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第8章:帝国の拡張と西方への征服(1218年 - 1221年)
8.1 ホラズム遠征の序章(1218年)
モンゴル高原を統一し、金国を打ち破ったチンギス・ハンは、西へと目を向けていた。
だが、彼は戦のためではなく、まずは交易と外交 を望んでいた。
「ホラズム・シャーと手を結べば、シルクロード全体を支配できる。交易の道を開き、モンゴルの繁栄を築こう。」
1218年、チンギス・ハンは 壮大な使節団 をホラズム帝国へと派遣した。
しかし、ホラズムの地方総督 イナルチュク はこの交易団をスパイと決めつけ、全員を虐殺 した。
怒りに燃えたチンギス・ハンは、和平の最後の手段として、正式な使者団 をホラズムのスルタン、アラー・ウッディーン・ムハンマド に送った。
「オトラル総督を引き渡し、謝罪せよ。」
だが、スルタンはモンゴルの使者たちの首をはね、その頭蓋を送り返した。
「……これは、宣戦布告と同じだ。」
チンギス・ハンは静かに立ち上がった。
その目には、怒りと決意が宿っていた。
「我々が成し遂げたのは、ほんの始まりに過ぎない。」
焚き火を囲みながら、彼は腹心たちを見渡した。ボオルチュ、ジェルメ、スブタイ、ムカリといった忠臣たちは皆、静かに頷く。
「モンゴルの地は広いが、我々の力はすでにここに留まるべきではない。」
ジェルメが地図を広げ、西の地を指した。「この先にはカラ・キタイ、ホラズム、さらにはイスラムの大国がある。我々が進むには、まずこの道を開かねばならない。」
スブタイが鋭く言った。「西へ進むには、まずオイラトとキルギスの部族を従えなければならない。」
「オイラトの族長は頑固だ。」ボオルチュが低く言った。「だが、奴らを屈服させなければ、後方を脅かされることになる。」
「ならば、交渉と戦を同時に進める。」チンギス・ハーンは決然とした声で言った。「彼らが我々と共に歩む道を選ぶならば、それに越したことはない。だが、拒めば——戦で従わせる。」
オイラトとの対峙
1218年、モンゴル軍はオイラト族の領域へと進軍した。オイラトは強固な部族であり、戦士としても優れていた。
チンギス・ハーンは、彼らの族長のもとに使者を送り、従属か戦かの選択を迫った。
「我々は力による支配ではなく、共に歩む道を示す。しかし、それを拒むならば、戦いとなる。」
オイラトの族長は怒りを露わにしながら言った。「我々は誰の下にもつかぬ!」
「ならば、戦だ。」
チンギス・ハーンはすぐに軍を展開させた。オイラト族の騎兵は激しく抵抗したが、モンゴル軍の組織だった戦術の前に次第に崩れていった。
「追い詰めるのではない。」スブタイが言った。「奴らに選択肢を与え、降伏の機会を残す。」
戦闘の後、オイラトの族長はついに膝をついた。「我々はお前に従おう。」
こうして、オイラト族はモンゴル帝国に組み込まれた。
キルギスの平定
オイラトを屈服させた後、チンギス・ハーンはさらに西のキルギスへと進んだ。彼らは遊牧と定住を繰り返す民であり、戦いよりも交易を重んじていた。
「キルギスは戦よりも商いを選ぶ。」ジェルメが言った。「彼らが我々の交易網に加われば、商人たちも安心して道を行き交えるようになる。」
「ならば、戦わずに従わせる方法を考えよう。」チンギス・ハーンはそう言って、使者を送った。
使者はキルギスの族長の前で言った。「我々は、お前たちの交易を守り、敵からの襲撃を防ぐことができる。」
