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VRと電動トレーニング機器を用いた筋力トレーニングシステム TRAVE
栗本 知輝(くりもと ともき)
黒木 琢央(くろき たくお)
松田 響生(まつだ ひびき)
デジタル技術を用いたトレーニングシステムは過去の未踏事業でも数多く提案されていますが,TRAVEと名付けられた本システムは,独自の電動トレーニング機器とVRを用いることで,ゲームをするように楽しく筋トレの効果を向上させようとしている点に新規性があります.また,VRでの触力覚提示デバイスは振動や数N(ニュートン)程度の力をユーザに伝えるものが多いですが,こちらの装置は数百N以上の力を提示可能である点も特長となっています.
TRAVEの全体像を図-1に示します.TRAVEは,自作したデバイス,それをUnityから操作するためのAPI,これらを用いたVRアプリケーション(以降,VRアプリ)から構成されています.
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本プロジェクトでは,TRAVEを活用して筋トレの視覚・聴覚・力覚体験を拡張し,筋トレの課題を解決するようなデモアプリを,3つ作成しています.
1つ目は,釣りをモチーフにしたデモアプリで(図-2),VR空間での大きな力覚演出を筋トレに取り入れることで,負荷そのものに楽しみを加えて,筋トレの単調さの解決に寄与しています.実際の運動ではユーザがハンドルを上げて腕の筋肉を鍛えていますが,VRの世界では,それが釣りユーザが大型魚を引き上げる体験に変換されます.
このアプリケーションには,魚が釣り針に引っ掛かる感覚,魚が暴れる感じ,大型魚が竿を強く引っ張る演出など,多数の力覚演出が組み込まれています.さらに,ユーザの筋力を自動で測定し,適切な負荷を設定する機能や,運動中に自動的に負荷を調節する機能など,電動トレーニング機器の特性を活かした筋力トレーニング支援機能も導入しています.
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2つ目は,VR空間で生起される錯覚効果を利用して筋トレ効果を向上させるデモアプリです(図-3).本アプリでは,挙上動作をガイドする移動壁が右方向から左方向に向かって流れていくため,その移動壁に当たらないように所持していくスティックを操作します.本アプリには2つの錯覚効果を用いており,1つ目は,プロテウス効果を利用し筋肉質なアバターを生成して自身の体と感じてもらうことで,挙上回数の向上を狙っています.2つ目は,Pseudo-Hapticsを利用し,VR空間での腕の動きを実際よりも大きくすることで,疑似力覚が生じて重量を軽く感じさせることができます.
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3つ目は,異なる種目・筋力・場所同士での合同トレーニングを実現するアプリです(図-4).今回は握力系と筋トレデバイスを通信させることで,異なる種目であるにもかかわらず合同トレーニングを可能としています.握力計側のユーザは,現実空間では握力計を握っていて,VR空間では魔法の杖を握り,力に応じてビームを出します.一方で,筋トレデバイス側のユーザは,大きなカブを引っ張っているように見えます.これらデバイスの出力の大きさを,ユーザ間の筋力差に応じて調整することで,異なる筋力間の協調を実現しています.そして,遠隔通信を行い異なる場所間での協調を実現することに成功しました.
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本プロジェクトで開発したTRAVEを利用することで,家で筋トレを行う人とジムで筋トレを行う人の両方が,筋トレの楽しさ,成果,モチベーション等を向上させることができるようになることでしょう.デモアプリが示す力覚的楽しさ,VRの錯覚効果による支援,異なる種目・筋力・場所間での合同トレーニングに加え,視覚・聴覚・力覚に連携して介入できるさまざまな効用をトレーニングに提供できます.将来的には,筋トレだけでなく,VRと高出力の力覚連携システムのプラットフォームとして,VR領域全体に対する研究・開発に大きく貢献できると期待しています.
(担当PM・執筆:稲見 昌彦)
[関連URL]
https://home.trave-project.com/
[統括PM追記] まず,VRによるある種の錯覚を利用した筋トレのアイディアが素晴らしい.大きな力覚を生むための少々重い装置などが必要だが,VRゴーグルをかけるのでそれはもう目に見えない.成果報告会で示されたデモはどれも素晴らしい説得力があった.実際に大型魚を釣り上げる体験をした人はほとんどいないだろうから,筋トレ目的でなくても,魚種によって変化する釣りの醍醐味を仮想的に味わえる装置として,釣った魚のリアルっぽいVR映像も用意すれば,遊技場やテーマパークでも使われるようになるのではなかろうか.これに限らず,TRAVEは筋トレ以外の展開が大いにありそうだ.
(2023年7月3日受付)
(2023年9月15日note公開)