょう.
a,b,b’,b,b’, b,b’,b,b’,c,c’,c,d
a,b,b’,b,b’, b,b’,c,c’,b,b’,c,d
a,b,b’,b,b’, c,c’,b,b’,b,b’,c,d
a,b,b’,c,c’, b,b’,b,b’,b,b’,c,d
a,b,c,c’,b’, b,b’,b,b’,b,b’,c,d
以上より,(シ)「5」通りとなります.
これは,同じものがあるときの順列と考えることもできます.n個のうち,同じものp個,q個,r個が同じであるとき,これらn個を1列に並べる順列の総数は次のようになります.
n!/p!q!r! (p+q+r=n)
ここでは,上記のすべての書き出しを見れば分かりますが,b’とc’だけに注目すれば問題ありません.同じものb’が4個,c’が1個なので,つぎのような解答になります.
(4+1)!/4!1!=5(通り)
一方,提案取消しが1個,予約取消しが4個の場合もつぎのようにpとqの数が入れ替わっただけなので,同様の総数5通りになります.
(1+4)!/1!4!=5(通り)
これは,5個の中から4個を選ぶ組合せと考えることもできます.
問題文に書かれていますが,提案取消しが3個,予約取消しが2個の場合を上記と同様に考えてみましょう.この場合は,次のようになるので,総数は10通りです.
(3+2)!/3!2!=10(通り)
提案取消しが2個,予約取消しが3個の場合も10通りになります.これで,問題文の内容と一致することが分かりましたね.
以上をまとめると,表-2のようになるので,提案取消しと予約取消しが合計5個の場合の終了作業系列の総数は32通りで,解答は(ス)3(セ)2となります.
表-2 提案取消しと予約取消しが合計5個のときの終了作業系列の総数
同様に,提案取消しと予約取消しが合計4個,3個,2個,1個の場合を計算すると,表-3のようになります.したがって,作成する表は63通りとなり,問題文の内容と一致することが分かります.
表-3 提案取消しと予約取消しが合計4個,3個,2個,1個のときの
終了作業系列の総数
解答
(コ)「1」,(サ)「6」,(シ)「5」,(ス)「3」,(セ)「2」
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