スタートアップの各種プロモーション①ーアンケート特典・紹介特典と景表法の規制
アーリー期以降は、自社のプロダクト/サービスについて、積極的にプロモーションしていく等、マーケティング・プロモーション活動が活発になっていきます。例えば、かかる活動にあたっては、ブランド戦略の策定・実行、自社商標の普通名称化防止、他社の商標・著作物の使用についてのマニュアルの策定、景品表示法の規制への対応、不正競争防止法の規制への対応、パブリシティ権侵害の回避、その他業界規制への対応等が問題となります。拙著『スタートアップの知財戦略』ではこれらについてそれぞれ検討していますが、以下では、景品表示法との関係で、拙著にて明示的に言及していない、アンケート特典・紹介特典と景表法の規制
との関係についてご紹介します 。
(1)景品表示法の規制対象となる「景品類」とは
景品表示法の規制対象となる「景品類」については、以下のように定義されています(2条3項)。
①顧客を誘引するための手段として
②事業者が自己の供給する商品・役務の取引に付随して
③取引の相手方に提供する物品、金銭その他の経済上の利益であって
内閣総理大臣が指定するもの
この規定に基づき、 「不当景品類及び不当表示防止法第2条の規定により景品類及び表示を指定する件」 (以下「定義告示」といいます。) 1項は、「景品類」を以下のように具体的に定義しています。
1 不当景品類及び不当表示防止法(以下「法」という。)第二条第三項に 規定する景品類とは、顧客を誘引するための手段として、方法のいかんを問わず、事業者が自己の供給する商品又は役務の取引に附随して相手方に提供する物品、金銭その他の経済上の利益であつて、次に掲げるものをいう。ただし、正常な商慣習に照らして値引又はアフターサービスと認められる経済上の利益及び正常な商慣習に照らして当該取引に係る商品又は役務に附属すると認められる経済上の利益は、含まない。
一 物品及び土地、建物その他の工作物
二 金銭、金券、預金証書、当せん金附証票及び公社債、株券、商品券その 他の有価証券
三 きよう応(映画、演劇、スポーツ、旅行その他の催物等への招待又は優待を含む。)
四 便益、労務その他の役務
ここでは、何が例示されているかはもちろんですが、「正常な商慣習に照らして値引又はアフターサービスと認められる経済上の利益及び正常な商慣習に照らして当該取引に係る商品又は役務に附属すると認められる経済上の利益」が「景品類」に含まれない旨を確認的に明らかにしている点にも留意したいです。
(2) 「顧客を誘引するための手段として」とは
「景品類等の指定の告示の運用基準について」において、「顧客を誘引するための手段として」とは、以下のように定められています。
(1) 提供者の主観的意図やその企画の名目のいかんを問わず、客観的に顧客誘引のための手段になっているかどうかによって判断する。したがって、例えば、親ぼく、儀礼、謝恩等のため、自己の供給する商品の容器の回収促進のため又は自己の供給する商品に関する市場調査のアンケート用紙の回収促進のための金品の提供であっても、「顧客を誘引するための手段として」の提供と認められることがある。
(2) 新たな顧客の誘引に限らず、取引の継続又は取引量の増大を誘引するための手段も、「顧客を誘引するための手段」に含まれる。
以上のように、提供者の主観的意図にかかわらず.客観的に顧客誘引の手段としての効果を持つか否かによって判断されている点には留意したいです。
**(3) 「取引に附随して」とは **
「景品類等の指定の告示の運用基準について」において、「取引に附随して」とは、以下のように定められていますが、そのうち特に留意すべき点としては、
①顧客誘引の観点から、経済上の利益の提供と取引との間に客観的に関連性が認められるか否かによって判断される
②経済上の利益の提供が取引を条件とする場合には限られず、取引の相手方を主たる対象とする場合や、取引の勧誘に際して行われる場合を含む
といった点になります。
(1) 取引を条件として他の経済上の利益を提供する場合は、「取引に附随」する提供に当たる。
