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フィギュアスケートの練習を支援するSkate Jump Board

山形 昌弘(やまがた まさひろ)
麻 大輔(あさ だいすけ)

 本プロジェクトのクリエータらは,学生時代にフィギュアスケートの競技者として,練習や後輩への指導に向き合ってきました.彼らが練習や指導に取り組む中で,特にジャンプの習得に苦労したようです.まず,ジャンプは一瞬なので,頭で考えている暇がない.次に,着氷は後ろ向きにしかできないので,徐々に回転を増やしていく練習ができない.最後に,作用反作用の法則により,空中では,各部位の動作を独立にコントロールできず,たとえば「右足以外はそのままで,右足の動きだけを変える」ことはできないわけです.これらの課題により,指導の言葉で直すべきポイントを理解するだけでは,実際には直せないという壁に何度も直面してきたようです.

 そこで本プロジェクトでは,スマホで練習を撮影した定点映像から競技者を追跡し,ジャンプを検出して切り抜き,そのジャンプを加工した映像もしくは画像を生成して見せることで,ジャンプの感覚的な理解を促進させるシステムを当初の目的としていました.

 しかし,プロジェクト期間中に映像生成機能を開発したところ,それによって生成された映像の踏切時の動作に不自然な点があることが課題となりました.そこで新たな方針として,ジャンプの一種「ループジャンプ」の踏切動作を,ゆっくり,足の動きをガイドして,踏切動作単体で練習できる装置,Skate Jump Board(図-1)の開発にチャレンジしました.この装置は,スケート靴および氷の特徴と,ジャンプ中に身体に働く慣性力の一部を再現しているため,実際のジャンプに近い動作が可能になっています.また,自分の動きとお手本の動きを見比べるための,お手本表示機能を有しています.

図-1 Skate Jump Boardの可動台(左)とSkate Jump Boardを使った練習の様子(右)

 このシステムは以下の3つの要素により構成されています.

  1. 傾斜したレール上の可動台
    ループジャンプの踏切では,右足にほとんどの体重を乗せて急カーブを描き,最後に右足の爪先で跳び上がります.この右足の動きを再現するために,傾斜したレール上の可動台に右足を乗せた構造を用いています.また,ジャンプの踏切動作を,ほぼ静止から実際のジャンプに近い速度まで連続的に調整しながら練習することができます.

  2. スロープ
    ジャンプ中にはブレーキがかかるので,進行方向に投げ出される慣性力が働きます.これを再現するために可動台のレールを傾けています.

図-2 お手本表示機能の概要

3. お手本表示機能(図-2
この装置には「ジャンプをゆっくり練習できるため,全身の動きを細かく意識できる」という特徴があり,動作中にお手本の動きと自分の動きを見比べる機能により,自分の動作に連動したお手本映像と,自分を後ろから撮ったライブ映像を,目の前のiPadに表示することで自分の動作とお手本の動作との違いを細かくチェックすることができます.

 さらに定点カメラで撮影した映像からユーザを自動追跡し,ジャンプ動作を自動で検出して一覧表示するAndroid/iOSアプリを開発しています(図-3).

図-3 映像による振り返りを支援するスマホアプリの画面

 本プロジェクトのクリエータの1人麻大輔さんは,自身がスケート部に所属し何年かけても成功できなかったダブルループジャンプを自ら開発したシステムで練習し見事成功しました.つまり,未踏クリエータとして貢献したのみならず,自らのスケーターとしての長年の夢を未踏での活動を通し実現したという点で驚くべき,そして喝采すべき成果と言えます.

(担当PM・執筆:稲見 昌彦)

[関連URL]
https://twitter.com/skate_jumpboard

[統括PM追記] 映像解析システムの開発のはずだったが,途中でハードウェアの開発にほぼ重点が移ったという,過去に例のないようなピボットの見事さに感銘した.稲見PMが書かれているようにフィギュアスケートは本当に瞬間芸なので,いくら言葉や映像で説明されても効果が薄く,結局身体,つまり人体ハードウェアで覚えるしかない.説明もぜひ成果報告会動画を見ていただければと思う.なお,Skate Jumping Boardに可動部分はあるが,動力装置がない.まさに,巨人の星ギブス並みの,どこでも練習ツールだ.きっと売れると思う.ならば,ほかのスポーツにも類似のアイディアがあるのではないかという気がしてきたのは私だけではないだろう.

(2023年7月3日受付)
(2023年9月15日note公開)