未踏の第28期スーパークリエータたち:編集にあたって
竹内郁雄(IPA未踏IT人材発掘・育成事業 統括プロジェクトマネージャ)
未踏事業で採択され,優れた成果や成長を示した人たちを未踏スーパークリエータと呼ぶ.実は数年前から,未踏事業は拡大しており,ここで「未踏事業」と呼んでいるものは正確には「未踏IT人材発掘・育成事業」という名称で,年度始めに25歳未満の若い人たちを対象とした事業である.
このほかに,2017年度から始まった,年齢無制限で,ビジネス化や社会的に意義の高いプロジェクトを実施する「未踏アドバンスト事業」がある.こちらは採択された人をクリエータではなくイノベータと呼んで区別している.事業の性格から,評価は社会がするべきということで,スーパーイノベータという称号はない.
さらに,2018年度からは,特定分野を対象とした未踏ターゲット事業が始まっている.当初から「量子コンピュータ」を対象として,学界とは違う形の熱い研究開発コミュニティが形成されてきた.2022年度からは社会的に関心の高い「カーボンニュートラル」が加わっている.
未踏事業は2000年度にミレニアム事業として始まったが,この年次報告は,2012年度から「未踏IT人材発掘・育成事業」(以下,この事業だけを指すときは,「未踏IT」と略記する)に採択され,スーパークリエータとして認定された若い人たちの業績や人となりを紹介するものである.日本の若い才能溢れるIT人材の元気さや多様性を広く産業界や学界に知っていただきたい.若い彼・彼女らは,必ずや日本のITを活性化してくれるものと信じている.実際,20年以上の歴史を持つ「未踏」はすでにブランドを確立しており,今年度閣議決定された政府の「新しい資本主義のグランドデザインおよび実行計画」でも「未踏事業」が重要な事例として言及されている.
こうした中,突出した才能を持つスーパークリエータを紹介できることは大変嬉しいことである.
2021年度の第28期未踏クリエータは計36名(21プロジェクト)で,そのうちの18名(12プロジェクト)がスーパークリエータとして認定された.2014年から認定率は右肩上がりに増え続けてきたが,今期は50%と一服した印象である(昨年は67.7%).これは質が下がったということではなく,全体に質が上がっている中で突出していると思われるプロジェクトや人材の選定基準が年々上がってきているからだと思う.スーパークリエータの認定は相対基準ではなく,絶対基準であるが,その絶対基準も上がってきていると見るべきだろう.
ちなみに,未踏アドバンスト事業の採択プロジェクトも,開始から5年経過してようやく全体の質の高さが出てきたと感じられる.
さて,今期の未踏スーパークリエータは,高校生1名(昨年も1名),女性1名(昨年は3名)が認定された.女性比率が少ないとよく指摘されるが,そもそも女性の採択者が多くない.つまり,そもそも女性の応募者が少ない.今後の伸びを期待したい.なお,今期特に目立ったのは採択時に20歳未満の人が5名いたことである.これまでにない多さであり,エネルギーの中心がどんどん若い方に移っている.
いつものことであるが,今期も低レイヤからWebアプリまで幅広くバランスよくスーパークリエータが選ばれた.未踏の最大の特徴の1つである多様性の面目躍如である.
2019年度,2020年度に引き続き,今期の未踏ITもコロナ禍に悩まされた.結局,担当のプロジェクトマネージャ(以下PM)と一度も直接会えなかったクリエータが何人かいた.さらに,全世界を襲った半導体不足により,必要なチップの入手困難に悩まされたプロジェクトが多かった.それでも,全体的に成果の質が落ちなかったことは,クリエータたちの努力の賜である.
昨年度も書いたが,ソフトウェアだけならともかく,最近はハードウェア試作を伴うプロジェクトが比較的多く,複数人プロジェクトでのリモート開発が難しいことがいっぱいあったと思う.ここにポストコロナのヒントがあるかもしれない.
この紹介記事は.本会会誌がWeb化への大きな転回をした2021年度から,担当PMにスーパークリエータの紹介をWeb記事として書いていただき,この導入記事からは,そこへのリンクを貼ることにした.それぞれの紹介には短い統括PM追記として,お邪魔かもしれないが,少しエピソード的な情報を追加している.
リンクの紹介は,これまでに倣い,代表者であるクリエータ名の50音順とする.タイトルは正式なものではなく,読みやすく覚えやすい「名は体を表す」キャッチに変えてもらった.なお,2022年2月19〜20日の2日間にオンラインで開催された成果報告会 (Demo Day) のすべての動画はIPA channel
https://www.youtube.com/user/ipajp/
で見ることができる.最近のプロジェクトはデモなど,動画で見ないと面白さや意義が分からないものが多いので,興味を持たれた方,スーパークリエータ以外の発表にも関心がある方は,つまみ食い的に見ることもできるので,ぜひそれをご覧いただきたい.スーパークリエータ認定に洩れた人のプレゼンにも興味深いものが多い.2022年6月12日に久々にオフラインで行われた未踏修了式・スーパークリエータ認定式では,私はいつものとおり,スーパークリエータとそうでない人の差は紙一重であり,今後は各自さらに思う存分活躍してほしいというメッセージを贈った.
ぜひ未踏修了生の今後の活躍に注目してたいただきたい.
(2022年6月30日受付)
(2022年8月15日note公開)
■ 新井康平,小泉裕之介
服のサイズ感が分かるAR試着Figur
■ 木内陽大,江口大志
XR向けWindow System ZIGEN
■ 坂口 楽
Web技術を活用したプログラミング学習基盤LOGRAM
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合気道の体の使い方の習得を支援するソフトウェア
■ 関口大樹
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チャット型インタフェースを用いた集団発想法支援ツールhidane
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