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vol.22:私がCreepyNutsを好きな理由~オールナイトニッポン1部昇格によせて

障害者家族エッセイストの川島田ユミヲです。

はじめに、これを書くにあたって
「これはただのガチファンのラブレターになりそうだぞ…」
「障害当事者だとか障害者家族のこと関係ないかな…??」
と思い、エッセイのマガジンに追加するかどうかを一瞬迷いましたが、追加しました。どうぞお時間があるときにお読みください。Creepy Nutsを好きな人はもちろん、そうでない人もどうかひとつ。

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今やTVで大活躍のHIPHOPユニット “Creepy Nuts”
日本のMCバトル三連覇のラッパー “R-指定” と、DJバトル世界一の “DJ松永”

私がCreepy Nutsを好きになったのは、楽曲が先行ではなく、完全に “人柄” でした。

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二十代の頃にお付き合いしていた方がHIPHOPが好きな人で、そこでRHYMESTER(ライムスター)を知りました。日本語ラップの言葉の紡ぎ方の妙だったり、言葉を合わせて韻を踏み、韻を踏みつつも曲のストーリーはしっかり構成されている。日本語ラップから、そんな素晴らしさを教わりました。

とは言えRHYMESTER以外にも色々聴いてたかと言えばそうでもなく、海外のHIPHOPには滅法疎い。だから、全然HIPHOPに精通しているわけではないんです。ただのRHYMESTERファンなだけなんです。

Creepy Nutsのふたりの存在を知ったのも、RHYMESTERがきっかけでした。宇多丸さんがLIVEのMCとかで、
「ちゃんとメディアで “ライムスターが好きです” と明言する後輩」
みたいな感じで、その名前を出すようになったからかな?
あと夏フェスなどでRHYMESTERと共演するのを、SNSを通じて観ていたのかもしれない。

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2020年春、友人に勧められて「Creepy Nutsのオールナイトニッポン0(ZERO)」を聴き始めた。

先述した通り、私はHIPHOPやR&Bが好きというわけではないし、所謂J-POPだって大好きだし、ハードコアやミクスチャーのバンドに在籍していたからと言ってその界隈に詳しいわけではない。ただ、音楽が好きなので、ジャンルで特別何が好き、という括りがない。

とは言えお恥ずかしいながら、
「HIPHOPの人たちは日本より海外のカルチャーの話をするイメージ」
を、勝手に抱いていた(ごめんなさい)。

だからHIPHOPカルチャーに精通する人たちのラジオを、殆ど聴いた事がない。加えて毎週土曜日は大体仕事だったというのもあり、宇多丸さんの「ウィークエンドシャッフル」も殆ど聴いてなかった。いずれにせよ、聴く取っ掛かりを掴めなかったのだと思う。

「CreepyNutsのオールナイトニッポン0(ZERO)」は、海外のHIPHOPアーティストのニュースにも触れたりするんだけど、

  • シンガーのエド・シーラン、出席したパーティーの中で始まったサイファーにフラッと参加し、プロのラッパーたちをラップでボコボコに負かす

  • エミネムが「Loose Yourself」のリリックにちなんだスパゲッティ屋「Mom's Spaghetti」をOPENさせる

  • リル・ウージーバート、額に26億円相当のダイヤモンドを埋め込む

  • その埋め込んだダイヤモンドは、音楽フェスで観客席に飛び込んだところ、観客に引きはがされてしまう

  • スヌープ・ドッグがスーパーボールのステージで「マリファナを吸う?吸わない?」という賭けが、ギャンブルのポータルサイトで盛り上がっている

…という、だいぶ笑えて、むしろどうでもいいニュースが多い。それを軸にRと松永が想像を膨らませては、ゲラゲラ笑っている。
まるでクラスメイトが周囲の目を気にせず、自分たちの好きな話をわちゃわちゃ話しているような感じだ。

