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イノベックス袋井工場-地中熱化計画-② 後編 イノベックスが推進する地中熱システムの仕組みとそのメリットとは?

4.地中熱システム開発の苦労話とは?

地中熱システム導入工事

まず、地中熱を有効活用するということは、地中熱のボーリングのことだけを知っていればいいというわけではないのがポイントです。
多くの方は(ボーリング業者さんだったり、地中熱に関わっている業者さんたちでさえも多いのですが)、実は、その地中熱システムをバランスさせるための計算や、その熱をとってきた後に何に使うのか、どう作用させるのかという議論がすごく少ないという実情があります。

例えば、施設園芸農業でしたら、「こういう熱の取り出し方が必要だ」「熱の需要がこんなふうにある」ということを地中熱の専門家の方々は意外にも全く知らないわけです。
そのため、熱の取り出し方と熱の需要を結びつけるのが一番大事な話になります。

地中熱システム開発の苦労話としましては、今振り返ってみますと、需要と供給といいますか、地中にどのくらいの熱量があるのかということと、どれくらい地中熱を使う必要があるのかということをしっかりと理解しながら結び付けて、双方をバランスさせていく技術を確立するのが非常に難しかったですね。
地中熱システムの工夫だけでは解決しない問題もあるからです。

私たちイノベックスは、例えば施設園芸農業で言えば、太陽光を遮る遮光ネットや風通しを良くする防虫ネットなどの農業資材を作っていますので、そういったものと地中熱システムを組み合わせて施設園芸ハウスの熱負荷をデザインしていくことができます。

そして、私たちがデザインして作った熱負荷の中に、その施設園芸ハウスにちょうど最適な地中熱システムをご提案することができます。

具体的には、地中熱システムの熱源はもちろんのこと、私たちが得意とする地中熱の特性をしっかりと計測して「これだけの価値がありますよ」と評価し、その評価の結果をボーリングの本数に置き換えて地中熱システムに適用させることができるのです。

5.地中熱システムの導入にはイニシャルコストやランニングコストがどのくらいかかるのか?

ダイオ袋井工場の地中熱システム

地中熱システム導入のためのイニシャルコストやランニングコストについては、導入を検討していらっしゃる事業者様の多くが一番関心を持たれていることかと思われます。
実はこの質問が一番、お答えするのが難しいものです。

熱需要がどのくらいあるのかというのが事業者様によって変わってくるからです。
つまり、同じ1000㎡の面積でも、農業の1000㎡と学校や老人ホームのものとでは熱需要や熱負荷が違うのです。
この違いをまずしっかり把握できているかどうかが大事です。

また、そのお客様がいらっしゃる地域がどのような地域で、その土地の地中熱がどれくらい取れるのかについても様々だからです。
松竹梅ですとか、強中弱といった言い方で良いかも知れませんけれども、やはり、その土地ごとに利用できる地中熱の強弱はあります。
熱需要や熱負荷と、その土地で取れる地中熱の強弱をバランスさせて初めて、イニシャルコストを算出することができるわけです。
そのため、一言で「何㎡でイニシャルコストはいくらです」ということを言いにくい実情があります。

ただ、私たちもせっかく、この袋井工場に地中熱システムを導入しましたので、その事例からご説明させていただくことはできます。

イノベックスの袋井工場には、生産しているエリアが約5000平米あります。
そこに対する地中熱システム導入の設備投資額は約1億円でした。
また、生産エリアに500キロワット相当のヒートポンプを導入しております。
これは1つの基準になると思います。
ただし、袋井工場ではもともと既存の設備がありましたので、その既存の設備に地中熱システムをつなぎ込んでいるという要素があるため、イニシャルコストが少しコストダウンできているという事実も申し上げておきます。
そのため、最初から地中熱システムの全体を作ることになりますと、その1.5倍の約1億5千万円ほどのイニシャルコストがかかるでしょう。
なお、新たに地中熱システムを導入する場合には、国から約2分の1の補助金が出されます。
私たちの袋井工場は1億円で設備投資をしましたので、約2分の1の5千万円を補助金で賄いました。
つまり、自分たちで負担したのは約5千万円になります。

この5千万円については、私たちが純粋にイニシャルコストとして持ち出したのではなくて、今回は設備更新がありましたので、地中熱システム以外のものを導入した場合にいくらかかったのだろうか?ということを考えなければなりません。

仮にそれが3千万円かかったとします。
地中熱以外のものを導入したとしたら3千万円かかったとして、地中熱のヒートポンプを導入すれば、1億円のうちの2分の1である5千万円を補助金で賄うことができ、この差額が約2千万円ということになります。
つまり、約2千万円の自己負担が余計にかかったということになります。

さて、他方で、この袋井工場のランニングコスト削減効果についてですけれども、これは年間約1,400万円と見込んでおります。
したがって、先程の自己負担額2千万円は約1年強で回収できてしまう計算になります。
2年強で自己負担額を回収した後は、それ以降は純利益になりますので、地中熱システムを導入した工場経営者様にすれば、毎年約1,400万円の経費が浮くというメリットがあります。
それに加えて、環境負荷低減効果については年間約100トンのCO2削減効果を期待しております。
これは静岡県にある袋井市と掛川市の2つの自社工場で排出される二酸化炭素排出量の約7%に相当します。

私たちイノベックスもこれまでに様々な環境負荷低減の方策を講じてきました。
いろいろ試行錯誤してきた中で「もうこれ以上は削減できないんじゃないか」というところまで頑張りましたが、そこからさらに7%削減できていますので、この削減量は非常に価値のあるものだと考えております。

