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バイトに行くつもりが、海を経由して児童相談所にたどり着いた話②

私がまず連絡したのは、クラスのLINEグループだった。何をどう説明してどう助けを求めればいいのか分からなかったけど、今自分が海辺の駅にいること、海まで行きたいが行き方が分からず周りも暗いため身動きが取れないこと、これからどうすればいいのか分からないということを聞いてもらった。

するとクラスの友達が個人LINEに来て何があったのかを聞いてくれて、話すことが出来た。その瞬間おかげで少し心が救われた。

その後、私は彼氏にも電話をかけた。クラスメイトに言ったのと同じようなことを聞いてもらっていたのだが、人の声を聴いた瞬間泣きそうになった。覚えていないけど、泣いていたかもしれない。そうして話をしていると、男の人が私の目の前に現れて声をかけた。男の人は私の名前を確認し、こう言った。

「今君の行方不明届けが出されていて、お母さんが探しているよ。」

暗くてシルエットしか分からなかったが、男の人は警察官だった。

顔を上げると駅の近くに車が止まっていて、そこからもう1人警察官が降りてきた。警察官は「発見しました」「保護します」とか、警察24時とかドラマとかでしか聞いたことないようなことを無線機で話していた。私はそれを見てやっと、大変なことをしたんだということに気が付いた。

私は彼氏との電話を切って、警察車両に乗せられた。車の中でクラスメイトのLINEグループに「保護されたwww警察車両なうwww」とかまるで他人事のようなメッセージを送ったが、今思えば本当に周りの心配をそっちのけだし頭が悪いコメントをした。

保護されてやっと一件落着…とはならず、大変なのはここからだった。

車に乗せられて警察署に来たら、まずは会議室のような部屋に案内され、話を聞かれた。

何かあったのか?と聞かれたが別に何かがあった訳では無い。どうしてこんなことしたのか?と気かれても言葉で説明出来るほど分からない。警察官と話をする中で、家に居るのがしんどいというのは打ち明けた。

親が離婚する時に父と母の意見の間に挟まれ、離婚の原因が金銭絡みだったので自分の力ではどうすることもできず、親同士の愚痴や自己否定もあったが、ただひたすら両親の心の内を聞いて頷くしかなかった。それが当時中学生だった自分にはとても耐えられず、でもそれを誰かに相談することもできない。結果高校生になっても引きずった。

そういう話をした。

「家族は好き?」

と聞かれたが、その時はもう全然分からなかった。むしろちょっと嫌いだった。「どうして親は私にこんな辛い思いをさせるんだろう」とか、「何も知らない弟が憎い」そんな気持ちを抱いていた。挙句、「自分が家族への気持ちを押し殺して死にたくなるなら、いっそ家族全員殺して自分も死にたい」そんなことを言った。

話を聞いてもらっていると、両親が迎えに来たと伝えられた。私は到底帰る気にはなれず、むしろ家族への嫌悪感を話した直後の勢いで、今会えば殴ってしまうかもしれないと思った。

それを話しても、とにかく親と合わなければ話が進まず仕方がないので、と部屋を引きずり出された。

親は私の顔を見るなり、「よかった無事で」と泣いた。

だが私はそれが腹ただしくて、「誰のせいだよ」という気持ちを込めて胸ぐらを掴んで頬を叩いた。

その瞬間、警察官と両親の居るこの場がザワついたのが分かった。

泣きながら「なんで!?」と言う声を他所に私は警察署を飛び出た。このままあんな家に帰ってたまるかと、とにかく逃げようと走った。後ろから男性の警察官が3人くらい追ってくるのが分かった。

私は走るのが早いわけではないし、警察官なんか相手にならないのは考えればわかる。でもとにかく逃げたくて、捕まってもなお「やめろよ!」「離せよ!」と街中で叫んだ。

体を雑に抱えられたまま、私は強引に警察署の上の階に連れていかれて、柵の中に押し込められた。うす緑色のリノリウムの床で、劣化して黄色くなった白の柵で囲まれた空間の中に和式の便器がひとつあった。私は叫んで暴れてパニックになり、追いかけてきた警察官に体を抑えつけられたまま過呼吸になったが、楽な体勢もとれず落ち着くまで床に這いつくばっていた。

落ち着いたら、女性の警察官がリュックを背中から剥がし、「ちょっと中見させてもらうね」と荷物を漁り始めた。私は警察官に不信感を募らせていたので、蹲ったまま「やめて、返して」と泣きながら声を絞り出した。

警察官はポーチの中も探り、自転車の鍵を見つけると「これ大丈夫かな?」と話し始めた。暴れたので、鍵を凶器に使うかもしれないと思ったのだろうけど、とりあえず大丈夫だろうということで没収されたりはしなかった。

そしてリュックに詰められたクマのぬいぐるみを見て、「これは?お気に入りなの?」と声を掛けてきた。私は答えずに、ひたすら「返して」と発していた。

しばらくすると複数人いた警察官が婦警さんを残して居なくなった。柵の中で婦警さんと2人になったが、私は汗と涙でぐちゃぐちゃになったまま蹲っていた。

しばらくすると男性警察官が戻ってきて、「両親には帰ってもらった」と伝えられた。

両親は不安を募らせたまま我が子を迎えに来たのに、頬を叩かれた挙句身柄を引き取れないまま帰らされたのだ。今考えれば申し訳ない。

それから警察官と少し話をして、祖母の家に送り届けてもらうことになった。



③に続きます。

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