2体のエージェントが相補的ユーモア発言を行うインタラクションモデルの研究
2023年度研究会推薦博士論文速報
[コラボレーションとネットワークサービス研究会]
呉 健朗
(SoftBank(株)/(株)mica/日本大学)
【背景】人が対話型エージェントとコミュニケーションするシーンが増えている
【問題】既存の対話型エージェントの返答の多くは機械的で親しみを感じにくい
【貢献】人が親しみを感じやすいエージェントのインタラクション手法を実現した
「対話型エージェントって目的がないとあんまり話しかけたいと思わないのなんでだろう」
この疑問を晴らすために,積極的に話しかけたい人との会話がどのようなものか考えているうちに,会話の合間に冗談が含まれており,互いに笑い合っていることに気づきました.この着眼が私の研究のきっかけでした.
人の発言に対する既存のエージェントの返答の多くは無機質であり,親しみを感じにくく,ユーザがエージェントを受け入れることが困難と言われています.実際,エージェントが会話中に冗談一つ言わず,生真面目な返答を行うばかりでは,ユーザはエージェントと対話を継続したいと感じられないと思います.一方,ユーザの嬉しかったことの報告に対してユーザから笑いを引きだせるような応答を行えれば雑談が盛り上がり,家族の一員として受け入れやすいと思います.このような考えから,エージェントが親しみを感じやすくさせる手法としてエージェントにユーモア性を付与する研究を行ってきました.私の研究のポイントはユーザとの対話にボケ役・ツッコミ役に役割分担された2体のエージェントを用いるようにしたことです.人との対話中にユーモアを交えるだけであれば1体のエージェントで事足りますが,エージェントのユーモア発言が会話中の話題をそらしてしまいます.エージェントからのユーモア発言からさらに会話を続けるには,話題保持のために人が会話の流れを修正しなければいけないという心理的負担がかかる問題があります.このため,2体目のエージェントを用意し,ユーザの代わりにボケエージェントにツッコミを行わせることで,ユーザに心理的負担を与えずに,エージェントが人との対話中にユーモア発言を交えられるようにしました.
ボケ・ツッコミについては歴代の漫才大会上位者のボケ・ツッコミを参考にしました.具体的には,ユーザの発言中の単語について,その単語から意味が離れており,発音が近く,認知度が高い単語に聞き間違えるようなボケや,ユーザの発言内容や生成されたボケに関連する単語を用いるツッコミをエージェントに行わせるようにしました.プロトタイプシステムを用いた検証の結果,
A.ボケエージェントが,まるで人が発言を聞き間違えをしたかのようなボケを行うことで,ユーザのエージェントに対するユーモア・親しみの感じやすさが向上すること
B.特に,ボケエージェントが発言を聞き間違えるボケを高音で行うことでユーザのエージェントに対するユーモア・親しみやすさが向上する可能性があること
C.ボケ役・ツッコミ役に役割分担された2体のエージェントをユーザとの対話に用いることで,ユーザはエージェントらにユーモア・親しみを感じやすく,対話継続意欲が維持されやすくなること
がそれぞれ明らかになりました.
本研究が,人とエージェントが共生し,共に笑い,助け合うような社会の実現にわずかでも寄与することになれば幸いです.
■Webサイト/動画/アプリなどのURL
joker [https://www.youtube.com/watch?v=6jsiuDgU-jo]
(2024年5月25日受付)
(2024年8月15日note公開)
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取得年月:2024年3月
学位種別:博士(理学)
大学:日本大学
正会員
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研究生活 なんで人は笑うのか,親しみやすさってどうやって感じさせるのか? 幼少のころから私の頭は知りたいことでいっぱいでした.誰かが調べたことのあることであればその答えを知ることはできますが,まだ誰も実現・検証したことのないことを確かめられるのは自身しかいません.このように自身で実現・検証を可能にする力を試されるのが研究で,この力をさまざまな協力者・先生方と議論をしながら高めていくうちに博士にたどり着くことができました.
議論の過程ではもちろん,実験設計を覆すような指摘を受けたり,エージェントの発言にユーモアを感じないとストレートに言われたりと苦難がたくさんありました.しかしこれらの指摘は私の実現したい・知りたいに共感し,適切な道に進めるよう本気でぶつかってくれてのことでした.
研究会は本気で知りたい・実現したいという思いを歓迎しています.皆さんも自身の好奇心に身を委ね,本気でぶつかり合う仲間を作ってみませんか?