2023年3月後半日経平均相場の振り返り
① 日経平均チャート
3月後半相場を振り返ると、日経平均株価は16日の安値26632円を底に反転上昇し28041円で取引を終えた。これで、2月末比で571円高となった。
世界的に広まっていた金融システム不安がやわらぎ、過度に売り込まれていた銘柄を買い戻す動きが強まった結果、日経平均は上昇。
決算期末に伴う、配当再投資による特殊要因の影響もあり。
② 業種別日経平均株価「商社」
前半同様、後半相場も高配当株物色の流れで、海運・銀行・商社株の物色は変わらなかった。
業種別日経平均株価では「商社」が2000年3月以来23年ぶりの水準まで上昇していた。
29日には3月期末の権利付き最終売買日を迎え、配当金の再投資を巡る思惑で日本株を押し上げた。
29日から30日にかけては配当金の再投資で1兆円超の先物買いがあるとされ、短期筋の追随も誘った。
③ TOPIXとは
再投資をしたのは東証株価指数(TOPIX)や日経平均株価などの指数に連動することを目指すファンドである。
指数からのずれを小さくするために、配当の権利が確定すると入金を待たずに先物で配当分を購入する仕組みだ。
④ TOPIX先物チャート
このため29、30日の2日間TOPIX先物は大きく商いを増やした。
⑤ TOBとは
23日には東芝が日本産業パートナーズなどの連合による買収提案を受け入れると発表した。
TOB価格は1株4620円となった。
7月下旬開始予定の買い付けが成立すれば東芝株は上場廃止となる。
⑥ 東芝TOB
東芝は17年12月に海外ファンド60社から6000億円の出資を受け入れた。
両者は経営方針や資本政策を巡り次第に対立が激化していった。
しかし東芝は傘下に防衛や原子力関連事業を抱え、政府の関与が入りやすい、このため株主側の期待ほど構造改革が進まなかった。
外為法が壁となり海外ファンドによる高値買収案は消えた。
まず株主がTOBに応ずるかが焦点だが、今回の東芝株非公開化で生じる再投資需要は最大で2兆円である。
この資金の行方が気になるところである。
⑦ UBS クレディスイス買収
今月最も注目されたのはUBSのクレディ・スイスの買収である。
クレディ・スイスは経営不振が続いていたが、年次報告書の開示延期や米シリコンバレーバンクの破綻を受けて株安が加速し上場来安値を更新し、スイス中銀から最大500億スイスフラン(約7兆1000億円)を調達することが決まっても市場の懸念は収まらなかった。
UBSによるクレディ・スイスの買収過程でスイス連邦金融市場監督機構(FINMA)はクレディ・スイスが発行した160億スイスフラン規模のAT1債を無価値となることを公表した。
このAT1債を無価値とする処理は、今後金融市場の不安定性を増幅することになるのではないかと、私は心配している。
⑧ AT1債とは
まずはAT1債とは何かを説明しておこう。
AT1債(Additional Tier 1)は偶発転換社債(Contingent Convertible Bond : CoCo債)とも呼ばれ株式と債券の中間の性質を持った証券のひとつ。
金融機関が破綻した際の弁済順位が普通債などに比べ低くリスクが高い。
発行体の自己資本比率が一定の水準を下回った場合や監督当局の決定などにより、強制的に元本が削減されたり株式に転換されたりする特性がある。
⑨ AT1債(クレディスイス)
では何を心配しているかというと、欧州でのAT1債の発行総額は約2580億ドル(クレディ・スイスのAT1債を除く)あり、その内200億ドル余りが年内にファーストコール日を迎える。
ファーストコール日とは、期限前償還条件付きの劣後債などで、発行体が満期前に繰り上げて償還できる期間のうち、最も早い日付のことを言う。
期限前償還条件付きの再建については、ファーストコール日に償還されることが慣例となっていることから、それが事実上のAT1債の満期日となる。
⑩ AT1債の利回り
この時点で、新たなAT1債の発行で借り換えできるとしても、現在欧州のAT1債の利回りは平均15%台まで上昇している、(2月の段階では7%台であった)これでは利払いの負担が高く、銀行の負担を可能性がある。
またAT1債市場の混乱から追加発行が難しい場合には、新規の株式発行を実施することを強いられ、それは希薄化から株価の下落を招く可能性がある。
仮に新たなAT1債の発行も株式の発行も難しい場合には、自己資本が減少し、自己資本比率が低下して、金融市場では銀行の支払い能力、負債弁済能力が低下したとみなされる。
それは当該銀行の株式や社債の価格に打撃となるとともに、経済全体への打撃となってしまうであろう。
今後最大の注意が必要と思われる。