あとフリートークでは

  • マックやモスバーガーが美味しい話

  • どこのコンビニが好き?の話

  • サイゼリヤが1円値上がりするも「おつりを減らすためという企業理念」を知って、余計サイゼリヤが好きになる話

  • なんやかんやキムタクのドラマは最強な話

  • 昔聴いてたJ-HIPHOPだってちゃんとカタい韻をキメている解説

  • ライムスターの武道館LIVEのDVDの話

などなど。

ぜんぶ、私の好きなものの話を、楽しそうにキャッキャと話している。

めちゃくちゃ身近に感じた。

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思えば私は、自分の “好き” を否定され続けた人生を過ごしてきた気がする。それは時々、今も感じる事ではある。

小学生の頃はSMAPが大好きで、CD買ったりミュージカル観に行ったり、元旦の武道館コンサートも行った。
所謂ジャニヲタ、アイドル好きが「ダサい」とか「キモイ」と言われる風潮があった。

推しはキムタクだった。中学生になってSMAPが国民的アイドルとして評価され始めてからは推し活から離脱したものの、その後のキムタク主演ドラマは大体チェックしていた。
「キムタクなんてカッコつけてるだけで演技下手じゃん」「どれに出ても、全部キムタク」と言う人が余りにも多くて、好きだと言えなかった。

中3ぐらいから、L'Arc~en~Cielにどっぷりハマった。高校に進学してアルバイトを始めてから、ラルクが出ている音楽雑誌は毎月何冊も買っていた。界隈のビジュアル系バンドもちょこちょこ聴いたり、名前をたくさん覚えた。
「ビジュアル系なんてナヨナヨした男が化粧しててダサい」「どうせ楽器ちゃんと弾けなくてLIVEでも当てぶりなんでしょ?」と言われて、悲しい思いをした。

J-POPだって大好きだったし、今でもヒットチャートで話題になる音楽はチェックしている。海外ドラマより日本のドラマの方が好きだ。
「セルアウトだ」「海外ドラマの比にならない」「本物の音楽じゃない」と言われて、拳を握りしめていた。

食事に関しても、ファーストフード大好きだし、チェーン店のファミレスや居酒屋大好きだし、むしろチェーン店で働いてた事何度もあるけど
「チェーン店なんてまずい」「コンビニ飯やファーストフードは毒だ」「店員の態度が気に入らないから行きたくない」と話す人が多くて、そんな事ないよ…?それなりに努力してるよ…?と悲しくなる。

果たして音楽も食事も「セルアウト=ダサい」のか。お洒落な音楽を聴いて、ヘルシーな料理を食べるだけが、そんなに楽しいんだろうか。
ビックマックセット食べました、月9の恋愛ドラマが好きです、VS嵐は毎週欠かさず観てました、って言えないこの現象に “ 〇〇的マイノリティー ” みたいな言葉、もう既にあるんじゃないだろうか。

もしかしたら私の「人の目を気にして考えすぎる」「場の空気を壊したり、相手に不快な思いをさせてしまう気がして、即座に言い返せない」「否定されるのが怖い」という臆病な性格がそうさせていたのかもしれない。

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そんな私の肩身の狭さを払拭してくれたのが、CreepyNutsのふたりだった。

「この人たち、ちゃんとJ-POPとか日本のドラマとか、私の生活圏内にあるものを、声を大にして好きって言ってくれる…!」

嬉しかった。もう勝手にツレだと思えるぐらい嬉しかった。

他愛のないフリートークで仲良くやいのやいのしつつも、時にはお互いのウィークポイントをなじり合い、でもお互いのラップやDJのスキルには、絶対的な敬意を表す。なにこの人たち…!めちゃイイ奴らじゃん……!!

