スーツはどこへ消えた?
⭐️⭐️⭐️⭐️
(星の数でこの記事のオススメ度を
5段階で評価しています)
皆さんこんばんは
フリックフラックのいっぽです。
いつも僕の記事をお読みいただき、
ありがとうございます。
さて今日はね、
僕の人生最大の謎について
書いていきたいと思います。
あれは僕がまだ
大学生の頃ですね。
当時僕は、今とは違うコンビを
組んでいたんですね。
大学の落語研究会に所属していたんで
そこの同期と
1回生の頃から
大阪でインディーズのお笑いライブに
出演したり
学生お笑いのイベントに出たり
色々と活動をしていたんですよ。
そういう活動をはじめて
数ヶ月が経った
1回生の3月ごろですね
コンビでお揃いのスーツを
作ることになったんですよ。
今でもそうですけど
その当時の僕は
お揃いのスーツというものに
尋常じゃない憧れが
ありまして
漫才をするなら
やっぱりスーツは
お揃いにしたい
という気持ちが強かったものですから
2回生になる前に
一緒に作りに行こうと
当時の相方に提案して
芸人の先輩に相談して
色んな芸人さんの衣装を作っている
ある店を紹介してもらったんですね。
店に予約の電話をして
迎えた当日
2人で向かったのは
マンションの1室でした。
想像していた風景と違いすぎて
ここで合っているのか?
と不安になりながらインターホンを
押すと
出てきたのは
少し胡散臭そうな、
スーツを着こなした
オールバックの中年男性でした。
部屋に招き入れられて
ソファーに腰掛けます。
部屋の中は
マンションの1室を
テーラー風にリフォームしたような
デザインでした。
コーヒーを出されて、
どのような衣装にしたいか
聞かれました。
その当時の相方は
衣装へのこだわりが
あまり無い様子だったので
僕は自分の意見を
真っ直ぐに伝えました。
予算に合わせて
色々な生地を見せてもらいます。
この時点でかなりテンションが
上がっていました。
オーダースーツを作ってもらう時に
テンションが上がらない男は
世の中にいないと思います。
一通り生地を見終えた僕は
なんとなく
予算外のワンランク上の生地も
見てみることにしました。
その最中です。
ある生地を見た瞬間に
衝撃が走りました。
それは
紺のベースに
ピンクのような
紫のようなラインが入った
チェックの生地でした。
これが良い!
見た瞬間にそう思いました。
これなら誰とも被っていないし
芸人っぽくもあるし
何よりカッコいい!
僕はすぐに相方への
予算オーバーの説得の手段を
考えました。
どうしたら
この生地でも良いと
言ってもらえるだろうか
ただこの懸念は
すぐに解消されました。
理由は2つあります。
まず、僕が
スーツの上下にプラスして
ベストも作る予定だったのに対し
相方は
スーツの上下のみ作る予定だったため
そもそもの予算が僕よりも
低かったこと
そして、そのお店が
そもそも芸人に好意的だったため
値下げを提案してくれたこと
です。
予期せぬ好展開に
さらにテンションが上がった僕は
裏地やボタンにも
生地と同様のこだわりを見せ
名前の刺繍まで入れる事にし
入念に体のサイズを測ってもらったのち
前金を払って
マンションの1室を後にしました。
その日は
新たな一歩が踏み出せたような気がして
それこそ天にも昇る心地でした。
数週間後、
スーツが出来上がったという
連絡が届きました。
再びマンションの1室を訪れ、
出来上がったスーツに
袖を通します。
相方と並んで鏡を見ると
そこには見違えるような
漫才師が2人並んでいました。
初対面で胡散臭いと思ってしまったことを
心の中で詫び、
最大級の感謝を示して
残りの料金を支払い
店を後にしました。
そこからまたしばらく経ちまして
新衣装のお披露目は
2回生の4月、
落語研究会の新入生歓迎公演で
行いました。
落語研究会では
年に数回、色々な寄席を開催していて
落語と落語の合間に
漫才を披露する機会があるのです。
真新しい衣装に身を包んで
舞台に飛び出すと
沢山のお客さんが
僕たちを出迎えてくれました。
その頃には
いつの間にか
僕は金髪になっていました。
公演のあと、
袖で見てくれていた落語研究会の
先輩に話しかけられました。
「10分くらいやってたな」
僕は、長くやりすぎたかなと思い
「すみません、ちょっと長くやりすぎました」
と謝りました。
すると、
「違う違う!良かった!
5分くらい経った時に
盛り上がってたから
もっとやって欲しいと
思ってたんよ」
と言っていただきました。
他にも見にきてくれていた
高校時代からの同級生の
女の子2人に
こんな事を言われました。
「いっぽ、さすがやな」
たった一言でしたが
こんなに嬉しいコメントは
ありませんでした。
言葉の重みに長さは関係無いのです。
僕には彼女達の言葉の意味が
しっかりと伝わってきました。
それもこれも
衣装のおかげだと思いました。
自分たちの調子がたまたま良かったのも
もちろんありますが
衣装でモチベーションが
上がったのは
疑いようも無い事実でした。
そこから数ヶ月、
そのスーツを着て
色々な舞台に立ちました。
単独ライブもさせていただきましたし、
この年の8月に出場した
M-1グランプリでは
1回戦も突破することが
できました。
それからまたしばらく経った頃でしょうか
とある学生芸人のライブに
出場することになったんですね。
会場は
兵庫県西宮市にある
某ショッピングモールでした。
このライブね、
今は無くなってしまったんですけど
昔は定期的に行われていまして
僕たちにとっては
結構思い入れのある
ライブだったんですね。
僕もその当時の相方もそれ以前に
それぞれ違うコンビで
出場したことがあって
でも1位が獲れなくて
なんとか1位が獲りたいな
という気持ちで
会場入りしたのを覚えています。
ライブがはじまって
出番が来ました。
ウケは上々でした。
結果発表
無事1位を獲得することが出来ました。
舞い上がった僕たちは
一緒に出演していた
仲の良い先輩方と
打ち上げに行くことにしました。
打ち上げも一通り盛り上がって
終電を逃した僕は
近くに住んでいた
仲の良い関学の先輩の家に
泊まることにしました。
次の日の朝、
その家は駅まで
ちょっと距離があったので
バスに乗って駅まで行きます。
駅に着いて
電車に乗りこみ
しばらく経った時です。
ある事に気がつきました。
衣装が無いのです。
あれ?
