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Designing an Active Haptic Feedback System to Evoke Perceptions of Various Properties of Handheld Objects

2023年度研究会推薦博士論文速報
[エンタテインメントコンピューティング研究会]

橋本 健
(東京大学大学院情報理工学系研究科 特任助教)

邦訳:把持物体の多様な物性感を生起させるActive Haptic Feedback Systemの設計

■キーワード
触覚提示技術/バーチャルリアリティ/ロボット

【背景】バーチャル物体の重さや柔らかさを感じたい
【問題】どのように多様な質感を1つの装置で表現するか?
【貢献】動きと力の関係性を変え,多様な質感を表現した

 近年のディスプレイ技術の進化は著しく,ヘッドマウントディスプレイ(HMD)や立体音響技術の発展により,視覚や聴覚では現実に近い感覚を人工的に作り出すことが可能となっています.次なる感覚として触力覚が注目されています.HMDを利用して没入するバーチャル空間では,バーチャルな物体との接触や,それに伴う質感(重さや柔らかさなど)を,触覚を通じて表現することが体験のリアリティを向上させるために不可欠な技術となります.

 本研究では特に,ものを持っているときに感じる物体の質感に焦点を当てました.物体の質感には多様な種類がありますが,それらをどのようにして触覚的に感じられるようにするのでしょうか.最も簡単な方法は,現実世界でバーチャル空間にある物体と同等のものを用意することです.たとえば,バーチャルなバットを握っている時に現実でもバットを握っていれば,バーチャルのバットを振った際の重さや振りづらさの感覚は非常にリアルになります.しかし,これではバーチャルな物体ごとに対応する現実の物体を用意する必要があり,大変です.

 ここで視点を変えてみましょう.人は手に持っている物体を能動的に動かすことで,目で見なくてもその特性をある程度推測できます.具体的には,物体を能動的に動かした際に物体と手の接触点から発生する力の時間変化から物体の特性を推論しています.したがって,この動きに応じた力の時間変化を再現できれば,多くの現実の物体を用意せずとも,さまざまな物体を持っている感覚を与えることができるのではないかという仮説を立てました.

 人の動きに合わせて力を提示するためには,人の動きの検出と,高速かつ正確な力の提示が必要です.本研究では,加速度センサによる人の動きの検出と,ジャイロモーメントを利用した力の提示を組み合わせて実現しました.また,どのような動きに対してどのような力を出力するかにより,感じる質感も変化します.

 本研究では,人の動きにおける加速度,速度,変位といった要素に比例する力を装置で出力した際,人が感じる質感について調査しました.加速度,速度,変位に比例する力をそれぞれ出力した時に感じる現象についてインタビュー調査を行い,使用される語彙を収集しました.その語彙の対(例:重い─軽い,長い─短い,硬い─柔らかいなど)を用いて,特定の力出力による質感を評価しました.現状では,加速度,速度,変位に比例する力を出力することで,物体の大きさ,重さ,粘性,柔軟性などの質感を表現できることが分かりました.

 このような触力覚提示の研究は,バーチャルな体験の没入感を高めるにとどまりません.身体運動に介入するこの技術を応用することによって,たとえばリハビリテーションに活用できたり,プロフェッショナルの身体運動を学習者に伝えたりすることも可能になるかもしれません.

■Webサイト/動画/アプリなどのURL
著者Webサイト
https://tkrtkr.com/
著者研究の動画
https://www.youtube.com/watch?v=1s3kmnNwxZ4
https://www.youtube.com/watch?v=Ny-hJQ9BEaU

(2024年5月31日受付)
(2024年8月15日note公開)

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 取得年月:2023年9月
 学位種別:博士(情報理工学)
 大学:東京大学

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推薦文[メディア知能情報領域]エンタテインメントコンピューティング研究会
本論文では,手持ち型の力提示装置によって,バーチャル空間上で持っている物体から感じる多様な物性(慣性,粘性,剛性)を視覚と触力覚を通して提示できることを示したものである.インタビューや心理実験を通して,知覚する物性感を明らかにしており,エンタテインメントコンピューティングの礎となる知見を示している.

研究生活  研究テーマを決める上で私は,「自分自身が将来この技術を使いたいか?」という視点を重視しています.研究活動には時間がかかるため,モチベーションを維持するためにもテーマに対する愛情は不可欠です.ただし,主観的になりすぎると周囲が見えなくなり,他の研究とのつながりが薄くなってしまう可能性があります.そのため,自分の研究に対して意見を述べてくれる仲間の存在も同じかそれ以上に重要です.

特に博士課程では,ヒューマンコンピュータインタラクション分野の博士同期や研究室の仲間とのつながりがあったからこそ,挫折しそうな時にもモチベーションを保ち,輝かしい他人の成果に刺激を受けることで,博士号取得までたどり着けたと考えています.

このように考えると,自分が好きで興味のあることを追求する内発的な動機づけと,自分を奮い立たせてくれる外発的な動機づけの両立が,研究生活,ひいては人生において大事だと思います.