なぜ、 うみべの女の子 で泣いたんだろう
その日の朝まで用事があって、次に起きたら外が暗くなっていた日、眠気もおなかの空き具合も分からないときに、Amazon Primeで『うみべの女の子』をみた。
映画の存在は頭の隅っこでうっすらと、ずっと覚えていた。
Cody・Lee(李)をきっかけにみにいった『サマーフィルムにのって』の上映前に流れた予告。
尾崎リノちゃんの(今は江野利内という名前で活動されている)『うみべの男の子』。
観終わった直後は今までだらだらとみた映画の一つだとカウントしてなんともなかったのに、次の日の晩、台所でなんとなく『うみべの男の子』を流していたら胸が張り裂けそうになって、デスクの前に避難するように移動して、泣いた。Cメロ(というのかな)で悲しい音の重なりがあることを覚えていて、その音に辿り着くまでずっと緊張して、そのあとも動悸がして苦しかった。ノートに気持ちを書いた。
すごく久しぶりに嗚咽をしたと思う。
最近は涙を流すことも少なくなっていたし、その上自分の身に起こった出来事ではなくて、何かの作品をみて、というのはいつぶりだろう。
1週間はずっと落ち込んでいて、脳裏に焼き付いて離れなくて、2回観直した。
うわのそらで電話対応をして、家に帰っても他の映像や文章を読むでは一人の時間を過ごせなくて、甘えられる人に甘えた。
また沈んでしまうのは怖いから、今はもう観直す勇気はない。
漫画を手に入れる決心もつかない。ここまで影響を受けたものを、自分の近くに置いておいてもよいのか。
私はいつも、自分がそのまま抱いた実感を歪ませたくない、と思った作品に関して他の考察や感想をみることは避けるけれど、今回は実感を自分一人で抱えるには苦しすぎて、いろいろな人の感想を読んだ(足りないぐらい)。少し和らいだ。
それでも、私はこの沈みを受け入れて、共に進んでいかなければいけない、と感じている。
誰かに分かってもらうことは叶わない(と、今のところ生きてきて確信がもてるようになってきた)私の悲しさは、だんだんと日常に溶け込んでいく。それが正しく、自分が望むことで、そこから逃げる自分はあまり好きじゃないんだな。
滲み出るものがあるんだ、きっと。
こんなにも沈んでしまう自分はいやだけれど、深みのある人間になりたいし、そのために必要な時間と思う。
だから今、ケロッとした顔で何もせずに過ごすこともできる休日に、これを書いている。
自分に向き合うのは、しんどいことだ。だけど、逃げていては前に進めないから、書こう。
◯
出逢うべくしたタイミングで出逢った作品だったと思う。
物語の中であっても、思いが通じ合わないのはひどくつらいものだ。
でも、私とあなたも結局分かり合えなかったんだものね、と思い出す人がいる。
やっぱり「忘れられない恋」なんて言葉で片付けられないんじゃないか、と思った。
普段の生活では、この便利で簡単な言葉に頼って、なんなら気のせいだったんじゃないかと思うぐらいになっていたのに。
世の中の人たちはみんなこんなに悲しい気持ちを抱えながら幸せそうに生きているんだろうか。
あなた以上の人に、今も出会えていないし、これからも出会えないと思っている。
それは別に絶望することではないし、私は今の生活も愛している。
一生消えない悲しさを大切に抱えて、それが少しでも自分らしさをつくり上げる一つになればいいなと思う。
けれど、本当にプラトニックに愛していたし、私はあなたが生きる意味だったし、あなたに救われた。
関係性をうまく昇華することはできなくて、時間が経てば経つほどあなたに抱く感謝の気持ちは大きくなるのに、それを伝えられずにお互い生きていくことは、ひどくつらくて悲しいことだとは、思う。
◯
感想みたいなものを書くとすれば(書きたい)、私は中学生のときセックスなんてしたことがないのに、ここまで現実味をもってダメージを受けることができる作品だった。
二人の描かれていない感情の動きを補って、どちらかに感情移入するでもない、でもどちらの感情にもなれる。
それでも私はやっぱり性別か、描かれ方か、どうしても小梅に寄った見方をしてしまっていると思う。
手紙が読まれることはなかったこと、今までの磯辺が死んでしまったこと、だけど一生懸命殺してること、本当につらくて苦しかった。嫌だよさみしいよ、行かないで。
ちっちゃくて、目立たなくて、なんか真面目そうな小梅と、仲良くなりたかった磯辺、かわいい。磯部はお兄ちゃんの影を背負っているだけで、全然陰鬱でもなく擦れてもいないよね。
(一つだけ、映画で、三崎センパイと対峙したあと帰ってきた磯辺が、お父さんに「父さん、俺、実はさ…」の後に何を話していたのか、ずっと分からないでいます……)
(もう何個か……個室に入ってきた小梅に対して「あ、好きな子を見るときの視線だ」と分かる表情だったり、「えぇw 厨二病ですからw」がうますぎたり、青木柚さんの演技が好きです。桂子が鹿島とキスをしたと周囲が騒いで、自分と磯辺に落とし込めない表情をする石川瑠華さんの演技も好きです。ラストの旺志郎くんもうまいです。)
◯
二人の激情と、あなたと私の間であったこと、ちがうものだって認識できてきてる。
もう少し離れた視点からみたら、二人が惹かれあった理由なんて分からないし、きっと、あなたと私だって。
この沈みを受容して、現実を生きてゆく。
本当は、誰か私の憂鬱を分かってくれる人がいればいいのに、と思うけれど。
私がもっている悲しさは、気づかれたって気づかれなくったっていい。
それでいい。
私が私でいるために務めることは、きっと意味がある。
もうだいぶ、今までと地続きの生活に体は引き戻されてきた。
でもまだ、夜は胸がざわざわして眠れないです。
◯
写真は、一緒にみた海のような浜のような。