見出し画像

集中治療室「だから」、薬剤師がいない?

私達、IPhaSは「今を駆ける薬のプロたち:薬学キャリアの多彩な未来」という企画を新しく始動しました!この企画は、20-40代頃の若手で最前線をゆく「薬のプロフェッショナル」の方々のキャリア体験談を発信していきます。多彩なキャリアパスを薬学生や若手薬剤師をはじめとした医療・健康分野で活躍する方々にお届けします!
まず第一弾は、集中治療室で看護師として勤務されてきた今井けい様に執筆して頂きました。
今井様はクリティカルケア領域での臨床経験を経て、2025年2月現在は急性期看護学分野の博士前期課程に在籍されています。


【著者略歴】

今井けい
上智大学総合人間科学部看護学科卒業後、川崎幸病院でクリティカルケア看護に従事した後に2023年より札幌市立大学大学院看護学研究科看護学専攻成人看護学(急性期看護学)分野 博士前期課程。機械学習を活用した臨床支援モデルの開発に従事している。2025年4月より東京大学大学院医学系研究科社会医学専攻臨床疫学・経済学分野の博士課程へ進学予定。

集中治療室「だから」、薬剤師がいない?

多職種チームの一員としての薬剤師

薬学生や若手薬剤師をターゲットにした特集に「なぜ看護師が?」と思う方もいらっしゃるかと思います。
筆者が従事しているクリティカルケア領域では、薬剤師を含めた多職種チームが協働して医療を提供する必要があります。
そのチームの一員を増やしたいという考えの下で本稿を執筆しております。

クリティカルケア領域ってどんな場所?

筆者はクリティカルケアと呼ばれる領域、具体的にはハイケアユニット(HCU: High Care Units)や集中治療室(ICU: Intensive Care Units)と呼ばれる場所で看護師として勤務をしてきました。ICUと聞くと、薬学生・薬剤師の皆さまはどのようなイメージを持たれるでしょうか。重症度が高い、病態や指示が複雑である、看護師が怖い、など様々な印象を受けるかもしれません。
皆さまが持たれているイメージは概ね正しく、重症で多臓器不全を呈した
複雑な病態であり、多数の薬剤が時々刻々と微調整されることもしばしばです(あと、優しい看護師もそれなりにいます)。

クリティカルケア領域における薬剤師の意義

筆者は大学院と並行してICUで勤務しておりました。その施設ではICUにのみ薬剤師が配置されておらず、それとは対照的に一般病棟は全て専従の薬剤師が配置されていました。薬剤師の方から「集中治療室だから薬剤師がいないんですよ。」と言われたことを鮮明に覚えています。具体的なイメージを持っていただくために、いくつか数字をお示しします。2022年度に行われた
病院薬剤部門の現状調査では、病棟薬剤業務実施加算2(専任の薬剤師が1週間の内に20時間以上従事するのが要件となっている)を算定している割合が、
救命救急⼊院料(救命救急センターや救命病棟)で38.4%、特定集中治療室管理料(主にICU)で54.5%、ハイケアユニット⼊院医療管理料で42.2%と、薬剤師が重要な役割を担うはずの部門の約半数に薬剤師が配置されていないという現状があります。日本集中治療医学会(2021)が公表した『集中治療室における安全管理指針』では、ICUにおいて薬剤師は「薬剤管理や薬剤調整,適正使用,薬剤管理指導,感染対策管理などの役割」を担うと記載されています。ICUで使用する薬剤の種類は極めて多く、また僅かな変動が患者の状態に大きな変化を与える可能性があるため、薬剤師が果たす役割は重要です。しかし、現状では多くの患者が薬剤師の専門知識による恩恵を受けられていません。
 「集中治療室だから薬剤師がいないんですよ。」と言われた背景には、様々な理由があると思われます。1つは、クリティカルケアに関する高い
専門性が求められる、ということです。既に専任の薬剤師が配置されている
医療機関であれば、OJT等を通じて高い専門性を養っていくことが可能かもしれません、しかし、前述の通り薬剤師がそもそも配置されていない施設も多数存在しており、その教育は容易ではありません。この専門性の壁を超えるために、日本集中治療医学会は2024年より集中治療専門薬剤師を認証する精度制度を開始しています。高い専門性を有する薬剤師を認証することにより、薬剤師としての専門性を発揮しやすい環境ができていくかもしれません。もう1つの理由として、私見ではありますがICUの運営方式が挙げられるのではないでしょうか。ICUの運営方式には主にClosed ICU、Open ICU、Semi-Closed ICUに区分されます。Closed ICUではICU専従の医師が患者の全身管理を一手に担う方式で運用がされています。一方、Open ICUやSemi-Closed ICUと呼ばれる区分では、ICUに入室している患者それぞれを各診療科の主治医を含めたチームで対応することになります。つまり、10の診療科にまたがる10人のICU患者がいる場合、それぞれの患者に対して10人以上の異なる医師が個別に薬剤等の指示を入力することになります。人員が充足しているとは言えない病院薬剤師が、多数の診療科を跨いで大勢の医師と調整をするのは困難を極めると思います。このようなICUの運用方式は、薬剤師のICUへの参入を阻む要因になっているかもしれません。

クリティカルケア領域で、一緒にチームを組みませんか?

このように複雑な組織であるICUですが、患者の全身状態を把握してあらゆる医療職種との調整を一手に担っているのが、ICU患者のベッドサイドにいる看護師です。クリティカルケア領域に従事している看護師は、日々薬剤について困っています。多臓器不全で急性腎障害になった患者に対して今のまま薬剤を投与してよいのか、過剰輸液で苦しんでいる患者に対して持続点滴等で輸液を入れざるをえない状況でどうしたら患者の苦痛を減らせるのか、抗生剤の血中濃度の測定はいつ行ったらよいのか。このような薬剤に関する専門的なことを、多忙なICU専従医や各診療科の医師に都度相談することは困難を極めます。薬剤の管理という視点において、薬剤師がICUに配置されていることで患者にもたらされる恩恵は大きいのではないでしょうか。
クリティカルケア領域では、1人だけでは患者を良くすることはできません。薬学生・薬剤師の皆さまも一緒に、多職種チームとして患者によりよい医療を提供しませんか?皆さまと一緒に働ける日を楽しみにしております。

私たちIPhaSについて


この記事を読んで、「薬学とキャリアの選択肢を広げてみたい」
「多様な専門職と繋がってみたい」「薬学の専門性をどのように広げていけるの?」と思われた方もいると思います。
そんな方には私たちIPhaSの運営するオンラインラボがおすすめです。
本記事で取り上げたキャリアの紐解きに加え、専門性を伸ばして成長するためのコンテンツがたくさんあります!
・各分野の専門家に対するアカデミック/キャリアのチャット相談
・不定期のオンライン勉強会
・メンバーの提案により自主的に進める学術/ 調査研究グループ
・超初心者が3ヶ月で論文執筆に取り組むゼミ「P-Scribe Lab」もってもっ てていただいた方は、遠慮なくお問い合わせいただければと思います。
薬と社会健康科学研究所 事務局 info.iphas@gmail.com
また、記事にいいね!ボタンを押していただけると発信を続けていく活力となります。
どうぞ今後も引き続きよろしくお願いします!


いいなと思ったら応援しよう!