交渉の真髄
ビジネスは交渉の連続だ。多くのビジネスマンが交渉が上手くなりたいと考えているだろう。では一体交渉力とは何であろう。交渉力があるというと、所謂タフネゴシエーターのような、ゴリゴリの交渉者をイメージされることが多いが、筆者の考え方は少し違う。
仏教思想では、自利利他と言い、他人の利益を考えて初めて自分の利益に繋がるという教えがある。こんな話がある。その昔、ある男が内陸の村で塩が不足していることを目撃した。その後、浜の村で塩はあるけど米が無い村に出会った。男は内陸の村の米と浜野村の塩を交換したら皆が喜ぶのではないかとお互いの村長に提案したところ、とても喜ばれたそうだ。そして何よりその感謝の証として、その男には大量の塩と米が贈られたのでした。
この話は、他人の利益を一番に考えることが商売の成功に繋がることに加えて、実はもう一つの面白い真実を表している。それは、「違い」は「価値」を生むということだ。当たり前のことだが、塩が欲しい人と米が欲しい人のニーズが違うからこそ、この取引に価値がある。
これと同じことを全く違う場面で言い表しているのが、人質事件など多くの事件の交渉を成功させてきた元FBIの交渉官、Chris Voss氏だ。そんな彼の著書の題名はNever split the difference(違いを分けない)。MBAのNegotiation(交渉)クラスでは、相手との共感からニーズへの違いを引き出し、交渉を成立させることを教える。例えば極端に単純化すると、こちらはあるものを100円で売りたいが、相手は90円で買いたいとしよう。この際に共感により相手から実は納期を短縮してくれたら110円でも買いたいというニーズの違いを引き出したとする。こちらが納期の短縮にかかるコストが5円であれば、納期を短縮して110円で売れば、こちらも儲かって相手も喜ぶWin-winの関係が生まれる。これは物事に対する価値の置き方への違いが生んだValueなのだ。誰かと話していて、この人は自分と違うなと感じたら、嫌うのではなくチャンスと思うのだ。そこに何らかの価値が眠っている可能性がある。「違い」こそが価値なのだ。