(2) 取引を条件としない場合であっても、経済上の利益の提供が、次のように取引の相手方を主たる対象として行われるときは、「取引に附随」する提供に当たる(取引に附随しない提供方法を併用していても同様である。)。
ア 商品の容器包装に経済上の利益を提供する企画の内容を告知している場合(例 商品の容器包装にクイズを出題する等応募の内容を記載している場合)
イ 商品又は役務を購入することにより、経済上の利益の提供を受けることが可能又は容易になる場合(例商品を購入しなければ解答やそのヒントが分からない場合、商品のラベルの模様を模写させる等のクイズを新聞広告に出題し、回答者に対して提供する場合)
ウ 小売業者又はサービス業者が、自己の店舗への入店者に対し経済上の利益を提供する場合(他の事業者が行う経済上の利益の提供の企画であっても、自己が当該他の事業者に対して協賛、後援等の特定の協力関係にあって共同して経済上の利益を提供していると認められる場合又は他の事業者をして経済上の利益を提供させていると認められる場合もこれに当たる。)
エ 次のような自己と特定の関連がある小売業者又はサービス業者の店舗への入店者に対し提供する場合
①自己が資本の過半を拠出している小売業者又はサービス業者
②自己とフランチャイズ契約を締結しているフランチャイジー
③その小売業者又はサービス業者の店舗への入店者の大部分が、自己の供給する商品又は役務の取引の相手方であると認められる場合(例 元売業者と系列ガソリンスタンド)
(3) 取引の勧誘に際して、相手方に、金品、招待券等を供与するような場合は、「取引に附随」する提供に当たる。
(4) 正常な商慣習に照らして取引の本来の内容をなすと認められる経済上の利益の提供は、「取引に附随」する提供に当たらない(例 宝くじの当せん金、パチンコの景品、喫茶店のコーヒーに添えられる砂糖・クリーム)。
(5) ある取引において二つ以上の商品又は役務が提供される場合であっても、次のアからウまでのいずれかに該当するときは、原則として、「取引に附随」する提供に当たらない。ただし、懸賞により提供する場合(例 「○○が当たる」)及び取引の相手方に景品類であると認識されるような 仕方で提供するような場合(例「○○プレゼント」、「××を買えば○○が付いてくる」、「○○無料」)は、「取引に附随」する提供に当たる。
ア 商品又は役務を二つ以上組み合わせて販売していることが明らかな場合(例「ハンバーガーとドリンクをセットで○○円」、「ゴルフのクラブ、バッグ等の用品一式で○○円」、美容院の「カット(シャン プー、ブロー付き)○○円」、しょう油とサラダ油の詰め合わせ)
イ 商品又は役務を二つ以上組み合わせて販売することが商慣習となっている場合(例 乗用車とスペアタイヤ)
ウ 商品又は役務が二つ以上組み合わされたことにより独自の機能、効用を持つ一つの商品又は役務になっている場合(例 玩菓、パック旅行)
(6) 広告において一般消費者に対し経済上の利益の提供を申し出る企画が取引に附随するものと認められない場合は、応募者の中にたまたま当該事業者の供給する商品又は役務の購入者が含まれるときであっても、その者に対する提供は、「取引に附随」する提供に当たらない。
(7) 自己の供給する商品又は役務の購入者を紹介してくれた人に対する謝礼は、「取引に附随」する提供に当たらない(紹介者を当該商品又は役務の 購入者に限定する場合を除く。)。
(4) 「物品、金銭その他の経済上の利益」とは
「景品類等の指定の告示の運用基準について」において、「物品、金銭その他の経済上の利益」とは、以下のように定められています。
(1) 事業者が、そのための特段の出費を要しないで提供できる物品等であっても、又は市販されていない物品等であっても、提供を受ける者の側からみて、通常、経済的対価を支払って取得すると認められるものは、「経済 上の利益」に含まれる。ただし、経済的対価を支払って取得すると認められないもの(例 表彰状、表彰盾、表彰バッジ、トロフィー等のように相 手方の名誉を表するもの)は、「経済上の利益」に含まれない。
