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抜かない型の設計支援ツールKatalystによるものづくりの自在化

皆川 達也(みながわ たつや)

 型成型技術は大量・安価に成形品の生産が可能であり,材料選択の自由度も高いため,日常的に使うプラスチックや金属,シリコンなどでできた数多くの製品の製造に用いられている.しかし,成形品は型から抜けなければならないという強い製造上の制約を持つ.皆川さんは,これまで型成形では難しいとされていたカタチを成形できる型を生成するための設計支援ツール「Katalyst」を開発し,実際に Katalyst が生成した型で型成形を行った.この設計ツールの名前には,型(Kata)を使ったものづくりを自在化するための触媒(Catalyst)という意味が込められている.Katalystは,CADソフトウェアの1つであるRhinoceros 3D上で動作する.

 型成形は3D プリンタと比較して多くの材料を活用できる利点があるが,作ることが難しいカタチとそのための型設計の手間が存在する.本プロジェクトでは2つの要素によりそれらを解決した.1つ目は「作れないカタチをなくす抜かない型(中子)」である.完成品から最後に溶かして型を除去することで,成形品のカタチの制約を緩和することができる.2つ目は「型設計の手間をなくす型設計支援ツール」である.作りたい形状の3D データを入れると,作りたい形状を作る型の3D データが半自動で出力され型設計の手間が軽減する.未踏期間では Katalyst の開発を行い,それを駆使することで従来の型成形では難しいとされていた「入り口と出口のある空洞」「入り口の狭い空洞の形状」「パイプが自己交差する形状」「複数の要素が繋がった構造」を型成形によって作ることが可能となった(図-1).

図-1 抜かない型とKatalystを使った制作物
(左上)醤油差し (右上)うさぎ入りのフラスコ (左下)クラインの壺 (右下)鎖

 皆川さんは未踏採択時,ものづくり歴7年であり,ありとあらゆる工法や素材を使ったものづくりに興味を持ち,レーザカッターや CNC を利用したコンピュータでのものづくりはもちろん,フライス盤や旋盤などを使った機械工作の経験もあった.そんな中,皆川さんが次に注目したのが型成型だった.従来の型成形は「型を用意して,材料を入れて固め,その型から取り出さないといけない」という前提があったが,皆川さんはその前提を覆し,抜かない型を前提とした型設計支援ツール「Katalyst」を完成させた.これにより,型成形による自在なものづくりができる社会の実現可能性を見せた.また,材料も型成形の利点を活かし,チョコレート,アクリル,エポキシ,ポリウレタンなど,複数の材料を使って試していった.形状も完成している物体にさらに中子を取り付け,型成形を行うなど,斬新なアイディアで次々と成果物を増やしていった(図-2).

図-2 成果報告会でのネームストラップは抜かない型を繰り返し使って作成した

 未踏期間終了後も,茨城県つくば市のものづくり系のイベントに参加し,企業の方とも交流しながら,どういった製品に使えたらよいかを議論したり,作れたら嬉しいものについて意見をもらったりと,検討を進めてきた.また,これまで行ってきた型成形を活用したセンサの製品化も進めているところであり,今後の展開にも期待している.

(担当PM・執筆:五十嵐 悠紀)

[関連URL]
https://sites.google.com/view/katalyst-fab

[統括PM追記] 少しイメージが掴みにくいかもしれないので補足しよう.通常の型成形では,型を壊さないために,成形品をうまく抜けるようにするために作れる形に制約があった.図-1にあるようなものを作りたい場合はいくつかの部品を作ってそれを貼り合わせていたわけである.しかし,たとえば図-1の醤油差しの場合,内側の空洞部分を,ロウなど溶ける中子で作成して型の中で中空に浮かぶように設置する(このためには,中子自体を型成形し,中子を入れた型自身を複数個作って貼り合わせる必要がある).こうして材料を入れて固めてから,お湯などで中子を溶かすわけである.溶かした中子は再利用可能である.なお,南部鉄器などでは砂と粘土で作った中子を壊して取り除いている.なお,溶ける型でも精度は十分に出るとのことだった.産業に使えるようになることを期待したい.

(2023年7月3日受付)
(2023年9月15日note公開)