ある DX 事例(一汁一菜→多国籍料理)
今回は,ある官公庁様の DX 事例をご紹介します.
プロジェクトの内容については,弊社のホームページ内で簡単にご紹介しています.
https://www.ipoc.co.jp/case01/
ご提案時の幸運
このプロジェクトは非常に幸運な出会いから始まりました.お客様は,バラバラの,しかも頻繁に項目定義が変更される XML ファイルで提供される帳票データをいかに検索するか,という課題をお持ちでした.そんな中,ALZETA のデモをご覧いただき,「データ項目の追加,名称変更を自由に行いながら処理できる」様子をお見せしたところ,「これが使える!」と直感していただいたことから,ご提案が始まりました.
単に,お客様に「直感」していただいたことを幸運と言いたいわけではありません.
一つは情シス部門の業務理解と,業務部門との密連携です.デモをご覧いただいたのは,一般企業でいうところの「情シス」部門所属の方で,問題の業務を実施されている現場部門とは異なる方々でした.しかし,単に業務の内容を把握するだけではなく,そこからキーとなる要件を抽出して常に念頭に置いていないと,たった数分のデモで「使える」と直感できるはずがありません.つまり情シスが業務理解を超えたビジョンを持っていた,ということが幸運の一つです.またそのビジョンを持たれるということは,ご担当者の洞察力のすばらしさももちろんありますが,業務部門との普段の会話が大変密だった(プロジェクト開始後にはっきりわかりました),という背景がありました.
そのビジョンをお持ちだったことで,我々も助かりました.先述のように,問題の業務は「検索」だったのですが,私が行ったのは「集計」のデモでした(そもそも,要件を知らずに伺ってデモするとは,なんたる事前調整不足かというお叱りもあるかもしれませんが,我々,こんな感じで「とりあえず行く」ということを結構やります).にもかかわらず,使える要素をピンポイントで捕捉していただくことができました.実は,製品ご説明時に「これ,何に使えるんですか」というコメントをいただくこともあり,説明,デモの至らなさに落ち込むことも多いのですが,この場合はその真逆だったというわけです.
もう一つの幸運は,そもそも「検索」業務の課題をお持ちとは全く知らなかった,ということはさらに「バラバラの XML ファイルの問題」だということも知らずに伺えたということです.ALZETA はあくまで「表形式のデータ」を処理するものですから,対象が「バラバラの XML ファイル」とわかっていたら,「お役に立てないと思います」ということでご説明機会をお断りしていたはずです.幸運にも,背景を存じ上げない中でまず ALZETA の説明を差し上げられたことで,ALZETA の適合性をご判断いただけ,XML のハンドリングはカスタマイズでやりましょうというご提案につなげることができました.
プロジェクト中の幸運
実は,プロジェクトは諸事情により大変な突貫工事でした.
もともと,この業務用に構築されていたシステムは
・XML の中の限られた普遍的な数10項目をもとに XML 帳票を検索
・XML 帳票のビューアで個々の内容確認
するだけのものでしたが,最初にお話をさせていただいたのは,このシステムをハードウェアのリプレースだけ行って継続するというプランを前提に,予算やスケジュールを組まれていた状況下でした.したがって,仕組みも機能も全く異なるシステムを新規に構築するにもかかわらず,予算もスケジュールも単なるリプレース案件と同じに,という状況にならざるを得ませんでした.
こういった状況で,お客様情シス,現場部門ともに多大なご理解とご協力をいただいてなんとか予定通りのスケジュールでサービスインさせることができました.実は,想定外のことも何度か発生しました.最もシビアだったのは,実際に本番データを集約してみたところ,想像を超えるバリエーションのデータが生成されてしまい,急遽,プランになかった自動データ集約の仕組みを作らざるを得なくなったことでしたが,プランにない突貫工事が必要なことも即座にご了承いただき,速やかに実装することができました.これも,お客様に作ろうとしているシステムの内容の理解を深く共有していただいたからです.もう,成功に賭けるしかなかったという事情ももちろんあると思いますが,システムの根底の仕組みをご理解いただいていたので,そこを信頼していただけていたのが大きいと考えています.
飛脚の図
さて,見出し画像は,このプロジェクトのキックオフに使用したスライドの中の一枚です.私はこのプロジェクトを画策した中心人物でしたので,キックオフで,作りたいシステムの青写真とキーとなる仕組みについて説明するためのスライドを準備していました.が,キックオフ当日の朝,思いついてスライドセット先頭にこれを挿入しました.
もう一度↑に添付しましたが,ここで言いたかったのは,
・これまでは飛脚に頼むと,飛脚は帳票の山海を駆けずり回ってほんの数種類の食材を調達し,数日後にやっと一汁一菜を食べることができました(旧システムは,検索画面に数項目の固定条件を入れて帳票を検索をしていた.条件を変更しようと思うと,システム改修調達が必要だった)
・これから作ろうとしているのは,スーパーマーケットです
・スーパーマーケットには,必要な食材をカテゴリに分けて陳列棚に置いておきます(帳票データを表形式にして整理して置いておきます)
・飛脚に口述でオーダーするよりも若干手間はかかりますが,車の運転と包丁の使い方だけ覚えてください(ALZETA のフロー作成方法だけ覚えて,整理した表形式データを加工して検索できるようになってください)
・そうすれば,世界中の料理が食べられるようになります(帳票の全項目を相関づけて検索できるようになる)
・飛脚に伍するサービスとして,ピザデリバリーや蕎麦の出前サービス(従来と同様の固定項目による検索画面)も一応用意しますが,それはお客様が本当に必要なものですか?なんか他のものも,食べたくなりませんか?
ということでした.
このスライド,プロジェクトキックオフにはやや砕けすぎるかなとも思ったのですが,皆様に良い反応をいただけました.プロジェクトで目指すことを明確に共有する上で,少しは役に立ったのではないかと思います.
このシステムの現在
先ほどのスライドは,サービスイン後行ったエンドユーザー様向け説明会でも使用しました.サービスイン直後は,ピザデリバリーや蕎麦の出前の利用がほとんどでしたが,ご自身でスーパーに出かけて包丁を振るわれるケースが徐々に増えています.
また,このお客様もコロナでリモートワークを強いられることになりましたが,ALZETA で検索業務を行える状態になっていたことで,業務継続ができたと感謝の言葉をいただきました.
また,今度は AI を使って帳票データから不正検出をしようという動きが,エンドユーザーの方から出てきました.実際に ALZETA と JupyterHub を連動させて AI による帳票分析を行う試行も昨年行なっており,このシステムは徐々に成長を始めています.
多くのシステムは,サービスイン時の価値が最大で,その後はビジネスとの乖離などが原因で価値が下がり続けます.それに対し,このシステムは,サービスイン時に明らかになっていなかった潜在価値が掘り起こされてきているという点が面白いところです.
まとめ
提案前から様々な幸運に恵まれて結実したシステム構築でしたが,お客様業務を根本から変える DX をお手伝いできたと考えています.既存の業務理解を超えたビジョンをお客様がお持ちであったことが実現のキーでした.また,そのシステムは現在も成長を続けています.