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オリジナル作品集

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オリジナル小説集:mixiの創作系コミュニティに在籍していて、そこで書かせていただいているものです。ふ、増えるかも!?
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2014年5月の記事一覧

F I G H T

F I G H T

            約4300文字(読了までに11分ほどいただきます) 

 腕を引っ張られたので振り返ると、知らない中年女性と目があった。
「すみません。東京まで行かれる人ですよねえ」
 俺とその女性のすぐ横に停車中の新幹線は東京行だ。念のため、ホームの掲示板を確認してうなずく。彼女の視線が俺の胸の記章にある。確認するかのように見つめている。市の職員だと、声をかける以前に目をつけられていたの

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海 葬 の 客

海 葬 の 客

             約9000文字(読了までに23分ほどいただきます)

 厭なものを見てしまった。
 曇天。のったりとした雲に覆われた空は陽の光を遮り、かといって雨が降り出す様子もない。
 暑さもとうに去り、まだ寒くもないこの時季。一年に数日あるかないかの、こんな『好日』に。
 せっかく意を決して屋敷の外に出てみたというのに。 実に厭なものを、ぼくは見てしまった。
 たった今、すれ違った荷

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彼の散歩とわたしの日常【前編】

文字数:約4200(読了まで11分ほどいただきます)

 彼が私を散歩に行こうと誘っている。
 庭から縁に膝で乗り上げ、えくぼの頬に笑みを浮かべ、私を誘っている。春の昼下がり。特にしなくてはならない用事もない。
「いいわよ」と応えた。
 私は開け放した続きの間で、ふすまに半分隠れ、淡いグリーンのカーディガンに袖を通した。その様子を眺めていた彼が、
「なんだかおいしそうな色だよね。桜餅というの

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彼の散歩とわたしの日常【後編】

前編はこちらです → https://note.mu/iori_m/n/nab0fa9ed27ef

文字数:約5300(読了まで14分ほどいただきます)

「月がきれいだよ。見においでよ」
 出先から戻ると、待っていてくれたのか彼が庭に立って手招きしている。 鈍色の喪帯を解こうとした手を止め、縁に出た。夜空には高く、銀細工のような丸い月があった。
「ほんとね……きれい」
 この前に誰かと月を見上

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「部活にまつわるエトセトラ」

チャイムの音。
机を引きずる音。
がやがやザワザワ、放課後の喧騒。
清掃道具を使う音。
廊下をこっちに走ってくる足音。

「あれ、翔太、おまえ、アキラちゃんの後ろの席だったの?」
「おぉ、優、迎えに来てくれたの? サンキュ。帰ろーぜ帰ろーぜぇ。どっか寄って何か食ってく? ウチ来るか?CD返すわ」
「待って待って、翔太。今日はオレ、先約あるんだよ。 アキラちゃん、どこ行ったか知らね?」
「あ、

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お化粧キライ お化粧スキ -1-

お化粧キライ お化粧スキ -1-

1.お化粧キライ
            約2000文字(読了までに5分ほどいただきます)

 あたし、お化粧は嫌い。だって、毎朝、お化粧しているお母さんはこわかったから。
 お花見のお重より大きなお化粧BOXを目の前に置いて、ダイニングテーブルを占領して、お母さんはお化粧している、朝一番に。……ちがうかな、あたしが朝起きだしてくると、いつも。
 聞こえるのは炊飯器がご飯を炊いている音と、洗面所か

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お化粧キライ お化粧スキ -2-

お化粧キライ お化粧スキ -2-

お化粧スキ お化粧キライ ー1- はこちらです→ https://note.mu/iori_m/n/ncee110e7d943

2.お化粧スキ
         文字数:約2400字(読了までに6分ほどいただきます)

 わたし、ちいさい頃はお化粧が嫌いだった。でもわたしにも、お化粧がいいなぁって思うときがある。
 それは、実は娘たちがわたしの化粧品で遊んでるときだったりする。
 普通はこれはい

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お化粧キライ お化粧スキ -3-

お化粧キライ お化粧スキ -3-

お化粧キライ お化粧スキ -2- はこちらです → https://note.mu/iori_m/n/na442e4fec5f3

3.そして私は今日もお化粧をする 
          文字数:約4080字(読了まで約10分いただきます)

 私も普通に女性として、好き嫌いにかかわらずお化粧を、する。
 朝、洗面所の鏡に向かうとまず、鏡のなかの自分としばらくにらめっこ。
 前夜の飲酒でむくんでい

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木 陰 の ポ チ

             
#犬 #いぬ #長文 #小説

             約22300文字(読了まで約1時間いただきます)
  注意:この作品では動物の死を扱います。多少の残酷な描写もあります。
 あらすじはこちらです→ https://note.mu/iori_m/n/nfac2491dddc8

 あの木陰には、ポチがいた。いまは、もういないけれど。

 夏休み直前の浮かれた大学

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