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スタートアップ創業期の注意点(営業秘密流出・引き抜き・競業禁止等への対応)

前回は知財面にフォーカスして、創業時の注意点についてご紹介しましたが、今回はスタートアップの方でもご相談が多い営業秘密の流出や、引き抜き・退社後の競業禁止について、スタートアップが無理なくできる現実的な対応策をご紹介いたします!

1.営業秘密

顧客情報、技術情報、ノウハウ等、スタートアップ各社は何らかの営業秘密を保有していることが通常かと思います。

外部の方へ業務を委託したり、従業員の方を雇用したりすると、そのような方々が自社の営業秘密に触れる場合も少なくないのですが、この営業秘密が自社の事業以外の目的で使用されたり、第三者に公開されてしまうと、自社が被るダメージは計り知れないものになりかねません。

そこで、何らかの手段で営業秘密を守る必要があり、不正競争防止法では、営業秘密に対する一定の保護がなされているのですが、社内体制が十分に整っていないスタートアップで、不正競争防止法の営業秘密としての保護を受けることは、後述のように困難な場合が多いです。

(1)不正競争防止法上の保護

問題の情報が、不正競争防止法の「営業秘密」に該当するためには、

①秘密として管理されている[秘密管理性]
②生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の
 情報であって[有用性]、
③公然と知られていないもの[非公知性]

の要件を満たす必要がありますが(不正競争防止法2条6項)、スタートアップの管理体制では、この要件のうち、①の秘密管理性を満たすことが難しい場合が多いです。

そのため、将来的には不正競争防止法でも保護を受けれるような体制を構築していく必要はあるのですが(経産省が今年の1月に改訂した営業秘密管理指針もご参照ください)、不正競争防止法上の保護に期待するのは、スタートアップのリスクヘッジとしてはやや不安が残ります。

(2)秘密管理規程と入社時の誓約書

そのため、不正競争防止法上の保護が受けられないことを想定して、

①入社時(業務委託時)に守秘義務を負う旨の誓約書を提出してもらう

②自社の秘密管理規程を設け、社員に対して公開する

といった手段で、社員(業務委託先)と会社との間の合意により、営業秘密を守るための方策を講じておく、という手段が考えられます。

特に①については、(不正競争防止法上の保護を受けるための体制構築と比較すれば)比較的労力も少ないため、導入しやすく、社員(業務委託先)に対する意識付け(守秘義務を負っていることと違反のペナルティを意識していただく)という意味でも、それなりに費用対効果の良い対応策なのではないかと考えられます。

もっとも、上述のように、スタートアップの場合、自社の営業秘密を適切に秘密として管理されていない場合も多いので、誓約書における守秘義務の対象となる情報を抽象的に「営業秘密」等と定義するだけでは、結局守りたいものが守れない可能性も否定しきれません。

そこで、一般的な守秘情報の定義を入れるとともに、特に秘匿性を保ちたい情報については、個別に守秘情報として定義しておく、ということが考えられます。このことにより、仮に秘密情報の管理体制がやや杜撰になってしまった場合であっても、守りたい情報が守秘義務の対象から外れるリスクを軽減することができます。

また、②についても、自社の体制を踏まえ、無理のない運用ができる範囲で内容を定めることと、規程の完成後、社員の方に周知し(中途入社の方にも入社時に周知した方が良いです)、見ようと思えばいつでも見れる状態にしておくことが肝要です。

場合によっては、営業秘密の流出を事前に防止するべく、時々秘密管理についての社内勉強会等を開催し、社員の方の理解と意識を高めることも効果的かと思います。

2.引き抜き・競業禁止等について

スタートアップの方からよく聞く話として、元社員(業務委託先)に、社員の引き抜きをされた、又は、自社のノウハウ等を利用して競合する事業を自ら営み、又は競合会社に就職されて困ったという話があります。

この問題については、雇用していた社員か、業務委託先なのかという点で議論の状況は変わってくるのですが、共通して言えることは、職業選択の自由(憲法22条1項)があるため、容易に制限することはできない、ということです。

ただし、だからといって無制限に放置してしまうと、自社の事業をつぶされてしまう可能性もあるため、合理的な範囲で対応策を講じる必要があります。

そして、この問題についても、入社時(委託時)に誓約書を提出してもらうという手段が比較的良いのではないかと考えられます。

すなわち、引き抜き行為や競業が在職中に行われていれば、役員の場合は忠実義務(会社法355条)、社員の場合は雇用契約上の誠実義務の違反になる可能性があり、これらの義務違反を追及することができますが、他方、業務委託の場合は、役員・従業員でも、退職後については、特段の合意をしてなければ、違法だとして責任追及することは容易ではありません。

そのため、そういった行為をされてしまった場合に、義務違反があるとして責任追及できるようにしておくため、また、相手方に意識付けを行うというためにも、誓約書を提出してもらうということが肝要です。

もっとも、上述のように、職業選択の自由がある以上、無制限に競業等の行為を合意によって制限することはできません。

●年の制限であれば問題ないといった画一的な基準はなく、事案によって判断は異なるのですが、裁判例では、以下の考慮要素から判断すべきものとされています。

① 守るべき企業の利益があるかどうか

② ①を前提として競業避止義務契約の内容が目的に照らして合理的な範囲に留まっているかという観点から、従業員の地位が、競業避止義務を課す必要性が認められる立場にあるものといえるか

③地域的な限定があるか

④競業避止義務の存続期間

⑤禁止される競業行為の範囲について必要な制限が掛けられているか

⑥代償措置が講じられているか

少し古い資料になりますが、経産省がまとめているこちらの資料は、色々な裁判例を分析しながら分析・考察しており、制限の内容を定めるにあたって、参考になると思います。

3.まとめ

以上、簡単ではありますが、スタートアップが現実にとれる対応策、という観点から、営業秘密流出・引き抜き・競業禁止等への対応策をご紹介してみました。

スタートアップ業界に少しでも貢献できるような情報提供ができればと思っておりますので、もしよろしければ関係者にシェアしていただけますと幸いです。

また、ご質問等があればお気軽にご連絡ください。よろしくお願いいたします!

弁護士 山本飛翔

Twitter:@TsubasaYamamot3

拙著「スタートアップの知財戦略」

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