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Nu Holdings ($NU) 3Q2024 決算レビュー

Nu Holdings(以下Nuと表記)は、ブラジルを拠点とする世界最大級のデジタル金融サービスプラットフォームです。革新的なテクノロジーと顧客中心のサービスを提供し、個人や中小企業にシンプルで使いやすい金融ソリューションを提供しています。その成長は目覚ましく、ラテンアメリカを中心に急速に顧客基盤を拡大しています。


決算サマリー

2024年11月13日に発表された3Q2024決算は、目覚ましい成長と収益性の向上を示す、非常にポジティブな結果となりました。

  • 売上高は29.4億ドルで、28.5億ドルのコンセンサス予想を上回りました。

  • 調整後1株当たり利益が0.11ドルで、アナリスト予想と一致しました。

顧客基盤は1億970万人に拡大し、収益は前年同期比56%増(FXニュートラルベース)の29億ドルに達しました。
純利益、調整後純利益も大幅に増加し、ROEは30%を突破。コスト管理においても効率化が進み、将来の成長への期待を抱かせる決算と言えます。

しかしながら、リスク調整後NIMの低下やPIX融資の減速、クレジット・カード事業の伸び悩みなど、留意すべき点も存在します。
今後の注目ポイントとしては、これらの課題に対する経営陣の戦略や、新規事業の収益化に向けた取り組みが挙げられます。

ポジティブな側面

顧客基盤の拡大

グローバル顧客数は1億970万人に到達し、前年同期比2070万人増と驚異的な成長を遂げています。
特に、ブラジルでは成人人口の56%をカバーし、1億人を超える顧客基盤を確立しました。
アクティブユーザー率は84%と、顧客エンゲージメントの高さを示唆しています。

Continued Growth of One of the World's Largest Digital Banking Platforms

メキシコとコロンビアでも顧客数を順調に伸ばしており、それぞれ890万人、200万人と海外市場での成長が加速しています。

  • ブラジル🇧🇷

    • 顧客数が前年同期比で18%増加し、9,880万人に到達。

    • ブラジルの成人人口の56%を占める規模で、Nuを主要銀行口座(PBA: Primary Banking Account)として使用する月間アクティブ顧客の60%を占めています。

  • メキシコ🇲🇽

    • 四半期で120万人の新規顧客を獲得し、総顧客数は890万人に。

    • 預金利回りを向上させる戦略が成功し、国の主要デジタル金融プラットフォームとしての地位を強化。

  • コロンビア🇨🇴

    • 顧客数が200万人に達し、「Nu Cuenta」プロダクトの導入による勢いを維持。

      • Nu Cuenta:送金と決済機能を持ち合わせたデジタル銀行口座

収益性の向上

収益は前年同期比56%増(FXニュートラルベース)の29億ドルに達し、過去最高を更新しました。

  • クロスセルとアップセル戦略の成功、新製品の導入が収益成長を牽引しています。

  • 粗利益は前年比67%増(FXニュートラルベース)の13億ドルに達し、粗利益率は45.8%と高い水準を維持しています。

  • 純利益は前年同期比107%増(FXニュートラルベース)の5億5,340万ドル、調整後純利益は前年同期比89%増(FXニュートラルベース)の5億9,220万ドルと大幅に増加しており、収益性の高さを示しています。

  • 自己資本利益率(ROE)は30%に達し、調整後ROEは33%とさらに高い水準を達成しています。

コスト効率の改善

顧客一人当たりのコスト(コスト・トゥ・サーブ)は0.8ドルと低水準を維持し、収益性の向上に大きく貢献しています。
特に、顧客サポートとオペレーションコストの削減が進んでいることが伺えます。


効率性指標(*)も31.4%と前四半期から60bp改善、前年同期比では360bp以上の大幅な改善を示し、規模の経済が働き始めていることが伺えます。

(*)効率性指標:総運営費用と取引費用を、純金利収益(NII)と手数料収益(F&C)の合計で割った比率です。この数値が低ければ低いほど、より効率的に利益を生み出していることを意味します。

ポートフォリオの成長と多様化

預金残高は前年同期比60%増(FXニュートラルベース)の283億ドルに増加し、安定的な資金調達力を示唆しています。特に、メキシコとコロンビアにおける預金残高の伸びが顕著です。


与信ポートフォリオ(Nuが顧客に対して提供している「お金を貸す」サービス全体のこと)は前年比47%増(FXニュートラルベース)と大きく成長し、特に貸付(Lending)ポートフォリオは前年比97%増(FXニュートラルベース)と急成長しています。
これは、Nuがクレジットカード事業だけでなく、ローン事業の成長にも力を入れていることを示しており、今後の収益源の多角化に繋がる可能性を秘めていると言えるでしょう。
一方で、クレジットカードよりも高金利で提供されることが多いローン事業の急成長は、収益性の向上にも貢献する可能性がありますが、同時に与信リスク管理をより徹底する必要性も高まります。


金利収入(Lending + Credit Card IEP)ポートフォリオも81%増(FXニュートラルベース)の112億ドルに成長しました。

IEPとは、Interest-Earning Portfolioの略で金利収入を表します。

担保付きローンの組成が総ローン組成(担保付きローンと無担保ローンの合計)の16%を占めるようになり、リスクの低減にも貢献しています。
例えば、自動車ローンなら自動車が担保になり、住宅ローンなら住宅が担保になるローンが「担保付きローン(Secured Lending)」なので、その割合が上がることはNuの与信ポートフォリオ全体のリスクが低減することに繋がります。


FGTS担保付きローンは、Nuの担保付きローン組成全体の50%以上を占めており、新規組成の市場シェアは25%を超えています。
FGTS(Fundo de Garantia do Tempo de Serviço)とは、ブラジルにおける勤続年数補償基金のことです。従業員が退職する際などにこの基金からお金を受け取ることが出来ます。逆にいうと退職時までは使えないお金なのです。そのためNuにとってはFGTS担保付きローンは回収可能性の高い債権といえます。

新規事業領域への展開

NuCel(通信サービス)の立ち上げ、NuMarketplace、NuTravel、NuPayの開発など、金融サービス以外の分野にも事業を拡大しており、将来的な収益源の多角化と顧客の囲い込みに繋がることが期待されます。

ネガティブな側面

収益性の低下懸念

ネット・インタレスト・マージン(NIM)が140bp低下し、18.4%になったことが、今後の収益性を考える上で懸念点として挙げられます。
NIMとは、貸付や投資などの運用によって得た金利収入から、預金や借入などの資金調達にかかった金利費用を差し引いた利益(純金利収入)の割合を示します。

平たくいうと、NIMの低下は、Nuの金利収入から調達コストを引いた利益の割合が減少していることを意味します。

これは、担保付きローン(無担保ローンに比べ低金利での貸付となることが多い)の増加、メキシコとコロンビアでの資金調達コストの上昇が主な要因であり、今後のNIM回復戦略に注目する必要があります。

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