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3位決定戦集中力切れてる説 (上)

⭐️⭐️⭐️⭐️
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昨年の夏

僕は静岡に向かう列車に揺られていた。

夏の学生落語大会
決勝トーナメントに出場するためだ。

1ヶ月ほど前に予選が行われ、
僕は無事に勝ち進んだ。

春の大会で優勝した僕は
ここで落ちるわけにはいかないと
かなりプレッシャーを感じていたが
その分緊張感を持ってこの1ヶ月を過ごせた。

今回は負けるわけにはいかない、
連覇がかかっている。

気合いが入りまくった僕は
会場のある浜松に前前乗りした。

大会の前々日に会場の近くにいることで
身体を慣れさせようと思ったのである。

ホテルに着いた僕は
簡単な食事を済ませ、
ほぼ調整に近い落語の練習。

シャワーを浴び、たっぷりと寝た。

次の日、夕方までゆっくりと過ごし
トーナメントでやる予定だった3本のネタを
一通り演ってみた。

この2ヶ月間でどの演目をやるか決め
台本を練り直し練習をし、
ほぼ直す箇所はないと感じていた。


「あかん優勝してまう。」

僕は大学の同期にLINEでそう送った。

もうやることはない。

僕は浜松を満喫するため
うなぎを食べに行くことにした。

店に入ると僕はまず選択を迫られた。

メニューに並ぶうな重並とうな重上の文字。

僕はふとスマホを取り出し
大会のホームページを開いた。

優勝賞金の欄を見る。

「上やな。」

店員が持ってきたうな重を一口食べる。

「あかんがな、こんなうまいもん
食てもうたら余計優勝してまうがな」

いつもよりコテコテの関西弁になった僕は
部屋に戻った。

完璧に仕上がりきっている。

アドレナリンが出まくっていた。

そのせいなのか、
なぜかずっと勃っていた。

あとはゆっくり休むだけ。

次の日、
いつもより早めに目覚めた僕は
支度を済ませ駅へと向かった。

今回の会場ははじめて使う場所。

遅刻してはいけない。

途中の電車で同じ大学の後輩に会った。

そのうち2人も
僕と同じように決勝トーナメントに出場する。

僕たちは3人とも
静岡の違う街に泊まっていたようだ。

電車に揺られながら僕たち3人は
特に何も話さない。
3人が3人ともそれぞれ集中している。

はじめ、混雑していた車内も
しだいに空きはじめ、
僕は席に腰を下ろした。

体力を消耗してはいけない。
そんなことで負けるのはもっての他だ。

しばらくすると
電車に乗り込んできた女性が
僕の目の前に立った。

僕は席を譲った。
別に徳を積んでおこうとか
そんなことではない。

ごく自然に何の感情もなく。

しかし席を譲りその女性の目の前に立った
瞬間

僕は愕然とした。

僕が席を譲り
目の前に座ったのは紛れもなく
その大会の審査員の1人だったのである。


「あかんあかんあかん!
こんなん優勝確定演出やん!!!
あれやん!面接のやつやん!
面接の前にお年寄り助けて遅刻して
会社行ったらそのお年寄りが
会社の偉いさんのパターンのやつやん!
ていうか審査員も電車で来るんや!ハハハ」

全力でガッツポーズしたいのを抑えつつ
僕は後輩たちに申し訳ないとさえ思った。

すまん!来年頑張ってくれ!

勝利を確信した 俺 はまだ取ってもいない
優勝賞金の使い道や
おめでとうLINEの返信に
追われるんやろなぁなどと呑気に考えていた。

決勝トーナメントはまだはじまっていない。



続く

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