昨今はTOBがかなり多くなってきており、それに伴い開示されるドキュメントの数もかなり多くなってきている。
一方、それを読む個人投資家やその他の人のリソースは有限であり、かつドキュメント一つ一つもかなり大量の文章があるため、なかなかすべてのドキュメントに目を通すことは難しい。
少し遊びのような企画だが、皆様の理解を助けるため、Bing AIに意見表明報告書を読ませて内容を要約するとどの程度要約できているのかを見てみたい。
もし100%に近いほど要約できていれば、文章をBing AIに読み込ませれば、簡単な要約となって出てくるので、読みこなす負担はかなり減るはずである。
今回は力を抜いて楽に読んでいただきたい。
意見表明報告書を開く
まずは読み込ませる対象の意見表明報告書のページをweb上で開く。とりあえず最近少し話題になっていた伊藤忠(デジタルバリューチェーンパートナーズ合同会社)による伊藤忠テクノソリューションズ(CTC)へのTOB案件を使って挑戦していく。
まずはEdgeで対象頁を開き(省力化のため打ち込んだ後日経のページが出ていたので、そこから飛ぶことにした)、Bing AIを起動する。
Bing AIを起動すると「何についてチャットしますか?」と聞かれるため、このページを要約してください、と敬語でお願いしてみた。
意見表明報告書の要約
以下にBing AIによって要約された意見表明報告書を掲載する。
ぱっとみ、内容は浅いながらもなかなかいい感じのまとめになっているように見えるが、一つずつ確認していこう。
公開買付けの目的と概要
公開買付者と当社がしっかりと定義されており、かつTOB価格も間違いなく書かれている。書き出しとしては100点を挙げてもいいのではないか。
当社の意見
次に進もう。
まず構成も概要→当社の意見という、意見表明報告書にあるべき構造をしっかりと保って要約しているため、この点もかなりポイントは高い。
次に利益相反を回避するための措置につながるが、それまでの記載についても①TOBへの賛否(今回は賛成)、②株主への応募推奨の有無、の2大論点をカバーしつつ最初に持ってきているため、構成としては100点満点を上げてもいいだろう。
一方、「本公開買付けは、当社の中長期的な企業価値向上に資するから」という理由付けはかなり甘い気がする。というより、①TOBへの賛成についての理由しか書かれておらず、なぜ株主への応募を推奨するかについての理由は触れられていない。
察するにTOBへの応募推奨をする理由は、少し後のほうに書かれておりそこまで読んでから関連性を見出し、この部分に当てはめるのが難しかったのではないか。ちなみに応募推奨の理由は本文を読むとこんな感じである。
要は大和証券とプルータスの算定の範囲内であり、プレミアムもちゃんとついているし、過去20年の最高株価と同程度だし、ちゃんと利益相反を回避する策も講じたからいいでしょ、というわけである。
Bing AIもこの辺りはもう少し厚めに触れておいてほしい。そうでないと感じんのCTCの意見をサポートする根拠について要約を見ただけではわからないが、この根拠こそが重要な要素だからである。
公正性を担保する措置
最後に公正性を担保する措置について列挙されている。
本文中P28以降にこちらの内容が記載されている。本公開買付価格の公正性を担保するための措置及び利益相反を回避するための措置等、本公開買付けの公正性を担保するための措置、というところだ。
内容を見てこう、と思ったが本案件の前提として、伊藤忠がCTCの親会社であることは記載が必要ではないだろうか。親会社ですでに株式の過半数を保有しているからこそ、公正性を担保する措置を手厚く設定する必要がある。(この点については今後意見表明報告書の解説記事にて触れる予定である。)
そのため案件の前提の箇所でもいいが、伊藤忠の持分が何パーセントで親会社にあたることを明記してから開始するべきだろう。個人的には結構な減点ポイントだ。
書いてある内容に移ろう。
最初のこちらは問題なさそうである。まず最初に特別委員会を組成したことに触れており、最初のハードルとしては超えている印象だ。
不思議なことに意見表明報告書本文では「特別委員会」というワードが使われているにも関わらず、Bing AIによる要約では「第三者委員会」というワードが使われている。確かに過去の案件では第三者委員会というワードが使われているケースもあり、直ちに違和感を想起するものではないが、なぜわざわざ使われている用語を変えてしまったのかは不思議である。
恐らく過去の何かしらを学んでそれをアウトプットしているのだろうが、Bing AIに情報を入れると意図しない形でアウトプットされる可能性を感じ、すこし使い方には気を付けるべきな気がしてしまった。
次の文章は問題ありありである。
そもそもCTCが算定を出させたのは大和証券とプルータスであり、野村證券は伊藤忠のFA、みずほ証券に至っては文中に登場すらしていない。(みずほ信託は出てくるが)しかも二つのFAからフェアネス・オピニオンをとったことになっているが、フェアネス・オピニオンを出したのはプルータスのみである。
考えてみればとても不思議である。文中にはみずほ証券は出てこず、大和証券とプルータスの記述がどこにもない。これも上記同様、過去の他案件を学習し、それをベースにアウトプットしたのだろうが、なぜ今回の本文よりも過去の案件情報が優先されるのかが不明だ。
最終的な要約の評価
これをアナリストが出してきた瞬間に、がっかりだ。
大枠としては大外しはしていないものの、細かい点でミスや間違いが多く、このままスルーして顧客に提出するレベルではないだろう。
とはいえ大枠というかまとめ方、フレームワークとしてはかなり評価できる。最初に概要を持ってきて、その次に当社の意見、という意見表明報告書の目的をまさに的確に表現している。そして非常に重要な公正性担保措置についても内容は間違っているが、カバーしようとする姿勢は見える。
なので使い方としてはアナリストが、何か文章や資料を作るときの大枠を考える際は頼ってもいいが、内容のチェックは必要だと考える。
これからもAIの成長を待ちたいと思う。