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その「めちゃイイ奴ら」ことCreepyNuts。

「HIPHOPは基本的に “自分語り” “俺の話” ばかりで、そんな俺の話が誰かの人生にもリンクしたりするし、俺も実際中学生のときにRHYMESTERを聴いてめちゃくちゃ共感してめちゃくちゃ好きになって、こんな俺でも自分語りでラップしていいんや、って思った」

これはよくR-指定が各メディアやLIVEのMCで話す事。めちゃイイ奴らの自分語りのリリックとトラックが、私の心にめちゃ響いてしまうのはもうおわかりですよね。笑

2020年の夏にドロップしたアルバム「かつて天才だった俺たちへ」のリリース記念配信ライブ(記事ヘッダー画像)。むちゃくちゃカッコ良かった。元からカッコイイ楽曲を、映像や照明の演出がさらに華を添え、本当に素晴らしい配信ライブだった。

過去のアルバムも聴き漁ってさらにハマり、SPACESHOWER TVの特番で「かつて~」の全曲解説をしていたときに、アルバム3曲目の「オトナ」でR-指定が

「自分はADHDの症状に全部当てはまって、松永はアスペルガーっぽいところがあって、大人として欠陥を抱えてるモン同士の歌です」

と話していた。

歌詞の中にもあるのだが、そう言うのを認め合って笑い合えたなら、めちゃくちゃ素敵だ。リード曲の「かつて〜」がフィーチャーされる事が多いが、私はこのアルバムの中で「オトナ」がいちばん好きだ。

彼らの多様性はファッションじゃない。むしろ彼らも "多様性“ という言葉の使われ方を嫌っている側かもしれない。そして彼らのHIPHOPもファッションから来るものではない。しかし、ファッション的なHIPHOP(と言うのは偏見かもしれないけれど)があったからこそ、今のCreepyNutsがいるのである。

そんなこんなで誰も追いつけない速度でCreepyNutsという沼に着水し、日本武道館ライブへ行き、ファンクラブにも入った。

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その後の大躍進は目覚ましく、Rはバラエティ番組でフリースタイルラップをしたり、ドラマや映画に出演したり。
松永はトークバラエティのメインMCのひとりになったり「有吉ゼミ」ではゴミ屋敷みたいな汚部屋をピカピカに掃除したり、東京オリンピックの閉会式でDJパフォーマンスを披露する。

これらを本人たちは「とんでもない事になっている」と言っていたが、そんな世界を見せてくれてありがとうの気持ちだし、これからどんな展開があって、我々ファンをどんな感情にさせてくれるんだろう、というワクワクしかない。
それはメインの楽曲の方でもそう。常に進化するリリックとトラックには毎回唸るばかりで、いつ聴いてもかっこいい。これはRHYMESTERにも通ずる。RHYMESTERもCreepyNutsにも、回帰する原点がないのだ。その時のリアルを、卓越したワードセンスと上質な音で彩ってくれる。

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昨年の10月、CreepyNutsが日テレの「マツコ会議」に出演して “日本のHIPHOPとTVを語る”というテーマでトークをしたのだが、松永が「フリースタイルダンジョン」の話を例に出したときに、ちょっとした炎上騒動が起きた。

最初に書いたように私は海外のHIPHOPにも日本のHIPHOP全体にも明るくないし、私が「フリースタイルダンジョン」という相手を罵倒し合う言葉の格闘技に興味が持てずに観てなかった。だから出演した女性に対するミソジニー問題も知らなかったんだけど、SNS上では

「CreepyNutsが日本のHIPHOPの未来を語るな」
「そもそもお前らはHIPHOPじゃない」
「松永がミソジニーを許容しててがっかりした」

みたいな話になってしまった。

待って待って。例えよ、あくまでも例え。
話の結末は「日本のTVでやれる事の限界」であって、日本のHIPHOPカルチャーを盛り上げたのがフリースタイルダンジョンで、その中であった事象を例えに出しただけなのに。そこに引っかかっていいのは、いちいち掘り返してくれるな、って怒っていいのは、フリースタイルダンジョンに出演した事で傷付いた張本人だけだと思う。
(実際「マツコ会議」放送後に過去のツイートを掘り返されてやいのやいの言われて迷惑だ、と発言していた)。

