ハノーバー 上
⭐️⭐️⭐️⭐️
(星の数でこの記事のオススメ度を五段階で評価しています)
皆さんこんばんは
フリックフラックの髙橋壱歩です。
いつも僕の記事を
お読みいただきありがとうございます。
さて、本日は僕がnoteで記事を書きはじめて
298日目
つまり、もうすぐ300日です
100日目の時も200日目の時も
手前でいつも長めの記事を書いていたので
今回もそのようにしようと
考えていました。
しかし、なかなか
テーマとして大きいものが見つからず
どうしようかなぁと思っていたら
ハノーバーの良元カルビから
「お前俺らのnote書く言うてたけどまだか?」
と連絡が来ました。
実は先月、3月終盤の時点で
松竹芸能所属の
ハノーバーというコンビについて
書こうとは
思っていたのですが
なかなか上手くまとまらず、
これは長くなりそうやなぁなどと
呑気に考えながら
書きかけになったまま放置していたのです。
4月後半になって
催促されたこともあり、
やっと重い腰をあげ
投稿することにしました。
今まで何度かあるコンビや
芸人について書いたことはあるのですが
どれも結構なボリュームになっています。
今回もかなりの量になってますが
是非最後までお楽しみいただければと
思います。
(昔の話が結構出てくるので
所々記憶違いがあるかもしませんが
ご了承ください。)
それではスタートです。
今から5年ほど前、
僕は
シンプルテンプルという
前のコンビで活動をしていました。
活動と言ってもその頃はまだ、
インディーズライブに月数回出演する
というだけの状況
まだまだ本格的にお笑いをやっているとは
言えない段階でした。
様々な先輩方から
ライブのエントリー方法などを
教えていただき
活動範囲が少し広がった頃、
ある先輩から
こんな誘いを受けました。
「グ○ッチェという
お笑いショーバーがあるから
シンプルテンプルも出ないか?」
駆け出しで舞台数の増やし方もよく分かっていなかった
僕たちにとってこのような誘いは非常に
ありがたいものです。
僕たちはそのお誘いをすぐに承諾し、
次の週にはネタ見せを行って
グ○ッチェに出演することになりました。
この記事でも書いたのですが
ボニーボニーさんと出会ったのが
ちょうどこの頃でした。
グ○ッチェに出演しはじめて
1週間ほどが経ちました。
その頃のグ○ッチェのシステムは
1日6公演
何組かの芸人が出演し、
順番を変えてネタを行うのですが
毎公演MCは交代で回していくという
スタイルをとっていました。
舞台にではじめたばかりの僕たちにも
MCの番は回って来ました。
こんな機会を与えてくれるのは
ありがたいと思いつつも
周りは先輩ばかり
上手くできているのかも
よくわからないまま
かなり浮き足立っていたのを
ハッキリと覚えています。
そこからまた数日経った頃、
その日も僕たちは
グ○ッチェにいました。
グ○ッチェの狭い楽屋で
ギュウギュウになりながら
他の芸人さん達と話をしていると
ボニーボニーのお二人から
突然こんなことを聞かれました。
「あれ?お前ら明日もおるっけ?」
たまたま2日連続で出演することが
決まっていた僕たちは
はいと答えました。
するとこんな事を言われたのです。
「明日はハネウマもおるな。
お前らの同期」
同期
聞き馴染みがあるようで
無いような言葉でした。
今でこそ
社会人の同級生なども
同じ年に入社した社員のことなどを
「同期」と言ったりするのを
聞いたりしますが
その時僕が聞いた
「同期」という響きは
それとは少し違い、
テレビで芸人さん達がたまに使っていた
「同期」という言葉のニュアンスを確かに
孕んでいたのです。
同期
そうか自分たちにも同期ができるのか
というより
もう既にいるのか
その時まで出たあらゆるライブで
会うことの無かった「同期」という存在に
会えるという事実に
素直に心が躍ったのを覚えています。
次の日、
いつも通りグ○ッチェに来た僕は
スタッフの方に挨拶を済ませると
楽屋の扉を開けました。
目の前に見知らぬ大男2人が
現れました。
「おっ!やっと来たかお前ら」
狭い楽屋に大きめの男が他にも数人
馴れ馴れしく話しかけてきた
その人物たちこそ
現在の「ハノーバー」
当時でいう「ハネウマ」の
2人でした。
僕の当時の相方も到着し、
4人で適当な挨拶を済ませて
公演がはじまるまでの
数分間、談笑しました。
その間僕はずっと
ある違和感を覚えていました。
ハノーバーの2人は僕たちの
5歳年上
芸人同士は年齢ではなく
芸歴で判断するという基本的なルールを
頭では理解していましたが
行動が追いつかなかったのです。
彼らがタメ口で話しかけてきて
僕たちも同じようにタメ口で返す。
慣れないなぁと思いました。
僕らが小1の時、彼らは小6です。
それほど年上の人間に対して
フランクに話すことに
まだ慣れなかったのです。
対照的に彼らは当たり前のように
振る舞っていました。
そこが違和感だったのです。
こいつらも最近舞台ではじめたんやんなぁ?
