余ったパーツでNASを作った話

皆さんは、「NAS」と言う機械を知っているだろうか。
こんな訳の分からない筆者の、訳の分からない需要不明の記事をわざわざ読みに来る読者の皆さんなら分かるとは思うが、一応簡単に説明させていただくと、「ネットワーク上で使えるストレージ」の事である。
もっと乱暴に説明すると、「クラウドストレージ」と「ローカルストレージ」の中間の存在である。
なんでこんな話を突然したかと言うと、余りにも金欠を極めすぎて、文字通りびた一文も持たなくなってしまった私はあえなくGoogle Driveの支払いが出来なくなってしまい、100GBから15GBに退化することになって事実上使えなくなってしまったのだが、それはそれとして流石にこの手のストレージが無いのは困ると言う事で、我が家のネットワークにNASを導入し、それを回顧録として残すにあたって体裁を整えるためである。ご理解いただきたい。

一口にNASを導入すると言っても、性能や容量の違いから値段やサイズなどが異なり、自分の使用用途に合ったものを選ぶ必要がある。そういうわけなので当然慎重に吟味したのだが、やはり高い。というかそもそも貧乏すぎてGoogle Driveすら維持できないからNASを作るのに、それを導入するのに多額のお金を使ってしまったら本末転倒なのである。
あれこれと悩んでいたら、ふと部屋の片隅にあるものを見つけた。

これは何なのかと言うと、大昔に買ったジャンクPCから抜き取ったきりでその辺に放置されていた、CPUがオンボードで、かつ日本人くらいしか使わないともっぱらの評判のMini-ITX規格を採用したマザーボードである。
「CPUがオンボード」と言う事で察しのついた方も居るかと思うが、この手のマザーボードに載っているだいたいのCPUに共通する特徴は「消費電力は低くて値段は安いが性能も低い」と言う所にある。当然、これも例外ではない。積まれていたのは「AMD E2-2000」と言う、10年も前の化石の如きCPU、いや化石そのものである。当時の私にとっては、おそらくケースから外したのまでは良かったが、余りの性能の低さのせいで使い道を見出すことが出来ずに、その辺に放置していたのだろう。そもそもとして、多分10年前ですら使い道に困るほどの性能だったのではなかろうかと思わなくもないが。

しかし、この手のCPUにありがちな「低性能、低消費電力、低価格」と言う特性は、一秒でも長くバッテリーを持たせ、一円でも安く作らなければいけない「ネットブック」と呼ばれるタイプのノートパソコンや、つけっぱなしでも電気を食わない事が求められる「自宅サーバー」と呼ばれるタイプのPCを構築するにあたって、非常に相性が良かった。そこで私はこう考えた。

「このマザーボードを使って一台組めば、本格的なNASを買わずともそれに近い性能、機能が得られるのではないか?」と。
自作欲が丁度高まっていたのもあって、私はそう考えた翌日に、このマザーボードを使ったパソコンを作り上げたのである。

簡易的構成紹介

CPU:AMD E2-2000(オンボード)
先ほどもちょこっと紹介したもの。2C2Tで1.75Ghzと言う事で、せめて初期のCore2Duoくらいの性能はあるのではないかと期待しそうになるが、実際に同じくらいのクロックのCore 2 Duo E4300と比較してみると、7割ちょいの性能しかない。ここまで遅いと笑えてくる。
しかもベンチスコア以上に体感動作がもっさり。勿論非常に少ないメモリやHDDの影響もあるとはいえ、本当に遅い。現在においては間違いなくパソコンとしての常用は不可能なレベルの性能と言ってもいいだろう。しかしNASとして考えてみれば、「デュアルコアで1.75Ghz」と言うのは、滅茶苦茶性能が低いわけでは無い。そして何よりも、TDPがたったの18Wしかないと言うのは、「24時間連続稼働」を行うNAS用自作PCとしてはうってつけと言える。

RAM:DDR3-1333 2GB
費用は極限まで圧縮しないといけないと言う事で、マザーボードに元から刺さっていた2GBのものをそのまま流用。少ない。普通のメモリなので特に言う事は無い。強いて言えば速度は少し遅い気もするが、そもそもとしてマザボ(CPU)自体が高クロックメモリを扱えないので、ある意味適任とは言えるだろうか。

GPU:Radeon HD 7340
Radeon、と聞いてピンと来た方も居るだろう。実は先ほど紹介したE2-2000と言うCPU、今日においては携帯ゲーム機でも活躍している「AMD APU」の、ごく初期のモデルなのだ。「APU」の詳細な説明については省くが、CPUとGPUをひとまとめにする、と言ったコンセプトのチップである。そのためCPUにグラフィックが内蔵されている、iGPUと呼ばれるタイプになっているのが特徴だ。(もっとも、このCPUが出たころにはIntelなどの他の会社が製造するCPUにおいても、GPU内臓と言うのは当たり前になってしまっていたが…)
GPUそのものについて簡単に説明すると、Radeon HD 6450をしょぼくした感じとして考えれば分かりやすいだろう。従って、7000番台を名乗ってはいるがあくまでもGPUのアーキテクチャはGCNではなくTerascale 2世代となる。
10年前のアーキテクチャのローエンドと言うことで、当然性能への期待は禁物だ。でもデレステくらいなら頑張れば動かせる。サーバーとしてみれば必要充分であることはわざわざ書くまでもない。

