企業の営業秘密の管理実態(5/9)
今回は、昨年の新型コロナウイルスの蔓延及びそれに伴う、2020年4月の1回目の緊急事態宣言等が企業における営業秘密管理にどのような影響を及ぼしたか、その結果を見ていきたいと思います。
(1)ウィズコロナ、ポストコロナで課題や対策は変化しているか?
仮説① 国内企業のうち2~3割程度がコロナ禍で情報管理のルール見直しを実施した。
結果① 回答企業の2割がコロナ禍をきっかけとしてテレワーク等における情報管理のルールを定め、3割弱が暫定または例外措置としてテレワークにおける注意事項を周知していた(図 2.2 106)。
仮説では以前から対応済みの企業が2割、今回暫定ないし例外の扱いを定めた企業が3割と想定していましたが、これを踏まえると、想定よりはやや少なめであるものの、概ね仮説に近い形で情報管理に関するルールの見直しが実施されていることが確認されました。
仮説② テレワークの導入で営業秘密該当性が損なわれる可能性の認知が進んでいない。
結果➁ インタビュー調査を含めて、本項目を直接検証することが可能な調査を実施するには至らなかったが、テレワークにおける営業秘密の取扱いに対応した対策として、最も多く選択されているのが「ネットワーク上での情報保護対策」であり、次いで「第三者が秘密情報にアクセスしないようにする対策」となった(図 2.2 109)。
これらの対策は適切に実施されない場合に営業秘密の外部への漏えいにつながる恐れがあるもので、実施されているという事実からの推察として、テレワークの導入で営業秘密該当性が損なわれる可能性は一定程度、企業で認識されているとみなすことができると考えられます。
仮説③ テレワークの導入を通じて企業におけるペーパーレス化が進展
結果③ ペーパーレス化については他の対策と比較して進展しているとはいえない(図 2.2 114)。
しかし、同図ではテレワーク実施におけるペーパーレス化について尋ねているわけではなく、インタビュー調査においては複数の企業から、テレワーク時には紙媒体の営業秘密の持ち出しを禁じているとの回答を得ているので、仮説で想定している状況は概ね実現しているものと考えられます。
仮説④ クラウドを通じた秘密情報の共有が進む一方、その不正利用対策は不十分である
結果④ 全体で2割程度の企業はクラウドサービスを用いて情報共有を行っていることがわかる(図 2.2 83)。
さらに、企業規模が大きくなるほどクラウドサービスの活用度が高い傾向にあることから、今後は中小規模企業にも普及していくことが見込まれます(図 2.2 84)。
一方、クラウドサービスを通じた不正なデータ流出に備えた対策については、不正操作の証跡確保に相当する「ログ分析の実施」を実施している企業は、共有を行っている企業の24%にとどまるなど、仮説の通り十分な対策が講じられているとはいえないものの、対策の必要性を意識している企業は一定の比率で存在していることが確認された(図 2.2 86)。
次回は、企業の実務者が営業秘密管理について具体的にどのような問題意識を持っているのか等、課題と現状について調査結果から紹介します。
なお、調査結果は以下からダウンロードできます。