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ハードウェアを意識しない組込み開発環境

饗庭 陽月(あいば ひづき)

 センサ・アクチュエータといったハードウェアを用いる組込みシステムの開発を,さもWeb向けソフトウェアの開発のように行うことを可能にするmCnを開発・提供した(図-1).饗庭さんの言葉を借りれば「ハードウェアの無意識化」,「ハードウェアのAPI化」である.

図-1 mCnのアイディア

 ハードウェアとしては,センサやアクチュエータを搭載したモジュール群(図-2)と,モジュールをいくつか搭載できるベースを開発した.ベースにモジュールを搭載し,それを,スマホやタブレットに接続して用いる.スマホ・タブレット向けにソフトウェアを開発する場合,どのモジュールが相手でも,JSON形式でデータを受信,指示を送信できる.これは簡単だ.また,mCnを用いた応用をいくつか開発した(図-3).

図-2 モジュールのラインナップ
図-3 料理に適用した例

 この形のmCnに辿り着くまでには,紆余曲折あった.当初は,スマホを使うのではなく,マイコンを搭載したモジュールを頭脳とする構成を採っていた.2022年7月に開催された,全プロジェクトに加えてOB・OGも参加するブースト会議にて,どなたかからいただいた「そういう応用なら,マイコンではなくて,スマホやタブレットを使いたいよね.画面もタッチパネルもあるし」というコメントによって,饗庭さんは大胆に方針を変え,スマホを拡張するハードウェアの開発に舵を切った.担当PMの首藤としては,mCnが数多あるセンサモジュールのうちの亜流になって個性が薄れる,という心配をしたが,より有用なものになる方針転換だったので,賛成した.10月になると,ベースといくつかのモジュールができてきた.饗庭さんはすごい開発成果でもサラッと紹介するので,あまりすごいように聞こえないのだが,2月の成果報告会ではプレゼンも迫力あるものとなって,成果物の真価が多くの方に伝わった.

 饗庭さんは実は,mCn対応スマホの開発も進めていた! ベースを内蔵したスマホXphoneである.スマホに接続する通常のベースには,USBポートの給電能力の限界から,モジュールは2つまでという制限がある.そこで,より多くの,4つのモジュールを使用できる専用スマホを開発しようとしたのである.Raspberry Pi CM4を中心に,必要な周辺回路を独自設計した.優先順位を鑑みて,開発期間中に行ったのは基盤の設計までとしたが,饗庭さんの,招来したい未来をどこまでも追う姿勢には驚かされた.

(担当PM・執筆:首藤 一幸)

[統括PM追記] まず,数学で習う組合せの数を表すmCnというネーミングが,名は体を表していて素晴らしい.実際,同じ大きさでこれだけのセンサやアクチュエータを作って,応用事例も完成してしまった.途中,大きなピボットがあったが,いつのまにか,誰も想像していなかったスマホの開発にまで着手したのは大きな驚きであった.饗庭さんは応募時にはまだ19歳の高専生だった.毎度のことだが,高専生パワーのすごさを思い知らされた.

(2023年7月3日受付)
(2023年9月15日note公開)