視線インタフェースにおける誤選択を低減する手法に関する研究
2023年度研究会推薦博士論文速報
[ヒューマンコンピュータインタラクション研究会]
崔 明根
(筑波大学 特別研究員)
【背景】視線のみで入力を行う手法が検討されている
【問題】視線入力は他手法よりも誤選択が多い
【貢献】視線入力の誤選択を低減する手法を提案した
ユーザの目から視線を検出し,それを入力として扱うインタフェースを視線インタフェースと呼びます.目は最も高速に動く器官であるため,視線インタフェースは非常に高速にターゲットをポインティング(捕捉)することができます.また目を動かすことによる身体的な負荷が非常に小さいことから,日常的な使用に適した入力インタフェースだと言えます.
一方で,視線インタフェースはいくつか課題を抱えています.1つは「小さなオブジェクトの選択が難しい」ことです.視線でオブジェクトを選択するためには一定時間オブジェクト内部に視線をとどめ続ける必要があります.しかし,視線は常時揺れているため,小さなオブジェクトの内部に視線をとどめ続けることは困難です.もう1つは「意図しない誤選択(Midas Touch)が生じる」ことです.視線インタフェースは一定時間オブジェクトを注視することが選択動作であるため,オブジェクトに目を向けるたびにそのオブジェクトへの注視時間が計測されます.そして選択の意思がない場合においても,オブジェクトに対する注視時間が閾値を超え,そのオブジェクトが誤選択されてしまうことがあります.この誤選択はMidas Touchと呼ばれています.
視線インタフェースが抱える課題はどちらも誤選択にかかわるものであり,これらのエラーが視線インタフェースの汎用性を大きく損ねています.ゆえに本研究では上記の課題の改善を目指した手法を提案することで視線インタフェースの選択対象のスコープを広げ,視線インタフェースをよりさまざまな場面で使用可能にすることを試みました.
本研究では二次元環境と三次元環境における小さなオブジェクトの選択手法を提案し,三次元環境におけるMidas Touchを解消する手法を提案しました.1つ目の研究では,空間分割によってオブジェクトサイズを暗黙的に拡大することで,二次元環境における小さなオブジェクトを容易に選択する手法を提案しました.2つ目の研究では,Midas Touchの原因を「視線が存在する領域=視線選択を行う領域」であると考え,視線が普段存在しない領域である頭部方向に対して極端な角度の領域で視線選択を行うことで,三次元環境におけるMidas Touchを解消する手法を提案しました.3つ目の研究は,2つ目の研究で提案した領域にオブジェクトを再配置することで,オブジェクトを選択しやすいサイズ・配置に変更し,三次元環境における小さなオブジェクトの選択を容易にする手法を提案しました.
これらの研究は視線インタフェースが抱える課題をそれぞれ解決し,視線インタフェースの選択精度を向上させることに成功しました.ゆえに,本研究によって視線インタフェースの研究領域に対して大きく貢献することができたと考えています.
(2024年5月27日受付)
(2024年8月15日note公開)
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取得年月:2024年3月
学位種別:博士(情報科学)
大学:北海道大学
正会員
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研究生活 私が博士課程の進学を決定した理由は「レールを外れたかった」です.やりたいことが特にない私は,自発的に何かを始めるような積極的な行動を好まず,人に流されて生きる可能性が非常に高いと考えていました.そんな自分が普通に就職することを想像したとき,なんとなく会社に勤め,なんとなく歳を重ねていく光景が目に見えました.なので,一度一般的なルートから外れてみたくなり,博士課程進学を決めました.
博士課程に進学したことが正解かどうかはまだ分かりません.博士課程に進学したからといって自身の本質が変わるわけではないので,いまだに楽な方向に流されたくなります.しかし,博士進学しなければよかった,とは感じていないので,おおむね悪くない判断だったと思っています.博士課程に進学する人は基本的にポジティブで,目がキラキラした人が多い印象です.対して私のようなネガティブな人間はあまり見かけません.なので,私のようなパーソナリティを有した人の博士課程進学を期待しています.