若きスターになった一夜
おれたちは急いでいた。売れっ子の俺たちは現場間を20分で移動しなければならなかったのだが、高森MGの不手際、タクシーの渋滞によりリーガロイヤルホテルでの営業に19分遅刻してしまった。支配人に謝る高森MGを横目に、おれと粗品は喫煙所に向かうのだった。
隣で大好きな粗品が葉巻を燻らせていた。おれは喫煙所で粗品と遊園地のネタの最終打ち合わせを行った。まさに至福の時だった。本番が近づくにつれ、緊張感が高まっていく。黄色のネクタイが少し苦しい。
いよいよ本番だ。舞台袖からセンターマイクに向かっている時、生まれて初めて大歓声を浴びた。最高の景色だった。
おれはこの時点で、これが夢であることに気づいていたが、抗うように目を瞑りせいやになりきった。
粗品とセンターマイクを挟む。頭が真っ白になった。とりあえずおれが喋り出さなければ漫才が始まらない。とりあえずボラギノールのCMのボケをかました。その後のことはあまり覚えていない。ジェットコースターで観覧車の会話をするボケをしたこと。相方の粗品が最高のツッコミをしてくれたことはかろうじて覚えているが。
漫才が終わり、粗品の背中を追いながら舞台袖にはける。客席からの拍手が絶えない。息が切れている。客の笑い声など我関せず、おれは無我夢中で一生懸命動き回った。
舞台袖に入ったところで俺の夢は終わった。もう少しせいやでいたかった。しもふりチューブで、最近更新されていないナルト回をとりたかったが、まあ良い。本物のせいやがやってくれたほうが何倍も面白いに決まっている。
夢の中ではあるが、若くしてスターになった霜降り明星を疑似体験できた。大衆を沸かせることがこんなにも自分を満たしてくれるのだと、承認欲求の高いおれはそう思い、また目を閉じるのだった。