【アーカイブ】2022年9月度「企業と事務所のやりとりのDX」
2022年9月度の知財DX推進勉強会の議事録を共有いたします。
概要
・テーマ:企業と事務所のやりとりのDX
・日時:9月7日(水)19:00 ~ 20:30
・場所:Zoom
・対象:知財業界のDXに興味のある方ならどなたでも
資料
まとめ
ストレージサービスやコミュニケーションツールを導入することで情報の集約と検索性の向上を実現する
適切なツールを導入することはセキュリティインシデントの発生リスクを低減することができる
ただし、ただ導入すればよいというものではなく、社内のユーザに対するサポートやセキュリティ面でのガバナンスを効かせなければ十分な効果が得られない可能性もある
議論内容
2020年9月度はZoomのブレイクアウトルーム機能を使用し、以下の議題について意見交換を行いました。※記載内容は、あとから一部筆者(田中誠二・事務所弁理士)が補足した部分もあります。
事務所と企業のおすすめのやりとりの方法
会議・打ち合わせの方法
オンライン(Zoom等)の特徴
録画機能であとから打ち合わせ内容を見返すことができる
相手の会社・事務所まで移動する時間がないから便利
地方の企業/事務所であっても、都心のクライアント/企業にアクセスしやすい
オンライン会議ツールに慣れていない人は不便な思いをする場合もありえる
ホワイトボードを使って議論するということが難しい(例えばZoomにはホワイトボードを使用する機能が存在するが、使いこなせる人は少ない印象)
オフライン(対面)の特徴
情報の伝達効率はオンラインよりも高い
初めてのクライアント・依頼先の場合、オフラインで会っておいたほうが後からオンラインでもスムーズに意思疎通できるように感じる
連絡の方法
メールの特徴
メールアドレスさえお互いに知っていたら連絡がとれるという手軽さがある
誰でも使用方法がわかる
やりとりの履歴は残るが、検索性が高くない場合が多い
セキュリティリスクは比較的高い
盗聴リスク、誤送信リスク、マルウェア感染リスク
チャットツール(Slack、Teams等)の特徴
企業/事務所側から相手を招待することによって連絡が取れるようになる
やりとりの履歴が残り、検索性も高い場合が多い
固定のチャンネルやグループを用意しておけば、そこにやりとりの情報が蓄積していく
素早く、何度もやりとりができる
メッセージを送信したあとで編集できる機能がついていることが多い
メールは一度送信したら取り消すことができない
使いこなせる人とそうでない人との間で情報格差が生じる場合もある
多機能ゆえに、慣れるまでに時間がかかったり、そもそも慣れる気が起こらなかったりする
コストがかかる場合が多い
大企業であればMicrosoft365を利用していることがほとんどで、その場合にはTeamsの利用権がついているので追加コストは発生しない
サービスが停止するリスクがある
Teamsの障害等
電話の特徴
いい意味で記録に残らない
ネガティブな内容(裁判や審査で不利になりうる情報)のやりとりができる
悪い意味でも記録に残らない
言った言わない論争のタネになるので、結局あとからメールで会話内容を送ることも多い
情報の伝達効率はよい
時間的な拘束がある
テキストコミュニケーションだと、お互いに返信するタイミングを自身で決めることができる
対面の特徴
声やテキストでは伝わらない微妙なニュアンスまで伝わる
頻繁に連絡をとる必要がある場合、毎回対面で会うのは現実的ではない
ファイル共有・納品の方法
メールの特徴
どの企業・事務所でも使っており、導入コストがほぼない
バージョン管理が煩雑になりがち、最新版でないファイルを送信・受信してしまう場合がある
「最新版_20220911_クレーム案.docx」
「最新版2_20220911_クレーム案.docx」
「最新版_こっちが本物_20220911_クレーム案.docx」
一般的なストレージサービス(Box, OneDrive等)の特徴
比較的少ない料金で使用開始できる
OneDriveはMicrosoft365との関係で実質的に無料で使用できる場合もある
専用のフォルダを企業・事務所間で共有することによってファイルを一か所で集中的に管理することができる
サービス提供者側のセキュリティが導入側の求める要件を満たさないこともある
データセンターの設置場所、保管されたデータの暗号化の方法等
企業・事務所によっては情報をクラウドにアップロードすることなど言語道断というところもある
知財専用のストレージサービス(MC6、Anaqua等)の特徴
導入コストが比較的高い場合が多い