なお、設備の更新についてはどのくらいの期間を見込めばよいのか?についても、多くの事業者様にとってご関心がおありだろうと思われます。

特許技術「ヒートクラスター®︎」
「ヒートクラスター®︎」は標準的な地中熱利用の5倍程度の性能を発揮。
一本の採熱孔から“熱”と“水”資源の両方を取り出すことができる本技術は、
国内だけでなく途上国などで抱える複数の問題を解決する新たな技術として期待されている。

設備更新については、ヒートポンプ本体が一番傷みやすいと思います。
まずこれを更新しなければなりません。
それ以外には、循環ポンプといったものが傷んでくると思います。
これらは約15年で設備更新しなければなりません。
他方で、それ以外の純粋な配管、それから地中熱の採熱部分は半永久的にと言ったら少し言い過ぎかもしれませんが、かなり長い期間性能を維持できることを期待しております。
具体的には、地中熱源孔は、30年経ってもまだ現役と同じ熱交換をし続けるだろうと期待しております。

ですから、設備のメンテナンスといいますか、ライフサイクルで考えたときの大きな費用負担の発生については、15年に1回ヒートポンプや循環ポンプを交換していくことになります。
それから、ちょっと補修したりするなどの細かいメンテナンスや、さらにより良い機器が出来てきたらそれに交換するなどといったことが発生するかもしれませんが、それでも、その程度だと考えております。

6.地球規模の環境や地域貢献などを果たす観点からの地中熱活用の未来とは?

私たちイノベックスは、1軒の農家さんですとか、1つの工場様だけに地中熱システムを適用することで終わらせるつもりはありません。
「地中熱システムを地域エネルギーにしていきたい、地域の熱エネルギーのインフラにしていきたい」と考えています。
これはエネルギーの地産地消とか自立ということにつながります。
例えば、何軒かのお宅がある住宅街があったとします。
そこに地中熱を導入しようと思ったら、現在はそれぞれのお宅の頑張りによって、基本的に庭先にボーリングをして、地中熱を利用する、そこに補助金が出るといった感じになっています。

しかし、近い未来ではそうではなくて、何軒かで構成する住宅街にみんなで使える地中熱システムを作って、その熱を融通し合いながら、みんなで使っていくようにします。
そうしますと、熱をただ消費するだけではなくて、排出することもできるようになります。
排出した熱を他の誰かにも使ってもらえますので、住宅街のその隣に工場などがあったら、その工場と住宅街が熱融通をし合うことができるようになるのです。
熱融通をし合っている中で、余ったり足りなかったりする分は地中熱からまた調達できたり、地中に預けたりすることもできます。
さらには、その地域に施設園芸農業があれば、さらに熱需要や余剰な熱が出てきます。
したがって、地中熱を地域の熱エネルギーのインフラとして、ハブとして、有効活用していただいて、みんなで融通し合うといった街づくりができたら一番面白いなと考えております。

私たちイノベックスは、地中熱事業を推進していく中で、地域全体の、街全体のエコ循環システムを築いてしまおうという未来を描いております。

7.技術専門職からのメッセージを地域にお住まいの小中学生のお子さんへ

ジオサーマルトランスフォーメーション事業部・部長 福宮健司

袋井市役所の方ともお話ししたのですが、市内でもこれまでに地中熱システムを導入していらっしゃる事例は非常に少ないといいますか、ほとんどなかったそうで、とても興味を持っていただけました。
私たちイノベックスもこれから地中熱に関する情報発信をたくさんやっていく必要があります。
「皆さんが住んでいらっしゃる地域には、なんでしたら皆さんの庭先にはこれだけの地中熱エネルギーが実は眠っているんですよ」ということに気づいて頂いて、しかも、それを有効活用してもらいたいと願っています。
地産地消の資源である地中熱を楽しみながら有効活用してほしいというのが、私たちイノベックスの理想的な地域とのつながり方の一つだと思います。

地中熱についての情報を発信することで「えー、そうなんだー!」と知ってもらい、それを使ってもらえるのが一番良いと考えています。

さらに、地域で地中熱を活用していく中で、子供の頃から地中熱や再生可能熱エネルギーに触れることで、そのことに興味を持ったお子さんたちがさらに成長して、そういった学問を身に付けていってほしいです。

そして、自分自身も地中熱をやりくりすることにより、「地産地消のエネルギーで、この地域を、そして、日本を良い国にしていくんだ!」、「エネルギー的に安定したみんなで安心して暮らせる社会を作っていくんだ!」という想いを持って、エンジニアですとか、制度自体を作る役割の方になるですとか、そういった方々が増えてくれるといいなと思っています。

今から30年、40年、50年後になるかも知れません。
しかし、そういった未来にこの地中熱が珍しい技術ではなくて、国や自治体の制度の中に自然に組み込まれているような、そういった社会を作ってくださる方々の、小さい頃の原始的な体験といったものにイノベックスの地中熱システムがなれたら嬉しいなぁと思っております。

最後に、子供時代にしておくと良いのではないかと思われる勉強や経験についてアドバイスさせてください。

確かに、1つの専門性を突き詰めるのも良いとは思います。

ただ、自分の興味がある専門領域のその両脇に、実は、さらに興味を持てることがつながりを持って存在していることがあります。
そのため、今興味があること自体はそれも大切なのですが、その周辺のことも切り捨てずに、ぜひ自分の興味の幅を自由に広げていっていただきたいです。
そうしますと、もしかして最初に興味を持っていたものよりももっと興味を持てるものが生まれてくるかもしれません。
さらには、いくつかの専門領域を組み合わせると今まで発見できなかったものが見つかるかもしれない面白さもあると思います。
したがって、何かにこだわって一箇所だけを突き詰めていくのではなくて、実は興味がないと思っているものでも、あえてそこに目を向けてみる暮らし方ですとか、気づき方、遊び方をすると良いのではないかなと思います。

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