ふたりで生きてゆく

「ふたりで生きてゆく」(hana sakuraiさん 「ふたりで生きてゆく。きょうもあしたもいつまでも。」) より

このお話は hana sakurai さん撮影のお写真より着想させていただきました。こちらの作品です → https://note.mu/hanas/n/nc402cb3f36e9

hanaさん、どうもありがとうございます<(_ _)>




『もしもし、北川さんのお宅でしょうか。奥さまですね? こちら市民病院です』
 土曜日の昼下がり。予期せぬところからの電話。
『落ち着いてお聴きください。ご主人の信吾さんが事故に遭われまして、こちらの病院に搬送されまし――』
 休日出勤したしんちゃんの事故を知らせる突然の電話だった。
 あの時はもうめちゃくちゃテンパって、慌てて病院まで自転車ぶっとばして行ったっけ。
 それがもう、三か月も前のことだ。
 今日、しんちゃんは、無事に退院の日を迎えた。
 
 怪我は左足の大腿骨骨折と、肋骨にヒビ。
 処置が終わってやっと対面できたしんちゃんは、脚を大袈裟な道具で固定されていた。仰向けの状態から神妙な顔で首をひねってこちらを見る。
「やっちゃった、ごめんね」
 しんちゃんの声を聴いたとたんわたし、まるで子供みたいにわんわん声あげて泣いちゃった。お母さんみたいな歳の婦長さんに慰められたんだっけ。
 
 今、しんちゃんはわたしの少し前を、ゆっくりゆっくりと歩いている。
 松葉杖は必要なくなったけど、あと少しリハビリが必要で、今はまだ以前のようには、早く歩けない。
「綾子」
「なぁに、しんちゃん」
 横顔で呼んだしんちゃんと肩を並べる。影も、土手の道の上に寄り添って並ぶ。
「ホントにごめんな。3カ月、たいへんだったよな。やっと退院できたし、出来るだけ恩返しするから!」
 なに言うんだろう、しんちゃんってば。
 そりゃ大変だったわよ。お仕事も残業しなくていいよう、みんなに迷惑かけて調整してもらって。隔日にパジャマや下着なんかの洗濯も病院のランドリーでやった。それらはとてもとても……大変、なんかじゃなかったわよ!
 毎日お見舞いに行ったのはしんちゃんを一人にしたくなかったから。だって寂しそうに毎日、病室から帰っていくわたしを見送るんだもの。ううん。それより、わたしが毎日、しんちゃんに会いたかったんだもの。

 わたしの体の都合で、わたし達夫婦には子供は望めない。それが判明した日、しんちゃんはわたしに言ってくれた。
「なあ綾子、ちょうどいいよ。俺たちふたりで生きていくんだ。おれ恥ずかしいんだけど綾子が子供を抱っこしたり授乳したりする姿見たら、子供に嫉妬しないでかわいがる自信、ないから」
 その言葉が本当かどうか確かめようはない。でも、しんちゃんがそう言ってくれて、わたしは少しだけ、救われた気がした。

 ――ふたりで生きてゆく。
 いついつまでも、ふたりでともに。

「恩返ししてくれるの、しんちゃん?」
 見上げたしんちゃんのうしろの空が青い。雲を散らせ、のどかに青い。
「うん。なんだって買ってやる! とか、豪華海外旅行! とかは無理だけど。2泊くらいの温泉旅行だったらどうにかし――」
「そんなの要らない!」 
 わたしはしんちゃんの言葉を遮った。目に映るのは土手に咲くコスモス。より添う2本の黄色いコスモス。
「いつまでも、いっしょにいよう」 しんちゃんはわたしの視線の先にあるものに気がついたのか、同じほうを見つめ言う。
「二人で生きていくんだ」
 風に揺れる2本のコスモスみたいに。
「今日も、明日も――」 
 しんちゃんの手がわたしの肩を抱く。そっと、引き寄せられた。懐かしくて暖かい、わたしの居場所。うん、そうだね。
「きょうもあしたも、いつまでも!」




すみません、制作に関する裏話的なものは書いてる時間がないので、もしも読んでやってもよし! とおっしゃる方がいらっしゃれば、帰宅後(夜になります)か明日にでも書かせていただきます。
正直あんまり気の利いたことは書けません!(断言)

でわ、お読みいただきありがとうございました!!