「部活にまつわるエトセトラ」

チャイムの音。
机を引きずる音。
がやがやザワザワ、放課後の喧騒。
清掃道具を使う音。
廊下をこっちに走ってくる足音。

「あれ、翔太、おまえ、アキラちゃんの後ろの席だったの?」
「おぉ、優、迎えに来てくれたの? サンキュ。帰ろーぜ帰ろーぜぇ。どっか寄って何か食ってく? ウチ来るか?CD返すわ」
「待って待って、翔太。今日はオレ、先約あるんだよ。 アキラちゃん、どこ行ったか知らね?」
「あ、あきらちゃんって…、明楽美由紀?」
「そそ」
「知らね。何の用事?」
「うん。部活のことで」
「あそーだ、部活だ。優、どーすんの、部活」
「オレ、演部に決めた」
「へ? エンブって、演劇部!?」
「うん、そ。 もうね、オレ、中学ン時みたいに『体育会系まっしぐら!!』はやめるよ。飽きたし、疲れるし、もっとこう、楽しく過ごしたいなぁってねー。ハイスクールライフ」
「で、演部ってか」
「うんっ! それで…翔太はどうす」
「優くんっ!! ごっめーん、あたしそっちの教室まで行っちゃったよー。行き違いにしちゃってたんだね、ごめんごめん」
「アキラちゃん、いいよー、いーよー。無駄に走らせちゃって、こっちこそごめんね」
「そんなことないよ、あー、ちゃんと優くんと会えてよかった」
「…い~いカンジで、お話中、割り込みますヨ。 優、おまえ、何で明楽さんと知り合い?」
「ああ、昨日、部活の見学に行ったんだけどさ、一緒になって」
「合唱部行ってきたんだよ。何かみんなチョイヤブって呼んでてねー」
「ねー、アキラちゃん。面白かったねー」
「ねーって、おまっ…、優、合唱に興味あったの?」
「や、何がいいか、オレに合ってんのかよく判んないし、いろいろ回ってみてもいいかなーって」
「ねえ、優くん…あたしやっぱり無理っぽいよ、合唱部。んーなんか、声が無理」
「あははー、アキラちゃん、けっこアニメ声だもんねー。あ、その声カワイイと思うけど。合唱って声質じゃ、ないかもねぇ」
「ひどいな、もう。でも、あたってるかも…」
「じゃ、アキラちゃんも演部でいく?」
「うん。あたしやっぱり、演部がいい。演部にする!」
「あめんぼあかいな あいうえお?」
「いっぺきへぎに へぎほしはじかみ ぼんまめ ぼんごめ ぼんごぼうー!! きゃああぁぁ、言えたっ!」
「…たっのしそーだなぁ、おい、おめぇら」
「「そりゃー、もうっ!!」」
「っち、はもりやがった」
「せっかく、晴れて高校生になれたんだからさ、今しか出来ないこといっぱいやって、楽しい3年間にしたいじゃない?  そりゃ、帰宅部で校外のお楽しみ、っていうのもアリだと思うけど。バイトやって学校じゃ出来ない経験いろいろすんのもいいけどさ。
オレは部活したいんだ」
「…俺に一言も相談なしで?」
「あっ、石田くん、よかったら一緒に! これから行こうよ。見学していったら? 演部」
「3人で?」
「うん。どーせヒマなんだし」
「ん~…演部かぁ」
「いーじゃないか、行こ行こ、翔太!  翔太こそ、部活どうすんのさ? このガッコ、ロボ研やら科学部なんてないし、帰宅部で、家で一人でやんの? 一人科学部? それとも、もしかして、作っちゃう?」
「あー…、それは、困ってたんだけど…」
「ロボ研って…ロボット作るの?」
「そうそう、明楽ちゃん、このヒト、ロボコン…ロボットコンテストに出場したいんだってさ。大学行ってからのハナシなんだけどね」
「ロボコンの常連大学の附属とか受けたけど、ダメだってさ。そもそも高専に合格してたら…。んなこと言っても仕方ないけど。一個だけ受かったのが優と同じとこだなんて、これなんて腐れ縁?ってなぁ…。 部活するなら、何かこう当たり障りのなさげな、楽なところにするよ」
「ねー、石田くん、楽かどうかは、あたしもよく判んないけど、一緒に行こうよ。別に入部しなくてもいいじゃない、見るだけ見に行ってみようよ」
「だいたいさ、演部っつったら、芝居するんだろ? シバイ。俺、自慢じゃないけど芝居は無理だわ。お遊戯会の木の役レベルだもん。無理無理、ぜったい無理」
「練習すれば慣れてくるし、恥ずかしくなくなっていくんじゃない? なんにしたって、最初っから上手な人なんていないんだし。大丈夫だよ。ねえ、優くん。 優くんも、石田くんって小学校からの友達なんでしょ? いっしょの部活だったら、心強いじゃない?」
「まあ、それはね。…入部するしないは、翔太が決めることだから。 ちょっと見るくらいなら、いいんじゃね? 軽いキモチで、行ってみよー!」
「そーそー、いっぺん行ってみよー!」
「わっ!! 押すな押すな、優!  ちょ、明楽さんも、それ、俺のカバン!」
「翔太、マジなハナシ、機械に強いヒトは大歓迎されると思うよ?照明担当とか、裏方の大道具作るのとか。現役の部員さんたち、女子が多いみたいだからね。 それに縦長で背が高いと、並んだときシルエットにメリハリが効いて、面白くね? 運動やってないくせに、ムダに長い奴なんて、もう言われないさ!キミのその身長が活かされる!!」
「なにっそれ…自衛隊の勧誘?」
「『集え!若人よっ!!』 みたいな?」
「うっわ!明楽さん、今のものっすごいアニメ声…」
「だねぇ、ちょっと自分でも、ビビッた」
「はーい、脱線終わり。脚を動かせ」
「ゆ、優、明楽さん、今日はホントに見に行くだけだそ。ちょっと行ってぱっと見て、合わなさそうだったらさっと帰るからなっ!」
「べつに部室に足踏み入れたとたん、とって喰われたりしないからさ。
あ、そうそう。見学者にはもれなく演部員必携ののど飴をプレゼントだってよかったねー。さあ、行こー!」
「はーい、行き先はー、文化部クラブハウス棟、2階の一番南側でーす」

ぱんぱんっ!と手をたたく音。
「はい、時間です。石田、明楽、車谷チーム、即興劇おわり」
「おつかれさまでした!」
「次のチーム準備して…、え、これで最後?  じゃあ、みんな、それぞれ感想まとめて。少し時間とります。あとで発表してもらうからね」


ブザー音。
「以上、演劇部のクラブ紹介でした。
次は文芸部さん、おねがいしま」
「っと待ったああぁぁぁぁ!  もうちょっとだけ、時間ください。生徒会長、マイクちょうだい 。しんにゅーせいのみなさーん、ご入学、おめでとうございます!  さっきの寸劇は、去年じっさいにあったお話でーす。実話なんでーす。無口でおとなしかった俺は…はい、ここ、笑うところじゃないですよー、舞台裏、静かにしてくださーい。 無口でおとなしかった俺も、演劇部でこんなに元気になりましたー! 演部、楽しいよっ!ぜひぜひ、見学に来てください。のど飴用意して、お待ちしてまーす。
いじょーうっ!石田翔太郎でしたっ」
「…紹介の終わったクラブの部員さんは、速やかに撤収、お願いします。
次は、文芸部のクラブ紹介です。文芸部さん、おねがいします」

                            おしまい