DNAシーケンシングの特許裁判で3億3400万米ドルの支払い命令の判決事例
【背景】
2022年の5月にデラウェア州の連邦陪審は、Illumina, Inc.(イルミナ社)がComplete Genomics, Inc.(CGI社)が所有する2つのDNAシーケンス特許を故意に侵害し、また反訴でCGI社が侵害を訴えられたイルミナ社の特許3件を無効とすることを決定しました。その結果、陪審員はCGI社に3億3380万ドルの損害賠償を命じました。
【内容】
本訴訟は、2019年5月に、商用遺伝子シーケンサーの世界最大のメーカーである中国のBGI Ltd.の一部門であるCGI社が、売上45億ドルの上場企業であるサンディエゴのイルミナ社に対して訴訟を提起したことが発端です。具体的には、イルミナ社の「2チャンネル」DNAシーケンスシステムが、CGI社の2つの信号から各ヌクレオチドの同一性を推論する技術の特許を侵害していると主張していました。また、2020年7月にCGI社は訴状を修正し、5月に発行された同じ技術を対象とする特許も追加しました。
これに対し、イルミナ社は、CGI社の遺伝子配列解析装置の特定のモデルがイルミナ社の3つの特許を侵害しているとして、反訴を提起しました。両社は、自社は特許を侵害しておらず、相手方の特許は無効であると主張していました。
イルミナ社は2022年2月に米国証券取引委員会に提出した書類で、2021年時点でCGI社が2億2500万ドルの損害賠償と、2029年に特許が切れるまで被告製品の売上に5.5%の継続的なロイヤルティを求めていると発表していました。
裁判官のもとでの審議2日目、陪審員は、イルミナ社が問題となった2つのCGI社特許を直接侵害し及び顧客に侵害を誘発し、その侵害に寄与したと認定しました。また陪審員は、「特許は自明かつ予見されたものとして無効であり、適切な記述に欠け、当業者が発明を製造または使用することを可能にしない」というイルミナ社の主張を退けました。他方、陪審員はCGI社がイルミナ社の2つの特許を侵害したことを認めましたが、主張されたクレームはすべて無効であるとしたため、CGI社はいかなる損害賠償の責任も負わないものとしました。
【主要な論点】
これらの企業がDNAシーケンス特許をめぐって法廷で対決するのは、今回が初めてではありません。2021年11月、カリフォルニア州北部地区の陪審は、CGI社の中国の親会社が故意にイルミナ社の4つの特許を侵害したと認定し、CGI社に800万ドルの損害賠償を命じました。2021年12月、英国の控訴裁判所は、BGI Ltd.がイルミナ社のDNA配列決定特許の4件を侵害したとする下級裁判所の判決を支持しました。また、ドイツ、スイス、カリフォルニア州北部地区でも、両社の間で特許紛争が起きています。
しかし、デラウェア州での評決のこの3億3400万ドルは、CGI社にとって大きな勝利となりました。陪審員はイルミナ社の侵害が故意によるものであると判断したため、裁判官は損害賠償額をその3倍まで引き上げることを選択でき、CGI社に妥当な弁護士報酬を与えることも可能になります。
デラウェア州地裁は2021年に新たに提起された特許訴訟4,063件のうち、その22%を占めており、テキサス州西部地区に次ぐ量ですが、本件はまたひとつ注目される大型特許紛争となりました。