『現状維持』だって立派なもんだよ
新卒で入社した会社というのは、良くも悪くもその人の思考に影響を与えやすいものではないかと思う。
私が新卒入社した会社は、インターネット求人広告の会社だった。今ではその分野では大手として認知度も高い企業になっているのだが、私が入社した当時はこれからもっといくぜ!イケイケどんどん!はい、じゃんじゃん!というベンチャー臭たっぷりの社風だった。企画営業職として勤務していたのだが、大量の同期とともに新規リストを渡され、とにかく新規電話でアポ取り、商談、時には飛び込み営業もやりまっせ〜な毎日。私は幸いなことに営業成績が良かったので(自分で言うな)、社風には合ってないなりに居場所を得て、マイペースにやらせてもらえていた。(といってもハイペースなマイペース、ゴリゴリの新規開拓)
その会社は理念の中で『成長』を謳っていた。
目標のために邁進、新しいミッション、全ては会社と自分の成長につながる、と。目まぐるしく変わる環境に身を置いて、それに押し流されないようにと踏ん張り疲弊していたように思う。営業実績を積むと、次はどうする?リーダー?ハイパフォーマー?自分自身も変化が求められる。
私は営業として上へ!という志向ではなく、取材や原稿のコンセプトを決めること、ライターさんとする打ち合わせの時間が好きだった。東京本社の会社で大阪には営業職以外の道もなく、ずっとゴリゴリ営業し続けるのもなぁマネジメントが向いてるとも思えないし……と先が見えなくなり、もっと制作寄りの仕事がしたいという思いで今の会社へ転職した。転職はしたが、先輩も同期も後輩も魅力的で楽しい人ばかりだったし、3年とは思えない密度でたくさんの経験をさせてもらい、感謝している。
そして、この頃の名残りなのか、私の中には“成長しなくては”という意識が根付いている気がする。このままで良いのか……?とすぐ自問自答してしまうのだ。
何年も同じような仕事してるけど、大丈夫?そりゃ裁量は大きくなって、自分のペースでできてるけど、このままで5年後、10年後はどう?
このnoteを始めたのも、その思考回路を経た結果、スタートしたと言える。
最近は、育児・仕事に余裕がある毎日では決してないのに、副業とかしちゃう?みたいにモヤモヤ考えていた。
そんな時、思い出すようにしているのが、夫の言葉。何年か前に何かの会話をしている時、ふと夫はこう言った。
「現状維持もすごいことやと思うけどな。今ある状態をキープするのだって努力が必要じゃない?」
「あ?え?…………確かに。うん、確かにせやな。めっちゃそうやと思う!」
私はその言葉を聞いて、深く同意したのだ。夫は理系で私とは全くの異業種、堅めの技術者をしていて私にはない視点を持っている。
現状をどこに置くかによると思うのだが、例えばお店が今年と同じ売り上げをあげ続けようと思ったら既存客だけでは目減りしていく。営業だってそう、ずっと数字をキープし続けるためには、常に新しいことを考えてやっていかなくては難しい。体型だって脳みそだってなんでもそうだろう。現状を維持しようと思ったら、そこには努力が必要なのだ。
現状維持は退化だ。
福沢諭吉さんやウォルトディズニーさんがそのようなことを言っていたということもあって、広く知られている言葉であろう。同じことを繰り返していても、成長はない、という考え方はわかる。
しかし、それと同時に、
現状維持だって努力が必要だし、立派なことなんだよ。
この視点もしっかり持っていたい。現状維持は成長が止まっている訳ではない。というか成長ってなんや。(ここに来て元も子もない)
突然ではあるが、タモリさんの座右の銘は『現状維持』らしい。気負わない姿勢。しかし、ずっと同じクオリティを保ち続ける凄みを感じる。
よくわからない成長マインドに絡み取られて焦りを感じてしまう時は、夫の言葉とタモリさんを思い出したい。現状維持だってええじゃないか。そこの裏にはちゃんと努力があるんだよ、と認めてあげることがまずは大切なんじゃないかな、なんてことを考えている。ね、タモリさん、そうですよね(知らんがな)。
次の一歩はそれからでも遅くないのだ。