専用のフォルダを企業・事務所間で共有することによってファイルを一か所で集中的に管理することができ、さらにプロジェクトやファイルに関連付ける形でチャットによるコミュニケーションができる製品もある
出願にかかるあらゆる情報を一か所に集中させることができる
国内ベンダーのものだとサポートが手厚い傾向にある
やりとりにおけるヒヤリハット
※ヒヤリハットとは、結果的に事故(セキュリティインシデントを含む)には至らなかったものの、状況が少し異なればそうなっていてもおかしくなかった事例のことです
ヒヤリハットの類型
事務所社内のやりとりを残したまま、メールでクライアントに原稿を送付してしまった
内容がそこまでセンシティブなものではなかったので事なきを得たが、例えば個人情報を含むようなものである場合にはインシデントになっていた
FAXで、意図していた宛先とは異なる宛先に原稿を送付してしまった
事務書類だったから不幸中の幸いであったものの、クレーム案等であればインシデントになりえた
意図していたものとは異なるバージョンの書類を送付してしまった
例えば最新ではないバージョンの庁提出書類を送付していた場合、企業と事務所とで認識のずれが生じる
原稿の公開権限範囲のミスや意図しない変更
クラウドサービスを利用してアップロードURLを送ったところ、誰でも当該URLにアクセスできる設定になっていた
クラウドサービスが気を利かせて(ユーザの承認を得て)公開範囲を変更することもある
書士事項の見落としや、指摘事項見落として反映を忘れる
やりとりの文章の意味が一意に読み取れず、齟齬が生じる
「来年も継続して特許権を維持するということでいいですか?」に対して「いいです」という返信等
「(維持するということで)いいです」
「(来年は継続しなくて)いいです」
ヒヤリハットの防止策
ストレージサービスの利用
ファイルを送る際にアップロードURLを送付するようにすれば、メールの誤送信があった場合でもURLを失効させればよい
ファイルの最新版が常にクラウド上にあるようにすれば、企業と事務所間でバージョン違いが生じることがない
システムの設定変更
メールを即時送信ではなく送信ボタンを押してから5分後に送信される設定にすることにより、誤送信を防止する
UIの工夫
企業から事務所の指示はチェックボックスを含む所定の書式により行ってもらうことで、意思疎通のミスをなくす
適切な権限管理
一般的に、SaaS製品は管理者側(例えば、企業の情報システム担当者)がどのようなことを実行できるかを細かく設定することができる
公開制限が範囲無制限・期限無制限のURLを発行できないように設定することで、アップロードURLの漏洩リスクを最小化することができる
付録情報
コミュニケーションツール
Slack (https://slack.com/intl/ja-jp/)
Teams (https://www.microsoft.com/ja-jp/microsoft-teams/group-chat-software)
chatwork (https://go.chatwork.com/ja/)
LINE WORKS (https://line.worksmobile.com/jp/)
ストレージサービス
OneDrive (https://www.microsoft.com/ja-jp/microsoft-365/onedrive/online-cloud-storage)
Google Drive (https://www.google.com/intl/ja_jp/drive/)
Prime Drive (https://www.softbank.jp/biz/services/collaboration/primedrive/)
知財管理サービス
root ip (https://rootip.co.jp/)
知的財産管理システム「PALNET/MC6」 (https://www.hitachi.co.jp/Prod/comp/app/tokkyo/mc6/)
東芝 特許業務ソリューション (https://www.global.toshiba/jp/products-solutions/business-ict/patent/management.html)
Anaqua (https://www.anaqua.com/ja/)
セキュリティ
ISMAP - 政府情報システムのためのセキュリティ評価制度
政府が求めるセキュリティ基準を満たした製品が掲載されている→https://www.ismap.go.jp/csm?id=cloud_service_list
「PPAP」は危険!その理由と代替案について
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?