(2) 商品又は役務を通常の価格よりも安く購入できる利益も、「経済上の利益」に含まれる。
(3) 取引の相手方に提供する経済上の利益であっても、仕事の報酬等と認められる金品の提供は、景品類の提供に当たらない(例 企業がその商品の購入者の中から応募したモニターに対して支払うその仕事に相応する報酬)。
以上のように、
①提供を受ける者の側からみて、通常、経済的対価を支払って取得すると認められるか否かによって判断されること
②取引の相手方に提供する経済上の利益であっても,仕事の報酬等と認められる金品の提供は、景品類の提供には当たらないとされていること
には留意しておきたいです。
(5)アンケート特典
以上を踏まえ、アンケート回答者へ謝礼としてノベルティグッズ等の金品を提供することが景表法の規制を受けるか否かを検討します。以下で述べるように、一般的にアンケート特典が景表法の規制を受けることは多くはないものと考えられますが、いくつか留意すべき点もあります。
アンケート回答者へのノベルティグッズのプレゼントは、一般的には、客観的に顧客誘引の手段としての効果を持つとはいえず、 また取引との間に客観的な関連性も認められないことが多く、「顧客を誘引するための手段」にも「取引に附随して」行われるものにもあたらないと判断される例が多いように思われます。
もっとも、例えば特定の期間内に会員登録したユーザーや商品・サービスを購入したユーザーに限りアンケートを実施するような場合は、客観的に顧客誘引の手段としての効果を持ち、また取引との間に客観的に関連性が認められると判断されるおそれがあり、この場合には、「顧客を誘引するための手段」として「取引に附随して」行われると判断される可能性があります。
また、プレゼントの対象となっているノベルティの価値にも留意する必要があります。すなわち、プレゼントの価値が、アンケートへの回答という仕事に対する報酬として相応のものであれば、「物品、金銭その他の経済上の利益」には該当しないと考えられるものの、他方、アンケートの設問数や回答文量に比してプレゼントの価値が特に高いといえるような場合には、仕事に対する報酬として相応のものとはいえず、「物品、金銭その他の経済上の利益」に該当すると判断される場合もありえます。
(6)紹介者特典
自社の商品・サービスを広めるべく、購入者を紹介してくれたユーザー(紹介者)に対して特典を付与する場合があります。
このような紹介者への特典付与は、一般的には、客観的に顧客誘引の手段としての効果を持つとはいえず、 また取引との間に客観的に関連性が認められず、 「顧客を誘引するための手段」にも「取引に附随して」の提供にも当たらないと判断されるものと考えられます。ただし、紹介者を自己と取引のある者に限定するような場合には、「顧客を誘引するための手段」として「取引に附随」して行われる提供にあたると考えられています(以下の定義告示運用基準を参照)。
(7)自己の供給する商品又は役務の購入者を紹介してくれた人に対する謝礼は、「取引に附随」する提供に当たらない(紹介者を当該商品又は役務の購入者に限定する場合を除く。)。
他方、被紹介者への特典付与については、経済上の利益の提供が取引を条件にする場合にあたるため、客観的に顧客誘引の手段としての効果を持ち、また取引との間に客観的に関連性が認められるため、「顧客を誘引するための手段」として「取引に附随」して行われる提供に該当すると考えられます。
そして、特典の内容も問題となりますが、特典内容が一般消費者にとって、通常、経済的対価を支払って取得するものといえる場合には、「物品、金銭その他の経済上の利益」の要件も充足するものと考えられます。
したがって、特に被紹介者への特典付与については、景表法の規制がなされることを前提に、その内容を検討する必要があるといえるでしょう。
※景表法の規制の概要や違反した場合の効果等は拙著『スタートアップの知財戦略』をご参照ください。
※本稿の内容は、一般的な情報を提供するものであり、法律上の助言を含みません。
弁護士 山本飛翔
Twitter:@TsubasaYamamot3