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Construction and Evaluation of a New Speech Corpus of Japanese Super-elderly Speech Recognition 

2022年度研究会推薦博士論文速報
[音声言語情報処理研究会]

福田 芽衣子
(徳島大学 研究員)

邦訳:日本人超高齢者音声認識のための音声コーパス構築

■キーワード
超高齢者音声コーパス(EARS)/音声認識/加齢による音響特徴量の変化

【背景】加齢による音響特徴量の変化により音声認識率が低下する
【問題】超高齢者のための音声認識モデル学習用データがない
【貢献】超高齢者音声コーパス(EARS)を収集・分析し,改善を確認した

 スマホやPCなどの普及によって,音声認識などの音声情報処理技術が広く普及してきている.特に近年では,深層学習(ディープラーニング)の登場によって,音声情報処理の精度が飛躍的に向上しており,これまでよりもさらに音声認識などが広く一般に普及していくことが予想される.しかし,音声認識器にて音声を認識する場合には,コーパスと呼ばれる音声データを用いてモデルを学習しなければならず,そのデータに含まれる年齢層から離れている方(データが成人男性・女性のものなら,子供や高齢者)の音声の認識精度は悪くなってしまう.そして,高齢者の音声認識精度を高められるような一般公開されたコーパスは現在存在しない.

 そこで,本研究では,日本人超高齢者の音声認識精度向上を目指し,超高齢者音声コーパスの構築,加齢による音響的特徴の変化の調査,そして音声認識実験を行った.

 はじめに,日本初の超高齢者音声コーパス(EARS)の構築を行った.日本の4地域(徳島,愛知,三重,千葉)の高齢者施設に赴き,高齢者の方に音声認識学習用のテキストを読んでいただいて音声の録音を行った.被験者の平均年齢は83.4歳であり,合計人数は121名であった.データ収集後,音声の厳密な書き起こしを行い,話者情報などを付与してコーパス整理を行った.

 収集したEARSとS-JNAS(日本人高齢者音声コーパス)の話者(60~99歳)について分析し,年齢的な老化と音声の特徴量の変化との間に関係があるのかを調査した.結果として,基本周波数に関しては,男性は加齢に伴い上昇する傾向がみられ,女性は加齢に伴い低下する傾向が見られた.母音発音時の舌・顎の運動性指標については,女性は低下が見られたものの,男性は変化が見られなかった.

 次に,EARSを音響モデル学習に用い高齢者音声の認識精度の改善を試みた.音声認識の手法は,DNN-HMMおよびEnd-to-Endの2種類を用いた.EARSはデータ量が少なく単独では音響モデルを作成できないため,以下の試みを行った:①既存の大規模コーパスをベースライン(BL)の音響モデルに使い,本コーパスで適応を行う,②既存の大規模コーパスを学習したBLと,BLにさらにEARSを併せて学習した音響モデルを用い認識誤り率を比較する,③本コーパスをBLに複数回加え音響モデルを作成する.その結果,DNN-HMMでは一般成人音声の音響モデルでの単語誤り率(WER)25.53%に対して,②の実験によりWER9.08%と大幅な改善が見られた.End-to-EndはBL音響モデルの文字誤率(CER)13.4%に比べ,本コーパスを2回加えた音響モデルではCERが11.4%と改善が見られ,本コーパスの有用性が確認された.

 以上,本研究にて超高齢者音声コーパスの構築,加齢による音響的特徴の変化の分析ならびに音声認識実験を行い,EARSコーパスの有効性を示した.

(2023年5月31日受付)
(2023年8月15日note公開)

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 取得年月:2023年3月
 学位種別:博士(工学)
 大学:徳島大学

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推薦文[メディア知能情報領域]音声言語情報処理研究会
超高齢者(80歳前後)の音声データ不足により,音声認識器の認識精度が悪い問題を解決するため,本研究では日本人超高齢者音声コーパスを構築し,さらに加齢による音響的特徴の変化の調査を行いました.そして,本コーパスを使用することで,音声認識率の大幅な改善を実現しました. 

研究生活  始めは秘書として徳島大学の研究室で働き始めたのですが,研究の簡単なお手伝いとして音声データの整理などをしているうちに研究自体に興味が湧き,博士課程に進学しました.それまでに私が職としていた分野とはまったくの畑違いで,分からないことだらけでしたが,熱心に取り組める環境でしたので,楽しく学び,国際会議で受賞するなど成果を重ねることができました.
 取り組んだ研究自体にも,周りの先生方や企業の方からたくさん興味を持っていただいており,近日中にコーパスの公開を行いたいと考えています.論文の公開やコーパスの構築・公開などを通して社会貢献できる楽しさも学べました.これから博士課程を目指している方には,ぜひご自身の興味ある分野・研究を見つけて熱心に取り組んでいってほしいです.