元NASA CTO創業の小型衛星打ち上げSPAC $ASTR
はじめに
今回は、小型人工衛星打ち上げのASTRの調査を行いました。2040年までに100兆円ビジネスになるとも言われる宇宙ビジネスで、創業4年という超スピードで宇宙に達したこのASTRのポイントは以下かと思います。
・元NASAのCTOでシリアルアントレプレナーがCEO
・MIT、NASAを経たCo-founderでもあるCTO
・2021年にはApple、Tesla出身者が続々経営陣として参画
・AirbusやSalesforceのCEOであるMarc Benioff氏などから資金調達
・アメリカ国防高等研究計画局(DARPA)のDARPA Launch Challengeファイナリスト
・政府や民間と、1億5,000万ドル以上契約済み
企業概要
ZAIはASTRを「低コストで小型の人工衛星を、低軌道まで打ち上げることに特化」した企業として説明しています。概要説明が非常にわかりやすかったため、以下に引用します。
アストラ・スペース(ティッカーシンボル:ASTR)は、低コストで小型の人工衛星を低軌道(Low Earth Orbit)に打ち上げることを目的とするロケット打ち上げ会社です。・・・アストラ・スペースのロケットは手間がかからないため、作業員が4名ほどいればどんどん打ち上げることが可能です。実際、アストラ・スペースは、ゆくゆくは1日1回のロケット打ち上げを目指しています。・・・この会社は「華々しい夢のある宇宙ビジネス」というより、運送会社に近い地味な企業になると思います。なぜなら、一番達成しやすく難易度の低いロケット打ち上げに特化し、黙々と数をこなすことを考えている会社だからです。
出所:ZAI
一般的に知名度が高い、SpaceXなどとはかなり毛色が異なる企業ではないかと思います。宇宙ビジネスの中の打ち上げ、そしてその中でも小型に特化しており、「ゆくゆくは1日1回のロケット打ち上げ」を目指しており、宇宙のインフラといった企業になりそうです。
こちらなど見てもらえると分かるのですが、宇宙ビジネスのボリュームゾーンは有人飛行や、ホテルなどではなく、打ち上げ、地上設備などであり、利用用途も、情報関連なのです。そのため、トウシドリは宇宙ビジネスで実利を上げていくのはASTRのような会社なのではないかと読んでいます。
ちなみにゴールドマンサックスの予測よれば「2040年代に宇宙ビジネス市場規模が1兆ドルに達する」そうです。ちなみに、「世界の自動車産業は、2030年には9兆ドル弱に成長すると予測されています。」
出所:Statista
出所: The Goldman Sachs Group, Inc.「Space: The Next Investment Frontier」(2017年4月)
ミッションと事業概要
ASTRは地球上の生活を向上させるための新世代の宇宙サービスを目指しており、地球低軌道(LEO)にある新しい小型衛星が必要であるとしています。
しかしながら、ASTRによれば「これらは従来の衛星よりも急速に小型化、低コスト化し、数も何倍にも増えている」にも関わらず、「ロケットは同じようには進化しておらず、ほとんどのロケットは従来の衛星や有人宇宙飛行ミッションへの対応に集中」しているようです。そこで、ASTRは、衛星の進化に合わせ、より小型で高頻度かつ、定額の打ち上げの実現を目指しています。
引用:S-1
Deloitteによれば、書く技術の進歩により、ASTRが目指す世界を実現する土壌は整いつつあるようです。また、新興国の隆盛などにより、高度な通信技術に対する需要も高まっています。ちなみに、Deloitteは、衛星ビジネスの課題の一つにコストを上げており、ASTRのニーズは確からしそうです。Deloitteはコスト課題の中で以下のように述べています。
衛星の多くは5年から7年ほどという比較的短寿命のため、定期的に新しい衛星を打ち上げ、古い衛星を軌道から離脱させるコストが継続的に発生することにも留意する必要がある。
出所:Deloitte
長寿化は当然目指していくとは思いますが、小型衛星の打ち上げサービスは、恒常的需要が存在するサービスのようです。
サービス
打ち上げサービスからスタートしていますが、夢ある企業の例に漏れず最終的にはプラットフォーマーを目指しており、打ち上げサービス、スペースポートサービス、衛星サービスの3サービスの提供を計画しています。
打上げサービス
衛星オペレータや政府に対して、迅速かつグローバルで安価な打上げサービスを提供することを目的としています。
スペースポートサービス
主要な政府機関のお客様向けに、アストラのロケットを打ち上げる能力を備えたターンキー型のスペースポートを提供することを目指しています。スペースポートは、最小限のオンサイト・インフラを必要とし、Astra社の高度に自動化された打上げオペレーションを活用します。
衛星サービス
社内およびパートナーが提供するサブシステムを活用して、モジュール式に構成可能な衛星をお客様に提供することを目的としています。
引用:S-1
計画としては、2021から商業の打ち上げサービスを開始し、2022にはSpaceServices、SpaceportServicesといった複数サービスの開始などを予定しています。また、2025には毎日打ち上げを行うような計画となっています。
出所:ASTR
戦略
コストを抑えるために、カーボンファイバーや3Dプリントのような高価な材料や製造技術を避け、すぐに入手できる材料を利用しているようです。3Dプリントはまだまだ用途が限られる技術のようですね。
下図はASTRのポジショニングを説明しています。競合に挙げられる企業はいくつかありますが、価格帯等が明らかに異なっており、住み分けができるのではないかと思われます。実績を重ねた後は規模の経済による争いとなるでしょうし、
出所:ASTR
ちなみに競合優位性として、市場におけるポジショニングや、需要へのミート、価格戦略などの競合優位性がS-1で説明されていますが、その中でひとつユニークなのは、既に将来を見越した広さをもつ土地を所有し、かつ、米国海軍が建設したエンジンテスト施設を敷地内に保有していることではないかと思います。
時価総額
2021/8/10現在の時価総額は$3B程度です。同じ宇宙ビジネスのSPCEは$8B程度となっています。
ASTRの売上は2025には$1.5Bとの予想なので、仮にこの売上を達成した場合のバリュエーションと時価総額を整理すると以下のようになります。
計画通りの売上が達成された場合は、2024-2025のみ見てもRevenue Growthは92%などになり、現在のそのレベルの企業となると、PSR50以下ということはないかと思います。となると、株価は現在から5年で25倍以上。ただし、計画通りに行けば、ですが。
ちなみに2025時点では年間300の打ち上げを行い、70%の利益率となってる計画です。70%はいささか盛っているか、少し前提が楽観的すぎるかがあるような気がしてならないですが。
出所:ASTR
売上予測
2021は$4Mに過ぎませんが、2025には$1.5Bとなる予測となっています。
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