なんでこんな年下の俺らと
普通にタメ口で
何の違和感も無く話せるんや?
慣れるまでは敬語同士でいる可能性も
十分あり得ることであったにも関わらず、
彼らは本当に
昔からの友達であるように僕たちに
話しかけてきたのです。
そこからしばらくして
第1公演がはじまりました。
お客さんはまばら
1公演目のMCはハネウマの2人でした。
僕は元相方とその様子を舞台袖から
眺めていました。
単純に興味があったのです。
自分たちとほぼ同じ時期に
舞台にではじめた人間が
どの程度のものなのか
彼らが学生時代の同級生だということは
楽屋で話して知っていました。
僕は大学の落語研究会の同級生と
組んでいたので
ほぼ出会いたてということになります。
昔から知っている相手と組んだコンビの
相性はどうなのかというのも
気になったのかもしれません。
MCを終えた2人が
舞台をはけて戻ってきました。
「どうや?MC上手いやろ」
公演前の楽屋での会話でも
それは垣間見えていましたが
彼らはMCに関して
かなりの自信を持っているようでした。
その自信は決して根拠のないものでは無かったのです。
その日の出演芸人がネタをし、
第1公演が終わりました。
僕はハネウマのネタを
注意深く見ていました。
その時、彼らがしていたのが
そこから僕が何十回と見ることになる
ラップのネタでした。
彼らのMCとネタを見て
その当時の僕は思いました。
デカい図体して器用な奴らやなぁ
と
これが
この後数年間、何度も交わることとなる
僕とハノーバーとの出会いでした。
数日後、
その日、僕の前のコンビは
あるバトルライブに出演していました。
それは
何十組という大勢の芸人さんたちが出演する
大阪インディーズ界でも有名なライブで
僕たちが出演するのは
確か、はじめての事でした。
演者が多すぎて
気づかなかったのですが
その日はハネウマもいたようです。
会場で僕たちの姿を見つけた彼らは
一言こう言い放ちました。
「勝負やな」
このライブのシステムは
ネタを何人かの作家さんが見ており、
点数をつける。
ライブ終演後に集計して
順位が張り出される
というものでした。
つまり、どちらのネタが良かったのか
ということが
数字としてハッキリ現れるのです。
その事を彼らは勝負と言ってきたのでした。
なるほど
確かに
グ○ッチェは寄席形式をとっているので
順位がつくことはない。
つまり今日、
初めて僕たちコンビの間で
優劣がつくということになります。
僕はライブがはじまるまでの間
2人のことをなるべく考えずにいました。
今後、彼らとランキングライブに出る機会は
何百回とあるだろう。
その結果をいちいち気にしていても
しょうがない
今日がその第1回目なだけ
何も特別な日ではない
ライブが終わり、結果が出ました。
はっきりとした順位や点数は
覚えていませんが
確か2点差か何かで
その日は僕たちの勝ちでした。
着替えをするスペースで
衣装を片付けていると
彼らが近くに来て言いました。
「おい!次は負けへんからな!」
僕は自分自身がよくわからない心境で
いることを
自覚していました。
なんだろうこの気持ちは
あの日から5年ほど経った
今はその正体がある程度わかります。
その当時、
彼らはUMEDA芸能という
芸人が数組しかいない事務所に所属しており
僕たちはフリー
お互いに認識しあえるような同期が
いなかったのです。
養成所に通っていれば
同期というのは何百人とできるのでしょうが
僕たちにとって
そして彼らにとっても
厳密に同期と言えるのは
1組しかいなかったのです。
お互いにそうだとなれば
ライバル意識のようなものが
芽生えるのも当たり前
その意識を最初に露わにしたのが
彼らだったというだけなのです。
こいつらとはこれからも
何度も戦うんだろうな
そう実感した瞬間でした。
時は流れ、
2017年の6月ごろになりました。
キングオブコントやM-1の予選を控え、
多くの芸人がソワソワする時期です。
僕たちもその中の1人でした。
2016年のM-1で
1回戦落ちしていた僕たちは
来年は必ず突破しようと
4月から準備をしていました。
そしてこの頃には
これならばいけるだろうというネタが
確定していました。
明らかにそのネタだけ
どのライブでやっても
反応が違っていたのです。
グ○ッチェの楽屋で
賞レースの話になり、
僕はふとハネウマの2人に
尋ねてみました。
「俺らは去年あかんかってんけど
お前らは去年M-1どうやったん?」
彼らの回答は意外なものでした。
書類の不備でエントリーできなかった。
当時の僕は愕然としました。
確かにM-1のエントリーというのは
少しだけややこしくなっているのです。
他のライブはメールやLINEのやりとりのみで
済ませることができますが
M-1の場合は印刷をして封筒と切手を買って
ハンコを押して写真を現像して
と作業が多めなのです。
それにしても芸人にとって
たった1日で人生が変わる可能性のある
M-1という大きな舞台において
エントリーが出来なかった
ミスをしたという例を
僕はそれまでプロの芸人から
聞いたことがなかったのです。
マジか
僕はその時点で会話をやめました。
どのネタをするかなどの話をしたかったのに
去年エントリーが出来なかった奴と
話してもしょうがないと思ったのです。
数ヶ月後
僕の前のコンビである
シンプルテンプルは
初の単独ライブをすることになりました。
初めてのことで
どのようにするのかもわからず
迷っていると
ハネウマの良元がこんな事を
言ってきたのです。
「今度お前らの単独あるやろ?
