心を満たすもの
藤﨑 忍
((株)ドムドムフードサービス代表取締役社長)
出張中の私は難しいお題を抱えながら京都駅地下街を2番出口に向かって歩いてきた.目的地は京都タワー下のカフェ.電源の完備された窓側の席でこの原稿を書きたいと思った.
GWスタート前の金曜日だが店内も目の前を通る人々も観光客というより京都市民の方が多いようだ.私はイレギュラーかもしれない.
スタッフさんの元気で親切な声が背後からひっきりなしに聞こえてくる.購入時の接客もあたたかく同じ外食チェーンを運営するものとして感心しきりである.
さてコロナ禍以降外食の注文スタイルは大きく変化した.人と人との接触を限りなく減少させるために非接触型のオーダーシステムであるモバイルオーダーやセルフレジが注目を浴びている.「モバイルオーダーシステム」と検索すれば多くのシステムが紹介される.
昨今の人材不足が拍車をかけたのだろう.これまで人が担ってきた仕事をそれらに委ねることで人材不足解消・人件費圧縮を目論むことができるからだ.
話は変わるが私の前職は居酒屋経営だった.13年前に開業し現職に就くまで私はカウンターに立ち多くのお客様に接してきた.1年半後に隣に2店舗目を開業し2つの店舗は順調に成長した.しかしながら紙伝票での会計は時間がかかりお帰りのお客様を待たせしてしまうことが多くなった.またメニューは2店舗共通であり各厨房でメニューを分担し調理していたためにそれぞれの厨房に担当するメニューを伝え,できあがった料理を間違いなくオーダーいただいたテーブルに運ぶ作業は効率が悪かった.
2店舗をそれぞれで運営すれば解決するのだが1店舗目のメニュー・クオリティーをどちらの店舗に入っても享受できること,そして新メニュー(ワイン・イタリアンなど)をどちらの店舗でもオーダーできることがお客様の満足度を上げると信じていたのだ.
信じる者は救われたのかもしれない.2店舗ともにますます盛り上がった.しかしながら前記の問題は深刻さを増した.
そこで飲食系の小冊子で見たiPad POSレジ・iPod touchを使ったオーダーシステム・キッチンプリンターを導入した.11年前のことだから早い時期だったように思う.
結果オーダー,会計ともにお待たせする時間が短縮された.お客様満足度は向上.おまけに回転率も格段に上がり繁盛店に成長した.またレジ締め作業が簡略化され人件費が削減された.
デジタル導入が有益であることはこの事例でも明確だ.これからもお世話になるだろう.
そして私は11年前そうであったように導入の目的にこだわりたい.思いを馳せる対象は人々であり,その問題解決が目的でありたいのだ.
隅っこのこの席からモバイルオーダーを二度ほど利用した.受け取りに行くと丁寧な確認と笑顔で迎えてくれた.
外国人観光客の皆さんに大きな声で優しく接客しているスタッフの声が聞こえてくる.
この心地良さはモバイルオーダーの利便性と相まって私の心を満たしてくれる.
(「情報処理」2024年8月号掲載)