株式投資自分なりの考え方―No.004:コーエーテクモホールディングスの特異な収益
コーエーテクモホールディングスとは
コーエーテクモホールディングス(以下:コーエーテクモHD)【証券コード:3635】は2009年にゲームメーカのテクモ株式会社と株式会社コーエーが経営統合してできた会社ですが、代表取締役会長の襟川恵子、代表取締役社長の襟川陽一はコーエー創設者であり、実質コーエーがテクモを吸収したような会社になっています。
コーエーテクモHDの代表ゲームは「信長の野望」、「三国志」、「無双」、「大航海時代」、「仁王」などがあります。
図1はコーエーテクモHDの損益計算書(P/L)です。
ここで注目するべきところは売上に対して、経常利益が非常に高いことです。
コーエーテクモHDの損益計算書だけ見ても、経常利益がどれだけ高いかわかりにくいので、同じゲームメーカであるカプコン【証券コード:9697】と比較してみます。
コーエーテクモHDとカプコンの比較
カプコンは「ストリートファイター」、「バイオハザード」、「モンスターハンター」など1作品で販売本数が1000万本を超えるメガヒット作品を生み出しています。
図2はコーエーテクモHDとカプコンの売上比較したグラフです。
図2を見てわかるように、カプコンの方が売上は高いです。
次に経常利益の比較(図3)を見てみます。
売上はカプコンの方が高いですが、経常利益はコーエーテクモHDの方が高い年度が何度もあります。
2024年度を比較すると、
(売上)
コーエーテクモHD:846億円
カプコン:1524億円
カプコンの方が約680億円高い
(経常利益)
コーエーテクモHD:457億円
カプコン:594億円
カプコンの方が約140億円高い
売上と比べると、経常利益の差額はだいぶ小さくなります。
では、経常利益のうち、営業利益の割合を示したグラフ(図4)を見てみます。色の濃い部分が営業利益になります。
カプコンは売上と同様に営業利益は高いのですが、コーエーテクモHDは薄い色の部分で経常利益を押し上げています。
この薄い部分を解説する前に営業利益と経常利益の違いを簡単に説明します。
営業利益と経常利益の違い
上場企業は2つの会計基準のどちらかで決算発表をします。1つは日本基準、もう1つは国際会計基準(IFRS)です。
経常利益は日本基準にありますが、IFRSにはありません。コーエーテクモHDとカプコンは日本基準を採用しているため、経常利益があります。
営業利益は本業の儲けです。ここではゲーム関連の利益になります。
経常利益は営業利益に本業以外での儲けを加えた利益です。
会社は有効活用していない資産をそのまま放置しても、お金が増えないので、リスクの少ない資産運用を行うことで、少しでもお金を増やすことを考えます。
本業以外の儲けとは資産運用などで得た儲けです。資産運用による利益を営業外収益、資産運用で使われた費用を営業外費用といいます。
図5のように[営業外収益-営業外費用]がプラスであれば経常利益は営業利益より高くなり、マイナスであれば逆に低くなります。
図4の薄い部分は[営業外収益―営業外費用]の金額です。一般的にはカプコンのように営業利益と経常利益の差はあまりありませんが、コーエーテクモHDは継続的に、経常利益が営業利益よりも非常に高くなっています。
保有資産の売却益によって、経常利益が非常に高くなることはありますが、あくまでも一過性です。しかし、コーエーテクモHDは継続性があるところに特異な収益があるといえます。
この要因はコーエーテクモHDの資産運用が優れているからです。この運用を担っているのが襟川恵子代表取締役会長です。
投資家襟川恵子の実力
襟川恵子代表取締役会長は1949年生まれで、多摩美術大学デザイン学部卒業後、夫である襟川陽一氏と光栄(現コーエーテクモゲームス)を設立しました。
彼女は経営者だけでなく、ゲームのグラフィック責任者や人事も行っています。あくまでも本業を妨げない範囲で資産運用を行っているということです。
彼女自身が初めて株を買ったのが18歳頃で、それから現在に至るまで株式投資を続けています。個別銘柄の現物株と債券を組み合わせたオーソドックスな投資手法ですが、しっかりリターンを得ています。
図6はコーエーテクモHDの投資有価証券の資産額の推移です。
実際には有価証券以外の資産運用も行っていますが、少ない金額なので、ここでは触れません。
図6から見てわかるように、確実に資産が増えています。2024年現在では1000億円を超える有価証券を保有しています。本業の合間を縫って行っているとは思えないほどの運用実績を残しています。
ゲーム関連で収益が伸びない年度では有価証券を売却して、経常利益が極端に落ちないようにしています。
すこし話題が変わりますが、ソフトバンクグループ【証券コード:9984】の孫正義会長兼社長はその業界で超一流といわれる人材を取締役によく選びます。
過去には
・藤田田(日本マクドナルド、日本トイザらス創業者)
・宮内義彦(オリックスを大企業に育て上げた元会長)
・ジャック・マー(中国のアリババグループやアントグループの創業者)
・柳井正(ユニクロを世界展開させたファーストリテイリング代表取締役会長兼社長)
・永守重信(ニデック株式会社の創業者)
などが取締役を務めていました。
最近のソフトバンクグループはAI企業に投資するソフトバンクビジョンファンドの運用を行っています。AIと投資の超一流の人材として、AIの第一人者である松尾豊と投資で優れた実績を誇る襟川恵子が取締役(2024年時点)になっています。
すなわち、孫正義も認める投資のプロが襟川恵子といえます。
図7は図4の2024年度の経常利益だけを抜粋して、説明文を加えたものです。襟川恵子の資産運用能力が一目でわかると思います。
コーエーテクモHDとカプコンの時価総額を比較してみる
コーエーテクモHDとカプコンの企業価値を投資家はどう見ているのか時価総額で比較してみます。図8はコーエーテクモHDとカプコンのバランスシート(B/S)と時価総額をまとめたものです。
総資産と純資産はかなり似ていますが、2024年度のカプコンの時価総額はコーエーテクモHDの約2.3倍になっています。
資産価値を比較しても、2倍も広がる要因は見当たりません。ただ、2024年度の営業利益は約2倍の違いがあります。経常利益だと約1.3倍なのですが、投資家は資産運用の利益を考えず、ゲーム関連の利益を重視していることがわかります。(図9)
襟川恵子がコーエーテクモHDをやめれば、図9の薄い部分がカプコンのように小さくなるリスクがあります。そのリスクを考慮すると時価総額が2倍以上離れていても、不思議なことではないような気がします。
-おわり-