(初代)電源ユニット:360Wのやつ
今回のPCで新規に用意した部品はこれだけである。お察しの通り、ジャンク品だ。デルタ電子製360Wで、お値段330円。殆ど1W=1円。恐らくメーカーPCに積まれていたこともあってか、80PLUSなんてもんはない。
注意点として、24時間稼働させるPCにジャンク電源を使うと言う行為は本来「愚行」に他ならない。同じことをしようとしている人は注意する事。
この電源自体の特徴としては、容量がたったの300WのくせにEPS12VだのPCI-E補助電源が付いてきている事である。ストレージ周りの電源もSATAで統一されているので、おそらく割と新しめ、古く見積もってもこのマザーボードと同世代の電源であろう。CPUのTDP18Wに対し、300Wの電源を起用するのはやや過剰にも思えるが、出力を小さくするにも逆にお金がかかるので妥協した。
…のだが、初日から結構怪しい挙動をしていた上、翌日起きるとその時には既に壊れてしまっていた。と言う訳で、早々に電源を交換することになる。

(二代目)電源ユニット:250Wのやつ
デルタ電子の物が壊れてしまったので部屋を掘り返して出てきたものを使用。こちらはBestec製の250W、TFX電源だ。250Wと言うとやや物足りない感じはあるが、TDP18WのCPUを運用するには必要十分と言えるだろう。ただしSATA電源が3つしか付いていない上ペリフェラル端子があるというわけでもないので、HDDを増設する際にそれが足を引っぱりかねないのは懸念点と言える。
こちらは特に変な挙動をしている…という事も無いので、長く活躍してくれることを期待したい。

HDD:東芝製80GB
ある意味最重要部品のHDDではあるが、今回は取り敢えず急ごしらえと言う事でその辺に転がってた東芝製の80GBを起用した。元は2007年型の初期型PS3に付属していた曰く付きの逸品である。遅いし熱いしボロい。三重苦。

M/B:ASUS E2KM1I-DELUXE
ヒートシンクがやたらデカい、でもmini-ITXなので小さいと言う、やや矛盾している気がしなくもないASUS製のボードである。この年代の、この手のCPUが載っているマザーボードにしては仕様がやたら豪華で、SATA3を5ポートも備えていたり(先ほども述べた通り、電源ユニットの制約で実質的に使えるのは3ポートだが)、USB3.0やUEFIも完備し、しまいにはPCI-Ex16…の形をしたx4スロットもついている。かなり充実した仕様ではあったのだが、今回の用途においてはこれらをフル活用する機会があるかどうかは些か怪しいところである。

OS:Windows 11 64bit
OSはとことん横着してWindows 11をチョイス。サーバーならLinuxだろとツッコミが入りそうではあるが、そもそも用途的にWindows標準の機能でも困らない事や、変な所をいじってしまっても戻しやすいと言う事からも選定した。しかしながらお察しの通りかなり重かったのと、通常のWindows 11のリッチな機能は性能的にも用途的にも使わないので、せめてTiny11を選択するべきだったと言うのが正直な所である。

ケース:ダンボール
金がなかった。以上。

完成した感想

楽しかった。この一言に尽きる。やはり自作PCを組み立てるのは楽しいものである。
気になる速度については、ストレージベンチマークの大御所であるCrystalDiskMarkにおいて、読み書き共に実測60MB/s程度をたたき出した。そして実際に使ってみると、例えばファイルの転送が極端に遅いだとか、性能が低くて固まるだとかそういったことはなく、特に困ることは無い。私としては十分実用範囲内だ。
しかしながら15年以上前の2.5インチHDDと言う事で、現代基準で見れば非常に転送速度は遅い…と評価せざるを得なく、その上容量もたったの80GBしかないのは、一般的に見てかなりのマイナスポイントだ。
しかしながら、元々が自作用マザーボードであることは幸いして、SATA周りの拡張性についてはある程度担保できている。より良いHDDを積めば、更なる高速化や大容量化も視野に入るし、それに加えてPCI-EタイプのNICを刺せば、ネットワーク側の転送速度や安定性もある程度の向上が望める。
しかし気がかりなのは、やはり信頼性だ。10年前のマザーボードを起用しているのはまだしも、15年落ちのHDDとジャンク電源を使用している事に関しては、どうしても不安が残る。余裕があればより信頼性の高い部品を使いたいところだ。実際、電源ユニットは二日目にして故障を発生し、交換を必要とすることになってしまった。

最後にこの「自作NAS」そのものが良い物なのか、普通の人にもお勧めできるものなのかを考察していく。確かに値段の安さや拡張性の高さなど、これならではの良さはあると考えている。しかし、今回の構成のように、NASとしての最低限の性能を保ちつつ、徹底的なコストカットを図るためにはやはり重要な部分にも信頼性の低いジャンク部品を使わざるをえないし、Windows側の設定にも手間がかかったことなどを考えると、やはり簡単にお勧めはしにくい類のものであることは疑いない。そもそもの組み立て自体も、ちゃんとしたケースを使うのなら工程はかなり伸びるし、スペースの制約もある。
以上の事から、「自作オタク」でない普通の人は、普通のNASを買うか、GoogleDrive等のクラウドストレージを契約する方が良いと言う、至極当たり前の結論に行きつくのが自然だ。
しかしながら特筆すべきこととして、私のような酔狂にとっては、組み立て、設定の過程、そして何よりも、自分の組み立てたパソコンのHDDに遠隔でデータを書き込んでいくと言う行為、過程そのものに喜びや楽しさを感じられ、一人の自作オタクとしてはとても楽しめた事をここに記し、この記事を締めたいと思う。


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