Research on Wearable Sensing for Constructing Human Comfortable Environments
2023年度研究会推薦博士論文速報
[ユビキタスコンピューティングシステム研究会]
毛 昊珉
(EBAテック(株)技術本部 プログラマー)
邦訳:人が快適と感じる環境構築のためのウェアラブルセンシングに関する研究
【背景】快適さ指標により人が快適と感じる環境を構築する
【問題】一部の生理指標とすべての快適尺度は常時測定できない
【貢献】常時測定できない生理指標と快適尺度を推定する手法を提案する
人間と環境は相互作用することにより,互いに影響を及ぼし合っている.一般的に人々はさまざまな環境の中から快適と感じる環境で生活すると考えられる.人の快適さは人間の身体状態や環境条件などの要素に左右される一方で,人の知的感覚や心理的状態により変化する.現在の環境条件は環境温度や環境湿度などの指標から評価できるが,人間の主観的な感覚を評価することは容易ではない.人が快適と感じる環境を構築するために利用する快適さ指標として,人体の生理指標と快適尺度が挙げられている.
人間の生体情報の測定は,ウェアラブルセンシング技術により簡単に実現できる.しかし,ウェアラブルセンサはほとんどの人体の生理指標を測定できるが,一部の指標は高価かつ大型な専用機器に依存するため,常時測定に不向きである.一方,快適尺度は人が現在の環境に影響されたときの身体的および精神的な主観感覚の変化を示すことにより人の快適さを反映する.快適尺度は,視覚快適度,聴覚快適度,臭覚快適度,温熱快適度など多くの種類が存在する.快適尺度は人間側や環境側の要素と関係があるが,常時測定することができない.そこで本研究では,ウェアラブルセンシング技術や機械学習に基づいて常時測定できる生理指標や環境指標から,常時測定できない生理指標と快適尺度を推定し,人が快適と感じる環境を構築する.本論文では,人体の生理指標の推定例,快適尺度の推定例,快適尺度の推定精度の向上,快適尺度の推定プロセスの改善の4つの研究テーマを組み合わせている.
まず,頭皮水分量を常時測定できない人体の生理指標として,快適な帽子内環境の構築に着目する.本研究では,ウェアラブルセンサを装着した帽子型デバイスを提案し,帽子内環境において機械学習を通じて頭皮水分量を常時推定した.また,頭皮水分量の推定結果を帽子内環境の構築に利用できるクラウドシステムを開発した.クラウドシステムは,帽子型デバイスを制御できるスマホアプリに頭皮水分量の推定結果をフィードバックすることにより,快適な帽子内環境を構築ができることを示した.
次に,人の温熱快適度を快適尺度の例として快適な温熱環境の構築に着目する.本研究では,ウェアラブルセンサや環境センサを取得したデータを機械学習にかけることで人の温熱快適度を推定し,温熱快適度の推定に必要な最小限の2種類のセンサを確定した.また,2種類のセンサにより推定された温熱快適度の結果を快適な室内環境の構築に利用できるクラウドシステムを開発し,クラウドシステムは環境制御システムに温熱快適度の推定結果をフィードバックすることにより快適な室内環境の構築ができることを示した.
日常的に温熱快適度を推定する手法として少量のセンサで取得したデータから推定する手法以外に,深層学習によりカメラで取得した画像データから推定する手法も挙げられる.本研究では,CNNによりRGB画像やサーマル画像を用いて人の温熱快適度を推定し,学習データにセンサデータを追加することで,さまざまな学習条件下におけるセンサデータが温熱快適度の推定精度を向上できるかを調査した.18種類のセンサデータを使用する学習パターンと18種類のセンサデータを使用しない学習パターンに比較した結果,7種類の学習パターンでは温熱快適度の推定精度を向上できた.
CNNによる人の温熱快適度の推定は,多くの画像データを取得する必要がある.常時温熱快適度のラベル付き画像データを大量に取得することは難しいため,本研究では,画像データと同じタイミングで取得したウェアラブルセンサデータを活用し,ラベルなしの画像データにラベルを付与することで,温熱快適度推定のための半教師あり学習手法を提案した.提案手法は従来の半教師あり学習手法より温熱快適度の推定精度が高く,温熱快適度のラベル付き画像データを取得する手間を省けることを確認した.
研究テーマ1
研究テーマ2
研究テーマ3
研究テーマ4
(2023年5月31日受付)
(2023年8月15日note公開)
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取得年月:2023年9月
学位種別:博士(工学)
大学:神戸大学
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研究生活 私は大学院に入ってから機械学習や深層学習に興味を持ち,自分の研究に使えるようにプログラミングの基礎からデータサイエンスのやり方までを独学し,ディープラーニングゼミナールに通っていました.博士進学をきっかけに共同研究が始まり,共同研究のパートナーからたくさんの知見をもらい,自分の技術力を磨きました.私が所属していた研究室ではさまざまなイベントが行われていたので,自分の研究活動以外に研究室のメンバーたちと楽しい時期を過ごせました.またこの場をお借りして,本研究を行うにあたり,日頃よりご指導,数々のご教示をいただきました寺田努教授,塚本昌彦教授に深なる謝意を表します.本研究に関して多大なるご助言をいただきました土田修平特命助教に厚くお礼申し上げます.