資産5億円以上の「超富裕層」の増加と格差
お金に関する不安や心配は尽きない、というのが多くの人にとっての実感です。しかし、そんな中でも「お金持ち」は確実に増えています。野村総合研究所が行った2021年の調査によると、資産1億円以上5億円未満の「富裕層」と、5億円以上の「超富裕層」の合計世帯数は148.5万世帯に上ります。これは2005年から始まった推計の中で、過去最多であった2019年の132.7万世帯を上回るものであり、2013年以降増加が続いています。
このような富裕層や超富裕層の増加は、日本経済にどのような影響を及ぼしているのでしょうか。また、その背景にはどのような要因があるのでしょうか。本記事では、富裕層の増加の要因とその影響、そして拡大する格差について詳しく見ていきます。
5つの資産階層とは
野村総研の調査では、日本の世帯を5つの資産階層に分類しています。この分類は、預貯金、株式、債券、投資信託、保険などの「純金融資産保有額」を基に行われます。純金融資産とは、世帯が保有する金融資産の合計から負債を差し引いたものであり、この基準によって世帯は次の5つの階層に分けられます。
超富裕層:純金融資産5億円以上の世帯(約9.0万世帯)
富裕層:純金融資産1億円以上5億円未満の世帯(約139.5万世帯)
準富裕層:純金融資産5,000万円以上1億円未満の世帯(約325.4万世帯)
アッパーマス層:純金融資産3,000万円以上5,000万円未満の世帯(約726.3万世帯)
マス層:純金融資産3,000万円未満の世帯(約4,213.2万世帯)
この構造を図にすると、資産が少ないほど世帯数が多いピラミッド型になります。しかし、超富裕層や富裕層の増加は、このピラミッドの上部をさらに押し上げる形で進んでいます。
このピラミッド型の構造は、富の集中と格差の拡大を象徴していると言えます。特に、上位の階層に属する世帯が増加することで、社会全体における富の偏りがますます顕著になっている現状が見られます。
アベノミクスがもたらした影響
では、なぜ2013年以降、超富裕層や富裕層が増加しているのでしょうか。野村総研は、この増加の背景に「アベノミクス」があると指摘しています。アベノミクスとは、安倍晋三元首相が進めた経済政策であり、その主な目的はデフレ脱却と経済成長の実現でした。具体的には、大規模な金融緩和、財政出動、成長戦略の3つの柱を基に、日本経済の再生を目指しました。
アベノミクスにより株式などの資産価格が上昇し、富裕層や超富裕層の資産が増大したことが一因とされています。株価の上昇により、資産を持つ人々の財産価値が増し、富裕層への移行が進んだのです。また、金融資産を運用する準富裕層が富裕層へ、富裕層が超富裕層へとステップアップする動きも見られました。このように、アベノミクスの影響は富裕層に大きな恩恵をもたらし、その結果として富裕層と超富裕層の数が増えたと考えられます。
さらに、低金利政策により、不動産投資が活発化しました。不動産価格の上昇も資産保有者にとって有利な状況を生み出し、特に大都市圏を中心に資産価値の増加が見られました。このような状況が、富裕層の資産増加を支える一因となっています。
拡大する格差への懸念
一方で、アッパーマス層やマス層の世帯数は横ばいであり、むしろ2013年と比べると増加傾向にあります。このことから、資産全体の底上げが進む一方で、格差が拡大しているとの懸念も浮上しています。富裕層と超富裕層がますます豊かになる一方で、多くの庶民は資産の増加を実感できていない状況が続いています。
また、物価上昇や実質賃金の停滞が、庶民の生活を圧迫しています。アベノミクスの影響で株価や不動産価格が上昇する一方で、一般の労働者の賃金はそれほど上がっていません。そのため、富裕層とそれ以外の層との間で経済的な格差が広がり続けています。
この格差の拡大は、社会の安定性にも影響を及ぼす可能性があります。富裕層や超富裕層が資産を蓄積する一方で、マス層やアッパーマス層は生活に不安を抱えている状況が続いています。特に、老後の生活資金や子どもの教育費に対する不安が高まり、多くの人々が将来に対して悲観的になっている現実があります。
富裕層の増加と社会への影響
富裕層の増加は、経済全体に対して一定のプラスの影響も与えています。例えば、富裕層による高級品の消費や投資が経済を下支えすることがあります。また、富裕層が不動産や株式に投資することは、資産市場の活性化にもつながります。しかし、このような富の集中が進むことで、社会全体の経済的な安定性に悪影響を及ぼすリスクも指摘されています。
例えば、資産の集中により、一部の人々が経済的な影響力を強めることがあります。これにより、政策決定が特定の層に有利になる可能性があり、社会全体の公正さが損なわれる恐れもあります。また、格差の拡大は消費の二極化を招き、経済全体の成長を阻害する要因となることも考えられます。
格差是正に向けた取り組みの必要性
このような状況において、格差を是正するための取り組みが求められています。政府や地方自治体は、社会保障の充実や税制の見直しなどを通じて、格差の縮小に取り組む必要があります。例えば、富裕層への課税を強化し、その財源を使って教育や医療、福祉などの公共サービスを充実させることで、全ての人々が安心して生活できる社会を目指すことが重要です。
また、教育格差の是正も重要な課題です。教育の機会を均等にすることで、将来的な収入格差の縮小につながる可能性があります。特に、低所得世帯の子どもたちが質の高い教育を受けられるよう、奨学金制度の充実や教育支援の強化が求められます。
富裕層の増加は、経済の一部にはプラスの影響を与えていますが、それが全ての人々にとって良いこととは限りません。社会全体が持続的に成長し、全ての人々が安心して暮らせるよう、格差の是正に向けた具体的な取り組みが必要です。