キルギスの族長は考え込み、ついに答えた。「ならば、モンゴルの道を受け入れよう。」
こうして、キルギスはモンゴルの支配下に入り、西方への道が開かれた。
次なる目標:カラ・キタイ
オイラトとキルギスを服従させたことで、チンギス・ハーンの帝国はさらに広がった。しかし、彼の野望は止まらなかった。
「カラ・キタイは強国だ。」スブタイが地図を指しながら言った。「奴らはかつて西遼と呼ばれた強大な勢力だが、内乱で揺らいでいる。」
「そこが好機ということだ。」チンギス・ハーンは言った。「我々が先に動けば、奴らは備えぬままに戦場に引きずり出される。」
ボオルチュが笑った。「西の戦は、ますます面白くなりそうだな。」
チンギス・ハーンは静かに頷いた。「ここからが、本当の戦だ。」
7.5 カラ・キタイの城壁戦(1218年)
モンゴル軍がカラ・キタイの要塞都市に迫ったとき、彼らの前に立ちはだかるのは、これまでの戦いとは全く異なる敵だった。
モンゴル騎兵にとって、開けた草原での機動戦は得意だった。しかし、ここではそれが通用しない。カラ・キタイの城壁は高く、堅牢に築かれ、攻め手を拒んでいた。敵軍は城壁の上から矢を放ち、沸騰した油を注ぎ、モンゴル軍の接近を阻んでいる。
厳しい環境に適応するモンゴル軍
テムジンは兵士たちを集め、静かに語りかけた。
「この戦は、これまでとは違う。持久戦になることを覚悟せよ。」
兵士たちの間に緊張が走った。今までは速攻と機動力で戦を制してきたが、ここでは敵をじっくりと追い詰めなければならない。
「まずは水と食料の確保だ。」ジェルメが地面に木の枝で戦術図を描く。「補給が途絶えれば、戦う前に我々が干上がる。」
「長期戦に備え、狩猟隊を編成する。」ボオルチュが提案した。「周囲の森で獲物を捕らえ、塩漬けにして保存する。こうすれば、兵糧が尽きるのを防げる。」
スブタイが付け加える。「夜間の寒さを防ぐために、地面に浅い穴を掘り、冷気を遮断する。直に地面に寝れば、体力を奪われる。」
「朝露を集めろ。」ジェルメが言った。「皮袋を広げ、わずかでも水の確保につなげる。」
こうした知恵を駆使しながら、モンゴル軍は城壁前での持久戦に備えた。
戦像部隊の脅威
戦局をさらに難しくしたのは、カラ・キタイの戦像部隊だった。
ある朝、見張りが叫んだ。「象だ!奴らが象を前線に出してきた!」
巨大な戦象が城門から出撃し、厚い甲冑を身にまといながらゆっくりと進軍していた。その背には矢を放つ射手が乗っている。
「馬では対抗できない。」スブタイが歯を食いしばった。「象に突撃すれば、馬もろとも踏み潰される。」
「だが、弱点はある。」テムジンが低く言った。「象は馬よりも遅く、恐れを知る生き物だ。」
テムジンは戦象を混乱させる策を練った。モンゴル軍の軽騎兵が素早く散開し、遠距離から 炎をつけた矢を放つ。戦象の皮膚は厚いが、目や耳は敏感だった。火が燃え広がると、象たちは狂乱し、隊列を乱し始めた。
さらに、モンゴル軍は 地面に穴を掘り、槍を仕込む罠を作った。暴れ狂った象たちは混乱しながら進み、その罠に足を取られて倒れていく。
「象が崩れた!」ジェルメが叫ぶ。「今が攻め時だ!」
モンゴル軍は混乱する戦像部隊に一斉に襲いかかり、次々と射手を討ち取っていった。
城塞の攻略戦
要塞の防衛は依然として厳しかった。モンゴル軍は 周囲の水源と交易路を封鎖し、城の補給線を完全に断絶した。さらに、敵の焦燥を煽るため、 夜襲や偽の攻撃を繰り返し、城内を疲弊させていった。
「敵が疲れ始めている。」スブタイが城壁を見上げながら言った。「そろそろ決着をつける時だ。」