「どんなに言葉を並べて話しても、いいように短くかいつままれて、誤解されてしまう」だったが、今回もかいつままれた形になった。

でもあれは「マツコ会議」を編集したスタッフは何も悪くない。CreepyNutsを忌み嫌う人たちが、もしくは何も知らない人たちが「ミソジニー」という言葉に過剰に反応しただけ。
少なくともこの大枠の文脈はラジオリスナー、そしてCreepyNutsが売れる前と後にそれぞれ出たテレビ東京「あちこちオードリー」を観れば、何も問題なく把握できるのだ。

まあ、でも大して好きじゃなかったらそこまで汲めないし、汲まないもんね。でも、何事にも「それを言う(言わせる)には何か理由がある」って考えたら、アンガーマネジメントもできるんじゃないかな、って思うわけです。怒ると肩こっちゃうしさ。こんな時代だし健やかに参りましょうよ。

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そんな切磋琢磨してきたふたりのラジオが、今春から「CreepyNutsのオールナイトニッポン」にリニューアルし、火曜深夜3時から月曜深夜1時にお引越しする。
オールナイトニッポンは所謂 “1部” が1時~3時、“2部” が3時~4時半(金曜だけ5時まで)と分類されている。

2部と位置付けられている「オールナイトニッポン0(ZERO)」は、ラジオだけでなく動画配信サービス「ミクチャ」でも同時生配信されていた。

CreepyNutsのオールナイトニッポン0(ZERO)に関しては、ラジオであるとともに “ 映像コンテンツ ” だった。
本来ラジオは声だけで状況だったり物の特徴を伝えなければいけないけれど、ふたりは時々それを忘れて身振り手振りだけになったりする。

靴を見せてたり
謎にスタジオの椅子から転げ落ちたり、
マイクから離れてウロウロしながら話したり
映像ありきなのにフレームアウトしちゃったり

昼夜完全に逆転しながらも、本当に楽しかった。

もちろんラジオで聴くのも楽しいが、映像があれば更にその楽しさが倍増する…と言ってしまうと本末転倒なのだが、1部には映像の配信がない。(もとい、今春からZEROのミクチャ配信が全番組から撤退してしまったそうです)

ぶっちゃけ最初は
「もう映像コンテンツとして観られないのか~~~」
と寂しくなりましたが、今は本来の “ラジオ” の形で新たなスタートを切る「CreepyNutsのオールナイトニッポン」が待ちきれないです。

きっと今までと変わらず立ち上がってウロウロしたり、椅子から転げ落ちてゲラゲラ笑ったりするんだろうな。落語みたいなRの話も、共感する事がたくさんある松永の話も、変わらず電波に乗って我々 “ 同じ周波数のムジナ ” を楽しませてくれるんだろうな。

CreepyNutsのおふたり、いつも最高にかっこいい楽曲と、最高に楽しいラジオをありがとうございます。番組を支えて下さるスタッフの皆さまも、いつも本当にありがとうございます。このコロナ禍において、間違いなく救われたコンテンツのひとつです。大変な事も多くあると思いますが、どうか引き続き健やかに笑顔で、皆さんがお仕事できますように。

早くこいこい、4月11日!

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おわりに

文中や外部TwitterなどでCreepyNutsの事を記述する際、基本「さん」をつけていません。敬称略、呼び捨てです。何故か。

リスペクトゆえ、です。


<完>

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川島田ユミヲ
ハードルがあるのは障害者だけじゃない。「私たちは健常者だから」と言うそこのあなただって、職場や家族間での対人関係だったり病気したり大変な事(ハードル)が沢山あるでしょ?という意味で、エッセイのタイトルは「世の中全員、障害者。」と言います。おススメ&サポートして頂けたら嬉しいです。