正直困惑しました。
昨日、会場に持ってきて
ライブで着たはずの
あの衣装が手元に無いのです。
どこかに忘れてきたのか?
どこかに忘れてきてしまったのだろう、
ちゃんと見つかるだろう
という謎の自信を持っていた僕は
とりあえず家に帰る事にしました。
京都の一人暮らしの家に着き
まずは昨日泊まった先輩に
連絡を入れました。
「お疲れ様です!
昨日はありがとうございました!
僕、衣装忘れてませんでした?」
先輩の家が
最有力候補でした。
先輩は当時、
ルームシェアをしており
部屋もかなり散らかっていたので
どこかに置きっぱなしに
してしまったのだろうと
考えたのです。
先輩から返事が来ました。
「無いで」
え!?
僕はもう一度確認することに
しました。
「本当に無いですか?
もう1回探してもらえませんか?」
「ちゃんと探したけど
無いで」
少し不安になってきました。
僕は自分が乗ったバス会社の
電話番号を調べ
かけてみることにしました。
「紺色で紫というかピンクっぽい
チェックのスーツ
忘れ物で届いていませんか?」
しばらく保留音が鳴ったのち
そういう類の物は見つかっていない
という返答が来ました。
あれ!?
自分自身の脈がはやくなるのが
ハッキリと感じられました。
次に鉄道会社に電話しました。
返答はバス会社と
同じでした。
次に昨日行った店にも電話しました。
返答はバス会社と鉄道会社と
同じでした。
次に
会場である西宮の
ショッピングモールに電話しました。
返答はどこも同じでした。
そういう類の物は見つかっていない
背中に嫌な汗が滲みました。
もしかしてなくしたのか?
昨日から今日までの行動を
今一度、洗い直す事にしました。
しかし、
他に心当たりは無く
完全に詰んだ状態でした。
本当にどこかに行ってしまったのか?
次の日、
僕は同じ場所に同じように
連絡をしました。
先輩に至っては
少し鬱陶しそうでした。
これは本当に
ヤバいことに
なってしまったかもしれない。
かなり焦りました。
数日後に
僕たちのコンビは
単独ライブを控えていたのです。
大切な衣装を
なくしてしまったのだから
やはり相方は怒るだろうか
そして迎えた
単独ライブ当日
遂に衣装は見つかりませんでした。
僕は相方に真実を伝え
誠心誠意
謝ることにしました。
相方は全く怒っていませんでした。
むしろ呆れているようでした。
お前があんなに
お揃いの衣装にこだわって
それで作ったのに
お前側がなくすって
どういうこと?
という顔をしていました。
どうしても
お揃いの衣装が良かった僕は
会場近くのH&Mに入り、
限りなくあのスーツに近い柄の服を
2点購入し
1つを相方に渡しました。
相方は更に呆れていました。
わざわざ買い直すほど
お揃いにしたい気持ちがあるのに
なくすってどういうこと?
ていうか、そもそも
スーツなくすってなんやねん
あんな大きいもの
なくす方が難しいやろ
財布とかスマホやったら
まだわかるけど
落としたり置きっぱなしやったら
周りの誰かが気づくし
何かに紛れてるとかも無いやろ。
彼の表情がそう物語っていました。
でもそれも仕方がありません
僕はそれほどの事を
しでかしてしまったのです。
正直本当にどこに行ったのか
わかりませんでした。
もう、誰かが盗んだとしか
考えられませんが
あんな奇抜な柄のスーツを
誰かが着るために
盗んだとは考えにくいですし
僕の名前の刺繍まで
入っています。
2022年
7月12日現在
あの時のスーツは
どこに行ったのか
まだわかっていません。
元相方は
残されたスーツを普段使いすると
言っていましたが
着ている姿を実際に見たことは
ありません。
スーツを無くしてから
数年経った頃でしょうか
当時懇意にしていた女性と
兵庫県の神戸市に遊びに行ったことが
ありました。
ブラブラと散歩していると
目立った外見をした
一軒の古着屋さんを見つけました。
吸い込まれるように
店内に入ると
僕は吸い寄せられるように
ある場所の前に立っていました。
目の前には
沢山の派手な柄のジャケットが
かけられていました。
食い入るように
それを見つめます。
突然の行動に
驚いて着いてきた
その子が
僕にこんなことを聞いてきました。
「どうしたの?
ジャケットを探しているの?」
僕は答えました。
「うん。
いや…なんでもない」
何事も無かったかのように
店を出ました。
僕はこの時、
この場所にあるはずもない
あのスーツの影を見ていたのかも
しれません。
ではまた明日