テムジンは奇襲を決行することを決めた。
決戦の時
十日目の夜、モンゴル軍は 奇襲を装い、城門の外で小競り合いを演じた。
カラ・キタイの守備隊はこれを好機と見て、大軍を繰り出した。
「奴らが出てきたぞ!」ジェルメが叫ぶ。
「全軍、撤退せよ!」テムジンの命令が響く。
モンゴル軍は 退却するふりをしながら、敵を渓谷へと誘い込んでいった。
スブタイが丘の上から戦況を見つめ、冷静に指示を出す。
「敵が全軍で渓谷に入るのを待て。合図とともに、挟み撃ちにする。」
敵軍が渓谷に深く入り込んだその瞬間、 左右の丘からモンゴル騎兵が雪崩のように襲いかかった。
「包囲完了!」ジェルメが叫ぶ。
敵軍は完全に孤立し、逃げ場を失った。混乱するカラ・キタイ軍に対し、モンゴル軍は一斉攻撃を仕掛けた。
数時間の激戦の末、敵の指導者が捕らえられ、城門は開かれた。
戦後の統治と支配の確立
カラ・キタイの都はモンゴル軍の手に落ちた。しかし、テムジンは無駄な破壊を行わなかった。 略奪ではなく、支配の確立を優先させた。
「この地を生かす。」テムジンは兵士たちに告げた。「商人を保護し、交易を発展させる。略奪に頼る時代は終わる。」
技術者や職人たちはそのまま都市に残され、 新たなモンゴルの支配体制の一翼を担うことになった。
モンゴル軍は、ただの略奪者ではなく、 征服地を支配し、発展させる帝国の軍隊へと進化していった。
次なる戦いへ
カラ・キタイの制圧を成し遂げたモンゴル軍は、 さらなる西方へと目を向けた。
次なる標的は ホラズム帝国 だった。
焚き火の前で、スブタイが言った。
「中央アジアの覇権を握るには、さらに大きな戦が必要になる。」
テムジンは静かに頷いた。
「我々は、まだ道の途中にいる。」
砂嵐の襲来とホラズム軍の奇襲
遠くの地平線に、わずかに揺らめく影があった。
「敵か?」斥候が目を凝らす。
その瞬間、風が強くなり、砂の嵐が巻き上がった。視界が一気に奪われる。
「まずい……砂嵐だ!」ジェルメが叫ぶ。
そのとき、突如としてホラズムの騎兵が現れた。砂嵐を利用した奇襲だった。彼らは黒い布を顔に巻きつけ、視界を確保しながら疾走し、モンゴル軍に襲いかかった。
「伏兵だ!」ボオルチュが叫び、剣を抜く。
テムジンは混乱する兵たちを見渡し、冷静に言った。「陣形を崩すな。敵の方が砂嵐に慣れている。だが、風下に回り込めば、我々の目は開かれるが、奴らは砂を浴びる。」
スブタイがすぐに号令をかけた。「風下へ退く!全軍、右へ旋回!」
モンゴル軍は砂嵐の中で素早く動き、風を背にして戦う態勢を整えた。
「今だ!」テムジンが号令をかける。
モンゴルの騎馬弓兵たちは、敵の影が見えるようになった瞬間、一斉に矢を放った。ホラズム軍は、風上から吹き付ける砂に視界を奪われ、次々と矢に倒れていく。
「敵を包囲しろ!」スブタイが叫ぶ。
ボオルチュの部隊が左から回り込み、ジェルメの部隊が右を固めた。ホラズム軍は逃げ場を失い、混乱に陥る。
「潰せ!」テムジンの命令が響く。
一気に突撃したモンゴル軍の騎兵たちが、剣と槍で敵を斬り伏せた。
勝利と次なる戦いへ
砂嵐が収まり、戦場にはホラズム軍の亡骸が転がっていた。モンゴル軍はほぼ無傷だった。
スブタイが戦場を見渡しながら言った。「砂嵐を逆手に取るとは、さすがだ。」
テムジンは遠くの地平線を見つめながら言った。「ここを越えれば、ホラズムの本拠地が見えてくる。」
ボオルチュが槍を立てた。「この戦いは、まだ序章にすぎない。」
ジェルメが口元を歪めた。「次は、敵の心臓部に突き刺さる時だな。」