俺らMCするわ」
その言い方はあまりにも強引なものでした。
さもあらかじめ
決まっていたかのようでもあり
僕たちが頼み込んでいたかの
ようでもありました。
僕は元相方と顔を見合わせました。
微妙な顔をしていました。
しかし、彼らにMCを頼めば
間違いないことは
わかっていました。
グ○ッチェでの何度かの共演で
彼らの特筆すべきMC力を
思い知らされていたのです。
「まあ、ほな頼むわ」
数日後、本番の日を迎えました。
会場だった日本橋UPsには
僕たちの知り合いや同級生などの
関係者が60人ほど
集まってくださり
満席という状態でした。
初めての単独で
楽屋でソワソワしていると
なぜか眉毛を全剃りした良元と
井口が入ってきました。
その日の香盤表は最初にハネウマだけで
MCがあり、僕たちがネタ10本
間でMCとゲストのネタが挟まるという
ものでした。
つまりこのライブで
最初に出てくるのは
主役である僕たちではなく
ハネウマの2人だということです。
大丈夫だろうかと
少し不安になりました。
ただでさえイカつめの見た目の彼ら
それに輪をかけるように
今日は眉毛が全剃り
客席は僕たちの知り合いばかり
つまりハネウマの事を
知っている人間は
ほぼ1人もいないという事です。
いきなり一発目にこんな
ゴロツキみたいな2人が出ていって
大丈夫だろうか
「まあとりあえず俺らが最初に盛り上げるから
そこからお前ら1本目やな」
開演直前にはそんな事を気にしている場合では
ないほどの緊張が僕を襲いました。
そして開演時間を迎えました。
1本目のネタの準備のため
僕たちは舞台袖に待機
ハネウマの2人が
舞台に出ていき、
ライブの説明や
自分たちと僕らの関係性などについて
軽く話します。
その様子を見て僕は少し驚いていました。
会場がドッカンドッカン
ウケていたのです。
すごいな
素直にそう思いました。
その日の会場のお客さん方は
自分で言うのもなんですが
僕たちを見にきてくれたわけです。
僕たちだけを見にきてくれたと言っても
過言ではありません
それなのに
誰やねんこいつらは
と言う疑問を跳ね返し
場の空気を完全に支配していたのです。
その後徐々に緊張も解れていき、
無事に初単独は終了しました。
終演後僕は思いました。
この1週間本当に頑張った。
僕も僕の元相方も
本当に大変な1週間だった、
でもこの単独を無事終えることができたのは
ゲストである先輩芸人と
ハネウマの力が大きかったのではないかと
もし他の人にMCを頼んでいたら
アンケートを読み直して更に思いました。
今日ハネウマのことも好きになりました
と言うような意見が
いくつもあったのです。
そこから約1ヶ月後
僕たちのその年のM-1が終わりました。
僕たちは2回戦敗退
ハネウマは1回戦敗退
複雑な心境でした。
もっと上の次元で
もっと高い場所で争わないといけないことは
わかっていつつも
嬉しさも確かに僕の中には存在していたのです。
自分たちは勝っているんだ
と言う小さな優越感が
当時の僕にとっては
少し心地良かったのかもしれません
また更に時が流れ
2018年の夏になりました。
この頃には
僕の前コンビにはある変化がありました。
周りにはほとんど話していなかったのですが
シンプルテンプルは
2019年春には解散する
と言うことが2人の中で決定していたのです。
続く