テムジンは静かに頷いた。「我々の進軍は、誰にも止められない。」
焚き火の炎が、砂漠の夜を照らしていた。
8.3 モンゴル軍、中央アジアへの進軍(1219年)
チンギス・ハンは 全軍を動員 し、ホラズム征服を決意した。
約 20万の精鋭 を率い、中央アジアへと進軍する。
「ホラズムの都市を 一つ残らず焼き払え。」
モンゴル軍は 驚異的な速さ でホラズムの都市へと迫った。
8.4 オトラルの戦い(1219年)—復讐の始まり
「最初の標的は、オトラルだ。」
ホラズムの総督 イナルチュク は城壁の上からモンゴル軍を見下ろしていた。
「モンゴル軍が来ようと、ここは簡単には落ちぬ!」
しかし、モンゴル軍は 完全包囲戦 を展開し、オトラルを孤立させた。
数ヶ月が経つと、城内では 食糧が尽き始め、兵士たちは疲弊 していった。
そしてある夜、裏切り者が出た。
オトラルの守将の一人が、モンゴル軍と密約を交わし 城門を開いた のだ。
モンゴル軍は 一気に城内へ突入 し、オトラルは 陥落 した。
「この男を連れてこい。」
総督 イナルチュク は捕らえられ、チンギス・ハンの前に引きずり出された。
「お前はモンゴルの商人を虐殺した。その報いを受けるがいい。」
イナルチュクは、溶けた銀を喉に流し込まれ、処刑された。
8.5 モンゴル軍、中央アジアを制圧(1220年)
オトラルの陥落を皮切りに、モンゴル軍は 驚異的な速さ で進撃を続けた。
各地の都市は 恐怖に包まれ、多くの都市が 戦うことなく降伏 した。
「だが、サマルカンドは違う。」
中央アジアの 最大級の要塞都市 、サマルカンドはホラズム帝国の中核であり、10万を超える守備兵 を擁していた。
スルタン・ムハンマドは、ここで最後の防衛戦を展開しようとしていた。
「サマルカンドを落とせば、ホラズムは終わる。」
8.6 サマルカンド攻略(1220年)—中央アジアの覇権
サマルカンドは 厚い城壁と強大な守備隊 を擁する都市だった。
モンゴル軍は 周囲を完全包囲 し、城壁を破壊する作戦 を展開した。
陽動と包囲の巧妙な罠
スブタイとジェベが率いる部隊が、スルタンの援軍を追撃 し、戦場から引き離した。
その間に、チンギス・ハン本隊がサマルカンドの包囲を完成させた。
「奴らに籠城する時間を与えるな。」
モンゴル軍は 城壁の下を掘り、爆薬を仕掛けた。
火が放たれると 城壁が崩れ落ち、モンゴル軍は突入 した。
降伏と虐殺
サマルカンドの守備隊は 降伏を申し出た。
しかし、降伏したはずの兵たちが、モンゴル兵を殺害する事件が発生。
チンギス・ハンは 「偽りの降伏は許さぬ」 とし、守備兵 5万以上を処刑 した。
サマルカンドが陥落すると、ホラズム帝国は事実上 滅亡 した。
8.7 スルタン・ムハンマド、逃亡(1220年)
「スルタンが逃げたぞ!」
ホラズムのスルタンは 南へと逃亡 し、イランの都市を転々とする。
「モンゴル軍は、どこまでも追ってくる……!」
やがて彼は カスピ海の孤島 に追い詰められた。
「すべてが終わった……。」
スルタンは 孤独のうちに病に倒れ、死を迎えた。
ホラズム帝国は、完全に 歴史から消え去った。
8.8 ホラズム遠征の終結(1221年)—世界征服の序章
中央アジアの 完全制圧 に成功したモンゴル軍。
「これで終わったな。」
ボオルチュが呟く。
しかし、チンギス・ハンは 次なる戦場 を見据えていた。
「いや、次の戦いが始まる。」
彼の次なる標的は、中東、そしてヨーロッパ だった。